創作読物45「あなたは、あなたであればいい」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「はい、中川さん。

 今日はここまでですね。

 お疲れ様でした。

 じゃあ、お茶を入れておきますから、

 着替えたら、どうぞ飲んでくださいね。」

「ああ、先生、ありがとうございます。

 あっ、先生。

 お茶って、この前いただいた、赤い実をスプーンで食べるお茶ですか?」

「ええ、そうですよ。

 ローズヒップのお茶ね。

 あの実には、ビタミンCがたっぷり入ってて、食べないと勿体ないんですよ。」

「ええ。

 なんか、トマトに似た味で、ちょっと酸っぱくて、おいしいですね。

 私、トマト大好きだから…。

 あのお茶、どこかで手に入りますか?」

「もし、欲しければ、今度、中川さんの分も、買っておきましょうか?」

「あ、はい、ぜひ!

 ありがとうございます。」

「じゃあ、今日は多めに入れますね。」

「まあ、嬉しい。」

「じゃあ、あちらで待ってますので。

 ゆっくりで結構ですから。」

「はい。ありがとうございます。」

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

「あぁ、とっても楽になりました。

 なんか、身体が軽くなって…、

 これでまた、台所に立てる気がします。」

「そうですか。

 なら、良かったですね。

 まだまだ、現役で頑張るんでしょ(笑)。」

「ええ、そうですとも(笑)…。

 あれ、今日は、とってもかわいらしいお嬢さんも来てるんですね?」

「あ、ええ。

 今日が初めてなんですけど。」

「そう。

 お嬢さんは、何歳かな?」

「…、15歳…です。」

「まあ。

 じゃあ、中学生?それとも、もう高校生かな?」

「…、高校…、1年です…。」

「そうなんだぁ。若いわねぇ。

 若いって、いいわねぇ。」

「…。」

「私は何歳だと思う?お嬢さん。」

「…。」

「わからないかな(笑)?

 もうすぐ91よ。

 昭和2年生まれの91歳。

 だから、お嬢さんの…、6倍も生きてるのね(笑)。

 先生、すごいですね!

 こちらには、こんな若い人から、こんなおばあちゃんまで…、

 いろんな人が来てるんですね(笑)。」

「いやいや、もっと若い子も、来てますよ。

 最少年者は、10歳かな。」

「そうなんですかぁ。

 そんな小さい子も、筋肉がロックしてるんですか?」

「ええ。

 最近は、小学生でも、いろんなスポーツクラブに入ってるんでね。

 野球、サッカー、新体操…、それから、ここに来てラグビーなんかも

 やってる子が増えたでしょ。

 そうすると、どうしても、筋肉を酷使しちゃうので…、ね。

 若くても、筋肉には相当負荷がかかっちゃうから。

 その10歳の子の場合は、水泳なんですけどね。」

「水泳?

 水泳って、全身運動だから、健康にいいって聞きますけどねぇ?」

「ええ。

 もちろん、適度にやるなら、とってもいいんですけど…、

 競泳とか、記録を上げるためにトレーニングするのは、

 筋肉が悲鳴を上げちゃうんですよね、まだ、身体もできていないし…。」

「そうなんですね。」

「ええ。

 たとえば、水泳では、スタートの時に、プールに飛び込むでしょ?

 あの飛び込みを何回も繰り返すと、

 それだけで、胸の筋肉がロックしちゃうんですよね、衝撃で。」

「へぇー、水って柔らかいのに?」

「うん、でも、日常の生活では、やらないことを繰り返し行うと、

 徐々に負担がかかるんですよね。水も柔らかいんだけど、

 やはり、そこに飛び込むと、ある程度の衝撃が積み重なってね。」

「なるほど…。

 そうすると、怖いですねぇ。

 おっしゃるように、今、いろんな運動をしてる子が、とっても多いんでしょ?」

「そうですねぇ。

 こればっかりは、根性とかでは、どうにもならないですからね。

 でも、まだまだ、鬼コーチというか…、

 根性論で、子どもたちをシゴく指導者もたくさんいますからねぇ。

 さすがに、体罰とかは、世間の目もあって、潜んできましたけど…。」

「体罰ねぇ…。

 あ、お嬢さん、ごめんなさいね、時間とっちゃって。

 これ、飲んだら帰りますからね。

 でも、なんか、ちょっとびっくりしたようなお顔してるわね(笑)。」

「…、あ、…いえ…。」

「いいのよ(笑)。

 こんなおばあちゃんが、ここに来てるの?ってお顔してる(笑)。

 違う(笑)?

 でも、私ね…、

 今、一人で暮らしてるんだけど、

 去年の夏までは、おさんどんも、お洗濯も、全部自分でやってたのよ。

 あ、おさんどんなんて、今の若い人は言わないわよね。

 台所仕事のことね。

 だけど、夏過ぎから、腰が妙に痛くなって…、

 それからしばらくは、自宅に配達されるお食事、といってもお弁当ね、

 それをいただいてたんだけど…、

 やっぱり、飽きちゃうというか…、味気ないんでね。

 腰を治して、また自分で好きなものを作って、食べたくてね。

 私、食いしん坊なの。美味しい物大好きなのよ(笑)。

 で、いろんな所に通ったんだけどね…。

 なかなか、良くならなくて…。

 で、近くに住んでる娘に相談したら、

 この、ミオンパシーって所を探してくれてね。

 今日が、2回目なんだけど、とっても調子がいいのよ。

 不思議ね、これまでいろんな治療を試したんだけど…。

 お嬢さんも、これから施術を受けるんでしょう?

 きっと、実感できると思うわよ。

 で、お嬢さんは、どこがお悪いの?まだ、お若いのに…。」

「…。」

「あ、ごめんなさいね、余計なこと聞いちゃったわね。」

「あ…いえ。

 ちょっと…、頭痛がひどいもんで…。」

「まあ、そうなの。

 なんか、頭痛の種があるのかな…。

 あ、また余計なこと言っちゃったわね。ごめんなさいね。

 でも、悩み多き、お年頃ですものねぇ。

 やっぱり、悩むのは辛いけど…、

 悩まないより、悩むほうが、あとで効いてくるものよ。

 だから、悩みから逃げないで、しっかり悩んだほうがいいと思うわよ。

 でも、まだ、お嬢さんは若いから、そんなこと言われてもわかんないわよね。

 だけど、大事なことは、あなたは、あなたであればいい、ってことね。

 うんと悩みたければ、うんと悩めばいいし…、

 悩むのが嫌なら、悩みから逃げればいいってことね。

 つまり、自分らしく生きればいいってことなんだけど、

 これって、90年も生きたから言えることなのかもねぇ。

 もっと、若い時に、気づけばよかったんだけど…。

 あ、ごめんなさい。

 おしゃべりが止まらなくなっちゃうから、

 おばあちゃんはこれで、失礼しますね。

 じゃあ、お嬢さんも元気になってね(笑)。

 じゃあ、先生、また来週来ますので、よろしくお願いします。」

「あ、はい。

 お待ちしてます。

 じゃあ、お気をつけてお帰りください。」

 

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