あの日、あの時、あの場から~人生は出逢いで決まる⑩~

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渋谷ジャン・ジャン


渋谷のジャン・ジャンをご存知の方も多いと思います。

インターネットで調べると・・・、

東京都渋谷の東京山手教会地下に1969年7月から2000年4月まで存在した小劇場。

内部は大変狭く、舞台の左右に観客席があるという変則的なスタイルが特徴で、文字通りアンダーグラウンド芸術の発信地として機能してきた、
とあります。

 

高校最後の文化祭の出し物で、「授業」という演劇を上演することになり、まずは、その本物の「授業」を観てみないことには・・・、ということで、主役を務める私と他の2人の配役と、演出役の「オタク」君の生徒4人で、夜の渋谷の街に繰り出したのは、夏休みに入って間もなくの時期だったと思います。

 

さてここで、眼を患って、碌に教科書も読めない私が、どうしてそんな台詞の多い大役を引き受けることになったのか?
ということについて、少々、言い訳をしておきます。

 

配役等を決めたのは、夏休みに入る前でした。

他のクラスメートたちは、既に受験モードに入りつつあり、正直、文化祭、それもなんだかよくわからない「授業」という演劇をするということに対して、決して積極的ではなかったと思います。

まして、配役決めという時には、腰の引けている者が大多数だったと思います。

できれば、あまり関わりたくないと・・・。

 

案の定、配役決めは難航しました。

その時、既に私は眼がおかしくなっていました。

しかし、「じゃ、俺で良ければ・・・、やるよ・・・」。
反対する者は一人もおらず、すんなり私が主役をやることに決まりました。

 

カッコつけたかったのでしょうか?
そういう気持ちとは、ちょっと違っていたと思います。

勉強が手につかなくて、ヤケになったから?
それも少し違う感じです。

その時点で、「この眼は、相当かかるんじゃないかな」という嫌な予感が正直ありました。

このままだと、現役合格も・・・、
そんなことも頭のどこかによぎっていたと思います。

 

なので、私としては、勉強以外のことで何かに打ち込みたかった、「勉強しなきゃいけない。でもこんな状態じゃ無理だよ。」

 

ということに対する言い訳探しだったのかもしれませんが、それ以上に、思うように勉強ができないのであれば、せめて、高校生活の最後の思い出として、何かを残したいな、という強い思いが、後先考えずに、無謀にも主役に立候補してしまった理由だったのかもしれません。

今、振り返ると、そんな心理状態だったのではないか、と思います。

 

配役が決まってから、演出を担当する生徒から、台本をもらいました。

すると・・・、

唖然!呆然!愕然!慄然!!!

台詞の十中八九が主役である教授、すなわち私の台詞なのです。

ほとんど、一人芝居と言ってもよいぐらい。

しかも、一つ一つの台詞の長くて、難解なことと言ったら・・・。

それもそのはず、不条理を描いている劇なのですから、
台詞が難解というよりも、そもそも意味不明なフレーズのオンパレードなのです(´;ω;`)ウゥゥ。

 

こんなの、どうやって覚えるんだ???(眼が痛いのに、大丈夫かなぁ・・・)

でも、今、渋谷のジャン・ジャンという所で上演しているらしいから、とにかく一回観てみよう、ということで、出演仲間と渋谷に向かったのです。

 

その日は、7月下旬か、8月上旬の金曜日の夜だったと思います。

というのは、当時、渋谷のジャン・ジャンでは、俳優の中村伸郎さんが毎週金曜日の夜に「授業」を演じ続けていたらしいのです。

今調べると、中村伸郎さんは「1972年より11年間にわたって、ウジェーヌ・イヨネスコ作の『授業』を毎週金曜日夜に渋谷の小劇場ジァン・ジァンで欠かさず上演し、伝説となった。」とあります。

 

演劇というものに対して疎く、何の予備知識もない私は、そんなこともつゆ知らず、滅多に行ったことのない渋谷の街の夜の景色に、眼をキョロキョロさせながら、ジャン・ジャンへと向かいました。

 

観劇後・・・。

これまた、唖然!呆然!慄然!・・・

「これを俺が演じるのか?」

しばし、言葉が出ませんでした。

 

(つづく)

 

【参照】

このブログを書きながら、いろいろと懐かしくなり、待てよ、ひょっとしてYouTubeか何かに、「授業」があるのではないか?
と探したところ・・・、

ありました!!!


しかも、私たちが観劇した日から約1年後の、昭和52年9月14日、
中村伸郎さんの69歳の誕生日の日の上演の収録とのこと。

 

残念ながら、映像はなく、音声だけの録音ではありますが、狂気と不条理が交錯した、異常な「教授」の雰囲気は、十分伝わると思います。

よろしければ、ご覧ください。

 

(前半)

 

(後半)