創作読物 2「筋肉のロックの4段階」

 

前回は、こちらから

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「寝た子が起きる?」

「はい、さっき言ったように飯塚さんの右足の筋肉はもともと左よりは強いので、

 左足以上にこれまで耐えて来た。

 耐えて来たというのは、痛みとかしびれとかの症状も出なくて、

 つまり、ご自分では右足や右膝なんて何も悪くないと思っていらした。

 そうじゃないですか?」

「はい、そのとおりですね。」

「でも、前回初めて施術した時に、左足だけでなく、右足の筋肉も

 かなりロックしてたんですよね。

 なので、かなり丁寧にロックをはずす施術をしたんです。

 ロックをはずすとは、要は筋肉を緩めて、本来の姿に戻す

 ということなんですけれど…。」

「そうですか。でも、それでなんで右足がだるくなったんですか?」

「普通、痛いところがあると、かなり悪い状態、悪化した状態って

 思いますよね?」

「ええ、左膝が痛くなった時に、そう思いました。」

「でも、筋肉のロックの程度は、我々は4段階で考えていまして…、

 その4段階のうち、痛いというのは、実は一番レベルが低い、

 つまり程度が軽い、と捉えているんですよ。」

「え?そうなんですか?痛いのは軽傷ということなんですか?」

「ええ、そうなんです。」

「じゃあ、一番悪い状態は、どういう状態なんですか?」

「どういう状態だと思います?」

「えっー、ちょっとわからないです。」

「今言ったように、痛いのは一番軽くて、

 次に重いのが、筋肉を押された時に、痛気持ちいいと感じる場合。」

「そうなんですか?なんか押されて気持ちいいのは、

 痛いのより軽い感じがしますけどねぇ。」

「そうですね。そして3番目に重い状態が、押すとくすぐったい場合。」

「くすぐったいのは、悪いんですか?状態が。痛いのより?」

「意外でしょう?でも、そうなんです。筋肉のロックがかなり進むと、

 外から触られるのが嫌で、身体がよけるような反応をするんですね。

 それがくすぐったいと感じるんですよ。」

「へえー、なるほど。

 でも、そう言われると、前回、左足をやってもらった時は、

 ほうぼうが痛かったけど、 右はむしろくすぐったい感じがしたかなぁ…。

 それで、一番悪いのは?」

「一番悪いのは、押しても、ウンでもなければスンでもない。

 つまり、何も感じない状態です。」

「なるほどー。それだけコチコチになってるってことですか?

 でも自分ではわからないということですか?」

「そうですね。押しても特に何も感じないんですから。

 でも私たちは押したときの指の感覚で、ああ、これはかなり来てるな、

 とわかるんですよ。なので、お客様が何もおっしゃらなくても、

 そういう時はちゃんとそこを緩める施術をするんです。

「そうなんですか…。私にもそういう場所がありましたか?」

「ありましたよ。どこだか当ててみてください(笑)。」

「左足?でなくて右足か?」

「そう、当たりです(笑)。」

「そうだったんですね。

 どうりで痛い左よりも右足に時間をかけてたんですね。」

「はい。何も感じなかったり、くすぐったかったりした右足も、

 施術をして、その直後に同じ場所を押すと、

 今度は痛いとおっしゃってましたよね?」

「そうでしたっけ?もう覚えてないです(笑)。」

「そうですか(笑)。

 つまり施術して筋肉が緩んだことで、かなり悪かったレベルが、

 少しレベルダウンして痛みを感じるようになってきた、

 ということなんですよ。」

「そっかぁ、そういうことなんですね。

 じゃあ、ここ数日、右足がだるく感じているのは、

 むしろいいこと、ということなんですか?」

「施術の効果が現れている、ということかと思います。

 なので、今日さらに施術すれば、もっと良くなって、

 痛みが消えたり、薄らいだりすると思いますよ。」

「なるほど、それで、いい意味で寝た子が起きて来た、

 とおっしゃったんですね。」

「はい、そういうことです。」

「なるほど。なんか奥が深いというか、不思議ですね!

 このミオンパシーって。」

「そうですね。

 大切なのは、痛みが出ているのは結果的な症状であって、

 必ずしも原因がそこにあるわけではない、ということですね。

 ミオンパシーは、その大元の原因を探し当てて施術することで、

 完治、根治を目指すということがすごいところですね。

 自分で言うのもなんですが…。」

「じゃあ、私の左膝の痛みも、原因は左膝ではなくて右足にあると?」

「おそらく、そうだと思います。

 でも、もしかすると、その右足のだるさの原因も、

 また別の所にあるのかもしれませんが、

 そうやって疑わしいところを一つ一つ丁寧につぶしていくことで、

 一番の震源地に行きつくと思いますので、

 何回かは施術を受けてもらったほうがいいですね。」

「そうなんですね。

 でもなんか、世間的には肩が痛ければ肩をもんだり、

 叩いたりっていうのが治療という考え方が一般的ですよねぇ?」

「ええ、そうですね。」

「でも、それだと対症療法で、完治は難しいと…。」

「そうですね。大事なのは、結果に着目するのではなくて、

 その結果をもたらしている原因をさぐって、そこからアプローチする、

 ということなんですよね。それが完治への道ですね(笑)。

 でも世間では勘違いしてるわけです(笑)。」

「なるほど…。え?今のはシャレですか?」

「あ、いえいえ。おやじギャグです(笑)。」

「原因は、今症状が出ている所とは別にある、ということですかぁ…。

 別にある…。」

「どうかしましたか?」

「あ、いや、大丈夫です。」

「では、施術していきますので、まずはうつ伏せでお願いします。」

「はい、お願いします。」            (つづく)

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