創作読物 21「今はやりの忖度ってことですか?」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「学校は、子どもたちを育てる所。

 これって、当たり前なことですから、これに異議を唱える人は

 あまりいないんですけど…、

 ここ最近は、この当たり前が崩れるようなことがたくさんある

 じゃないですか。」

「体罰とかですか?」

「そう、教師による体罰とか、言葉の暴力とか、ね。

 あるいは、教師による教師に対するいじめとかもね。」

「ああ、そうですね。

 あれは何というか、もう、信じられないですよね。」

「それだけでなくて、ここにきてまた厳しすぎる校則ってのも

 話題になりますよね?」

「え?そうなんですか?」

「あ、ええ、そうなんですよ。

 私が高校の教師になった頃は、茶髪はもちろん論外で、

 パーマも禁止でしたから、天然パーマというか、

 生まれつき癖っ毛の生徒は、なんと天然パーマであることを

 証明する文書を、学校が親に提出させたりね。」

「え?そんな校則があったんですか?」

「ええ。」

「あー、そう言えば…、

 私のクラスに1人、癖毛のひどい子がいて…、

 その子、それをからかわれるのが嫌だって、

 ある日、ストレートパーマをかけて来たんですが…。

 それって、もしかしたら、学校に証明書出すのが

 嫌だったのかもしれませんね…。

 今思えば…。」

「そうですか。

 もしそうだとしたら、変な話ですよね、それって。

 天パー届なんて…、

 あ、天然パーマ証明書をこう略してたと思うんですけど、

 これって、今だったら人権侵害で完全にアウトですが、

 でも、当時はそれが当たり前だったんですよね。」

「確かに今だったら、文句言う親が多いでしょうね。」

「中学校も、丸刈り、つまり坊主でないといけない学校は、

 特に地方では多かったですよね。」

「そうなんですね。」

「でも、今言ったように、それが当たり前の時代でしたから、

 学校や教師の言うことに対しては、

 子どもはもちろん、親も学校の言うがままというか、

 異議を唱える人は、ほとんどいなかったと思いますよ。」

「そうかもしれませんね。」

「いや、ほんとはおかしいと思う親や教師も居たのかもしれない、

 いや、居たんだろうと思いますけど、

 少なくとも表立ってそれを言える人は居なかったでしょうねぇ。」

「そうなんですか。」

「それ、なんで、言える人が居なかったんだと思います?飯塚さんは。」

「…いやあ、ちょっとわからないです。」

「一言で言えば…、それは同調圧力ってやつですよ。」

「え?何ですか?その同調…何とかって。」

「ええ。

 つまり、少数意見の人が、多数の人と同じように考えたり、

 行動したりするように、暗黙のプレッシャーを受けて、

 結局は、自分の意見や考えを押し殺すようになってしまうことですよ。」

「今はやりの忖度ってことですか?」

「あ、いや、忖度ってのは、むしろ自分から進んでそうすることで、

 同調圧力ってのは、文字どおり圧力ですから、自分の意に染まないことでも、

 そうさせられちゃうってことですね。」

「それって、なんか悔しいですねぇ。

 辛いと思いますけど。」

「でも、悔しい、辛いって思ってるうちは、まだいいんでしょうけど、

 繰り返されるうちに、だんだんそれも麻痺してくるというか…。」

「そうすると、結局、長いものに巻かれるようになっちゃう、

 ということですか?」

「そうですね、残念ながら。」

「なんか…、人って弱いですねぇ。」

「そうですね。

 つまり、校則に話を戻すと…、

 確かに、なければいけない規則もあるでしょうけど、

 変な校則って言うんですかね…、

 冷静に考えれば、決して当たり前じゃない校則って結構あって、

 それって結局、強者が弱者をいじめるようなもんなんですよね。」

「学校が生徒をいじめてるということですか?」

「つまり、学校やその校則の下で生徒指導してる教師って、

 生徒にとっては、やっぱり結局は絶対的な強者であって、

 生徒はやはり立場の弱い弱者なんですよね。」

「なので、弱い者いじめしてると…。」

「うーん。

 もちろん、生徒のことを思って、

 誠心誠意働いてる教師の方が、数としては多いと思いますが、

 中には、そうでない教師も…、

 つまり、生徒を追い詰めてしまう人もいるのでね。」

「まあ、先生もいろいろと…、と言うか、

 いろんな先生がいますからねぇ、実際。」

「そうですね。

 でもまあ、厳し過ぎる校則ってのが、マスコミなんかで

 取り上げられてから、徐々にそうした理不尽というか、

 人権侵害的な校則は、姿を消していったんですけど…。」

「けど?」

「ええ。

 なんか、また最近になって、蘇ってるというか…、

 まるでゾンビのように、地中から這い出て来てるというか。」

「え?そうなんですか?」

「だから、変わってないんですよ、結局は。

 考え方というか、やり方が。」

「そうですかぁ。

 なんか、よくわかんないですねぇ。

 なんでそうなっちゃうんですかねぇ?」

 

(つづく)

 

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