創作読物 38「ご自由にお入りください」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「なんだと思う(笑)?」

「今、ちょっと先生笑ったから…、

 なんか、変なことしたんですかぁ?」

「まあ、笑っちゃうよね。

 尾行だよ、尾行。」

「え?

 尾行?

 M君のこと、尾行したんですか?」

「そうそう(笑)。

 笑えるでしょ(笑)。」

「でも、どうやって?」

「うん。

 M君が家を出るのを、近くで確認した後、

 自転車で後を追ったんだってさ(笑)。」

「なんか、刑事ものの見過ぎって言うか(笑)

 でも、自動車でなく、自転車でですか(笑)?」

「そう。

 だって、田舎だもん。

 自転車は万能だからね(笑)。」

「まあ、そうかもしれないけど…、

 すぐ見つかっちゃったんじゃないですか?」

「うん。

 500メートルもいかないうちに、バレたらしい(笑)。」

「で、どうしたんですか、友達は?」

「うん。

 見つかった途端、

 なんか、恥ずかしくなったというか…、

 照れ隠しの裏返しで、M君を思いっきり叱ったらしい。

 バカ!何やってんだって(笑)。

 でも、なんか、自分に言ってる気がした、と言ってたよ(笑)。」

「へぇー。

 でも、なんか、こう言うと申し訳ないけど、

 滑稽と言うか…、面白いですねぇ(笑)。」

「そうだよね、やっぱり。」

「で、その後はどうなったんですか?」

「うん。

 M君も、別に逃げるというわけでもなかったんで、

 近くの小さな公園みたいな所に行って、しばらく話したらしい。」

「M君は、どこに向かってたんですか?」

「うん、それがね、笑っちゃうんだけど…ね、

 あのう、ハウジング何とかって言うね、

 近くの住宅展示場だったんだよ。」

「え?

 まさか、そこで寝泊まりしてたってことなんですか?」

「その、まさか、らしい。」

「だって、夜なんか、入れるんですか?」

「まあ、昔のことだし、田舎だしねぇ(笑)。

 で、友達も聞いたらしいよ、どうしてそんな所に入ったんだと。」

「そしたら、M君は何て?」

「何て言ったと思う?」

「えー、わからないけど…。」

「だって、ご自由にお入りください、って書いてあったから、だって(笑)。」

「えー!

 なんと(笑)。

 でも、それは笑えるというか・・・、

 確かに書いてはあるんでしょうねぇ。展示場ですから(笑)。」

「確かにね。

 でも、笑っちゃうでしょ(笑)。」

「ほんとですね(笑)。

 でも、住宅展示場って言っても、ガスや電気は使えるんですかね?」

「いや、ただ黙って、暗いまま、寝てただけみたい。

 まあ、季節も夏で、寒くはなかったからねぇ(笑)。」

「いやあ、でも、これは笑い話ですねぇ。」

「ほんと(笑)。」

「で、それから、どうしたんですか?」

「まあ、友達は、それなりにお説教して…、

 で、二人とも腹が空いてたらしく、

 近くのラーメン屋に行ったらしいよ。」

「お!ラーメン屋ですか。」

「うん。

 M君が美味いラーメン屋があるから、って言うんで、

 ついて行ったみたいだけど…、

 それが、よく見かけるチェーン店でね。

 M君のお勧めは、味噌ラーメンだったから、

 それ食べたらしいけど…、

 決して美味くはなかったと(笑)。」

「え?そうなんですか?」

「うん。

 友達は、M君の味覚を疑ったらしいよ(笑)。

 でも、その尾行のお蔭というか…、

 それがきっかけで、友達とM君は随分いろんな話ができるようになって…。」

「へえー、そうなんですね。

 それは、お友達の熱意と言うか…、熱心の賜物ですかね。

 だって、普通思いつきませんよ、尾行するなんて(笑)。」

「そうかね(笑)。

 まあ、友達も必死だったんだろうけどね。」

「で、M君とはどんな話を?」

「うん。

 その翌日に、時間かけて、M君の考えというか、気持ちを聞けたみたい。」

「やはり、父親との関係が悪かったということですか?」

「うん、まあ、そうだね。

 父親とは、あまり顔を合わせたくなかったんだね。

 だから、父親が昼勤の時は、父親が出て行ってから起きて来て…。

 夜、帰ってくる前に、M君は住宅展示場に行ってたらしい。」

「でも、父親が夜勤の時は、昼間は父親は居るわけですよね?」

「うん。

 でも、昼間は父親は自分の部屋で、ほとんど寝てるらしくて…。」

「なるほど。

 顔を合わせなくても済む、ということですか。」

「うん。」

「でも、父親とは、なんで仲が悪くなったんですか?」

「うん…。

 そうだ、これは私が言っちゃうのは簡単なんだけど…、

 折角だから、平井さんが推理してみない?」

「え?

 僕が推理するんですか?

 また、無茶振りしてー。」

「うん。

 でも、いいじゃん。

 何事も勉強だと思って(笑)。

 質問には答えるからさ。」

「まったくー(笑)。

 遊び心が過ぎませんか(笑)?」

「まあまま、そう言わずに(笑)。」

「わかりましたよ。

 えーと…、

 じゃあ、まず父親とM君との関係ですけど…。

 M君は、家庭内暴力というか、家の壁に穴開けてたんですよね?」

「うん、そう。」

「で、さっき先生は、M君の拳は、母親に向かってた、と言ってたけど…、

 父親にはどうだったんですかね?」

「うん。

 母親にもね、実際には手を挙げてはなかったらしいんだよ。

 で、父親とは…、

 はっきりしたことはわからないんだけど…ね、

 ただ、時々、M君の顔には、あざみたいのがあったって…。

 M君は、転んだとか言って、誤魔化してたらしいけど。」

「ということは、父親とは、殴り合いの喧嘩してたと?」

「いや、M君はね、体格はまあ、中3としては普通だけど、

 腕っぷしのほうは、口ほどでもないというか…。」

「じゃあ、父親から一方的に、殴られてたと?」

「うん。

 その可能性が強いかね。」

「でも、父親はどんな時に殴るんですかねえ?」

「M君曰く、自分でもわからないって。

 一言二言言葉を交わすと、急に殴られるって言ってたと、友達が。」

「え?

 いきなりって感じですかぁ。

 じゃあ、M君としては、父親に対する憎しみと言うか…、

 父親をとっても恨んでたでしょうねぇ。」

「だろうね、きっと。

 でもね、M君が父親を憎むのには、もう一つ理由があったみたいなんだよ。」

「え?

 何ですか?それは。」

「まあ、考えてみてよ、平井さんなりに。」

「あ、はあ。」

 

(つづく)

 

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