創作読物 37「何でも極めるってのは、いいこと」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「そう?

 でもこれ、もうだいぶ昔の話で…、かれこれ40年も前の…、

 しかも、私の…、というか私の友達の話だから、

 ところどころ、記憶も曖昧なんだけどね…。」

「ええ。」

「その友達は、栃木県の佐野市って所の出身で…。

 あ、佐野市って、佐野ラーメンで有名な所ね。

 知ってる?」

「あ、佐野ラーメン、もちろん知ってます。

 大学の時に、友人と車で東北旅行行った時に、

 わざわざ途中でちょっと寄り道して、食べましたよ、佐野ラーメン。

 太い竹と太もも使って、上手に麺を延ばすんですよね?」

「あ、そうそう。

 ちぢれ麺で美味しんだよね(笑)。」

「ええ、なんか、喜多方ラーメンっぽくて、

 美味かった記憶があります。

 なんと言っても、あの麺の腰の強さは、

 竹打ちだからこそなんでしょうね。」

「へえー、

 あれは竹打ちって言うんだ。

 平井さんはラーメン通なんだねぇ。」

「ええ(笑)。

 案外眼がないんですよ(笑)。」

「え?

 じゃあ、行列と言うか…、

 並んでも食べるって感じ?」

「まあ、そうですね(笑)。

 ちょっとぐらい遠くても、

 評判の店があれば、行っちゃうほうですね。」

「へえー、そうなんだ。」

「なので、一時期、友人たちはみんな僕のことを、

 人類でなくて、麺類って呼んでましたよ。」

「そりゃまた、懐かしい言い回しだねぇ(笑)。」

「そうですね(笑)。」

「あ、ごめん。

 で、話を戻すとね…。」

「あ、すいません。

 ラーメンの話になると、ついつい興奮してしまって(笑)。」

「意外な一面だね(笑)。

 でも、何でも極めるってのは、いいことだよ。」

「そうですかね(笑)。

 でも、まだまだ極めるってのには、程遠いですけどね(笑)。」

「そっか。

 でね、話を戻すと…、

 その私の友達ってのは、大学受験を一度失敗して…、

 まあ、浪人中に自分の小遣い稼ぎと復習も兼ねて、

 近所の中学生の家庭教師をしたんだよね、中3の男子のね。」

「ええ。」

「ところがね…、

 やり始めてわかったんだけど…、

 その子、不登校生だったんだよね。」

「はあ、そうなんですか。」

「でも、当時はまだ不登校って言葉、使ってなかったんじゃないかな。

 登校拒否とか、学習を怠けると書いて、怠学とか…、

 学校恐怖症なんてことも、一部では言ってたかな。」

「学校恐怖症なんて言い方もあったんですねぇ。」

「まあ、いわゆる不登校ってのは、とても複雑だから、

 1つの言葉で言い表すってのは、難しいというか…、

 そういう意味では、あまり言葉遣いは関係ないんだろうけど…、

 とにかくその子は、中3になってからは、週に一回行けばいいぐらいで…。」

「なるほど。

 で、その先生の友達はどうされたんですか?」

「あ、うん。

 彼も私と同じで、将来は教師になろうとしてたんでね…、

 まあ、余計熱心というか…、一生懸命その子の面倒を見たんだよ。」

「そうですか。

 で、どうなったんですか?その子は。」

「ああ。

 じゃあ、その子は仮にM君としておこうか…。」

「M君ですかぁ?」

「うん、そう、M君。もちろん、問題児のM君じゃないよ(笑)。

 でね、そのM君の勉強の面倒を見るうちにね、

 まあ、当然、勉強だけでなく、いろんな話に及ぶでしょ?」

「そうでしょうね。」

「勉強だけ教えてれば、それでいいんだろうけど、

 彼も教師志望だったんで…、つい力が入っちゃうというか…、

 生活面の指導も、って感じでね(笑)。」

「なるほど。」

「いや、何回かM君の家に行くうちに、

 だんだんわかってきた、というか…、

 なんか変だな?って思うことがあったらしくてね…。」

「ええ。」

「きっかけは…、

 M君の部屋とか、家の壁とかにね、

 なんでこんなところに大きなカレンダーとか、

 タレントのポスターとかが貼ってあるんだろうと思ってたらしいんだけど…、

 それが、ある時、換気しようとして、M君の部屋の窓開けたら、強い風が吹いて…、

 で、カレンダーがめくれて…。」

「ええ。」

「そしたら、見えちゃったんだって、

 壁に大きな穴が開いてるのをね。」

「それ、M君がやったんですか?」

「うん。

 聞いたら、照れ笑いしてたらしいから、

 たぶん、M君がやったんだろうね。」

「自分の部屋だけでなく、家じゅう穴を開けてたってことですか?」

「だね。」

「それ、もちろん親は知ってたんですよね。

 M君が自分でポスターとかで隠したとも思えないし…。」

「うん、もちろん、知ってたと思うよ。

 いや、知ってたっていうか…、

 M君の拳は、そのお母さんに向かってたらしいから。」

「家庭内暴力ってやつですか?」

「うん、ただ、正確に言うと…、

 お母さんを殴る代わりに、壁やふすまに拳を叩きつけてたらしいんだ。」

「え?

 それはどういうことですか?」

「うん。

 まあ、友達もそのあたりのことを聞こうとしたんだけど…、

 M君はなかなか語らないというか…、

 ただ、ちょうど、友達が家庭教師始めた頃から、

 M君が、無断外泊と言うか…、

 夜家を出て、朝になっても、ずーと家に帰ってこないということが何度もあってね。」

「はあ…。

 M君、どこで何してたんですか?」

「うん。

 どこで何してたかは、実際、M君に聞くまではわからなかったらしいけど…、

 友達はいろいろと考えた…、というか、推理したらしいんだよね。」

「どんなことをですか?」

「うん。

 M君には、おそらく一晩中置いてくれるような、親しい友達はいないはず。

 だから、たぶん単独行動だろうとか…。

 それから、家を出るときは、いつも自転車だったらしいから、

 そうそう、遠くまでは行ってないはず、とか…。」

「なるほど。

 なんか、推理小説みたいですね。」

「あと、M君の父親は工場で働いていたので、

 変則勤務っていうか、夜勤があったりするんだけど…、

 M君が家を出る日は、父親が夜勤ではなく、

 夜8時頃に帰ってくる日なんだよね、いつも。

 父親が帰る直前に、出ていくって感じで…。」

「へぇー。

 そのお友達って、まるで探偵みたいですねぇ(笑)。」

「うん、そうなんだよ。

 で、探偵よろしく、友達はあることを思いついたんだ。」

「え?

 なんですか?それは。」

 

(つづく)

 

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