創作読物 41「その若さで、薬使って眠るって…」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「M君は、結局、16歳で東京に出て、

 一人暮らしをしながら働いてたようで…、

 ちょうどその後、1年ぐらい経った正月に、

 冬休みで地元に帰省していた私の友達と、たまたま再会したらしいんだ。」

「ええ。

 M君も帰省してたんですね?」

「うん、そうみたい。」

「で、お友達とは、何かお話とか…、したんですか?」

「いや、特には…。

 まあ、立ち話だったらしいんで、

 たわいのないことを話したらしいんだけど…。」

「う?

 どうかしたんですか?」

「あ、ああ。

 いやね、なんかその時のM君の感じが…、

 なんか、情緒不安定というか…、

 そんなに可笑しいことでもないのに、急に笑い出したり…、

 かと思うと、年齢の割には、とても幼いことを熱心に話し出したり…。」

「幼いことって、どんなことをですか?」

「いや…、

 詳しくは聞かなかったけど…、

 とにかく友達としては、妙に幼稚というか…、精神状態が…。

 奇妙に思ったらしいんだけど…、

 まあ、短い時間だったから、

 すぐに別れたみたいだし…、

 そのままになったというか…。」

「そうですか…。」

「ただ、これは、あとでわかったことらしいんだけど…、

 M君は、その頃から、夜なかなか眠れなくなってたらしく…。

 東京で、医者にかかって、眠剤、睡眠導入剤ね、

 たぶん、その頃、新薬として出たばかりのハルシオンだと思うんだけど、

 それを服用してたようなんだよ。」

「ハルシオン?ですか?」

「うん、そう。

 いまは、効果よりも、副作用が強いってことで、

 処方もほとんどされないらしいけど…、

 当時は、とにかくよく使われてたみたいなんだよね。」

「M君、夜寝れなかったんですか?」

「友達も言ってたよ。

 そう言えば、家庭教師やってた時も、俺は夜寝れないから、って言ってたと。

 例の自転車で尾行した時に、聞いたらしいんだけどね。」

「中3の時から?」

「いや、いつからかはわからないけど…、

 ただ、それが東京で働くようになって、ますますひどくなったのかねぇ。

 自分で病院に行くぐらいだから。」

「でも、その若さで、薬使って眠るって…、大丈夫なんですかね?」

「あ、うん。

 平井さんは、薬のこと、知ってる?

 特に、内科とか、心療内科とかで処方される薬について。」

「え?

 詳しくは…、と言うか…、

 ほとんど知らないです。」

「そっか…。

 あのう、生徒とかもね…、

 ちょっと精神状態が不安定になって…、

 医者行くと、軽いうつとか言われて…、

 処方された薬飲んでる生徒、居ない?」

「ああ。

 そう言えば、先月の校内研修で、

 養護教諭の先生が言ってましたねぇ。

 そういう子が増えてると…。

 授業中なんかでも、急に落ち着かなくなって騒いだり…、

 あるいは、逆に、急にぐったり机にうっ伏すような生徒がいたら、

 薬の副作用が疑われるので、よく観察してください、と。」

「うん。」

「でも、養護の先生がそれ話した時に、冗談で、

 そんな生徒ばっかりだよ、と言った先生がいて…、

 養護の先生に、一瞬、ちょっとにらまれてましたけどね(笑)。」

「そっか。

 なので、平井さんもある程度は、知識として持っておいたほうがいいと思うよ。

 特に、ベンゾジアゼピン系って言うんだけど、その睡眠導入剤についてはね。

 ほら、最近も、デパスという薬の副作用が問題になったでしょ?」

「え?

 そうなんですか?

 ちょっと勉強不足で…。」

「ちゃんと、そういうニュース見たりとか…、アンテナ張ってる(笑)?」

「あ、すいません…。気を付けます…。」

「ベンゾ…、ベンゾ…。」

「ベ・ン・ゾ・ジ・ア・ゼ・ピ・ン、ね。」

「ベンゾ…、ジアゼピン、なんか舌噛みそうですね(笑)。」

「うん、なかなか一回じゃ、覚えられないけどね。」

「これは、副作用が出るんですか?」

「うん。

 ハルシオンもそうだけど、依存症とか、乱用とかね…、

 でも、もっと怖いのは…、

 場合によって、記憶障害、幻覚、攻撃性も出るって言われてるね。」

「え?

 怖いですね!」

「だって、今ではコカインやヘロインと同じように、向精神薬として

 規制対象というか、麻薬と同列で、要注意ってことになってるからね。」

「え?

 ほんとですか?」

「まあ、検索すれば、直ぐに出てくるから、調べてみて!」

「あ、はい、わかりました。

 でも、じゃあ、今は処方されてないんですかね?」

「うーん。

 一応、処方制限がかかってるらしいけど、よくわからないよね。

 だって、特にデパスは、何でもデパスって言われた時期があって、

 それこそ、偏頭痛とか、ちょっとした痛みとかにも処方されてたらしいから。」

「そうなんですか。」

「うん。

 腰痛なんかを訴える人にも、使われたみたいだから。」

「え?

 腰痛に向精神薬ですか?」

「うん。

 ベンゾジアゼピン系の薬は、筋弛緩作用があるからね。

 服用してる間は、筋肉の凝りを感じ難くなるから。

 でも、決して腰痛が治るわけではないでしょ?」

「そうですよね…、

 薬で誤魔化してるだけですよね…。

 あっ、でも、だから、先生は詳しいんですね?

 お仕事柄、薬のこと。」

「ま、それもあるけど…、

 教員やってた時から、ある程度はアンテナ張ってたけどね。」

「あ、はあ。」

「で、今も使われてるんじゃないかな?

 だって、依存性が強いんだから、

 以前から飲んでた人は、急には止められないという事情もあるんじゃない?」

「なるほど。

 でも、それってほんとに怖いですねぇ。」

「まあ、そのへんも含めて、調べてみるといいよ。

 だって、身近な生徒にだって、処方されてた子がいるはずなんだから。」

「そうですよね。

 わかりました。勉強します。」

「うん。」

「でも、だとしたら、M君も副作用に悩まされたんですかねぇ?」

 

(つづく)

 

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