創作読物 10「物事にはタイミングが」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「あ、すいません。

 私のほうでだいぶしゃべっちゃって。」

「いえいえ、とても面白かったです。ありがとうございました。」

「この続きは次回、ということでよろしいですか?」

「そうですね。

 今日みたいに、また施術の後に、ということで大丈夫ですか?」

「あ、はい。

 ちょっと予定を見てみますね…。

 えー、はい、今日と同じ時間帯なら大丈夫ですよ。」

「では、来週の月曜日、午後1時ということで。」

「わかりました。ご予約を入れておきますね。」

「はい、よろしくお願いします。」

「それから、飯塚さん。」

「はい?」

「今日、ここに来てることは、どなたかご存知ですか?」

「…いえ、黙ってきました。

 というか、陽香と主人は、私が整体に通ってることは

 知ってますが、先生に陽香のことを相談してるってことは 

 二人には言ってないので…。」

「そうですか…。

「黙って、というのは何か理由がありますか?」

「…いえ、特には…。

 ただ、やはり陽香には言い難いし…、

 主人にはもっと言い難いですね。なんか怒られそうで(笑)。」

「ご主人に言ったら、ほんとに怒られちゃいますかね?」

「うーん。怒るというか、たぶん、かなり不機嫌になると思います。」

「例えば、家の恥をさらして…、とかおっしゃるんですかね?」

「ええ、そうですね(笑)。

 体面をとても気にする人ですので…。」

「そうですか…。

 陽香さんには、なんで内緒なんですか?」

「うーん、やはり、言い難いというか…、でも…、

 ほんとは、そういうのもちゃんと話せなきゃいけないんですかねぇ?」

「どう思われます?」

「それは、話せたほうがいいとは思いますけど…、

 今は、ちょっと…、まだ、無理かな…。」

「そうですか。

 物事にはタイミングがありますからね(笑)。

 ただ、そのタイミングって、意識して計らないと、なかなか…、ね。」

「そうですね…。」

「というのは…、いずれは陽香さんも、ここに来られないかなと、ね。」

「そうですね、そうなってくれると良いと思います。」

「まあ、そのあたりのタイミングは、またご一緒に探って行くとして、

 ただ、どうですか?今日、ここで私とやり取りして、

 これからご自宅に帰られるわけですけど…、

 お家には陽香さんが居ますよね?」

「そうですね…。

 うん、なんか、先生とお話しながら思ったのは、

 陽香の不登校の本当の理由、原因って、何なんだろうって…。」

「そうですか。」

「いや、でもまだ、全然わかんないんですけど…。」

「ただ、これまでとこれからとでは、

 陽香さんへの見方というか、接し方が少し変わるかも?」

「そうかもしれないですね。

 ちょっと距離を置くというか…、

 いや、冷たく突き放すということではなくて、ね。」

「ええ、ええ。わかってます。」

「陽香の様子や言うことを、今までよりはちょっと違う角度から

 見るというか、考えるというか…。」

「そうですね。

 それって、お母さんの中に変化が起こった。

 あるいは、これから起きる、というきっかけになるかも、ですね。」

「そうですね。

 ちょっと、いろいろと考えるきっかけにはなると思います。」

「じゃあ、陽香さんを観察する、というのではないですけど、

 向こう1週間、お母さんの眼に、陽香さんがどう映ったか、

 それを今度いらした時に、お話いただけますか?」

「あ、はい、わかりました。」

「はい、では、そういうことで、

 来週の月曜日、1時にお待ちしてますね。」

「はい、わかりました。

 どうもありがとうございました。」

「はい、では、お気をつけて。

 さようなら。」

「はい、さようなら。

 失礼します。」

(つづく)

 

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