創作読物46「頭が悪いんじゃないんですか?」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「はい、お待たせしました。

 改めて、こんにちは。」

「あ、こんにちは。」

「初めまして…だけど、陽香さんとお呼びしていいかな?」

「あ…、はい、ええ、大丈夫です。」

「陽香さん、お母さんは?」

「あ、今、近くのお店で買い物してて…、

 終わるころに、また迎えに来るって…。」

「あ、そう。わかりました。

 でも、ちょっとびっくりしたでしょ(笑)?

 あのおばあちゃん、中川さんて言うんだけど、

 とってもしっかりしてるでしょ?もう90歳超えてるのにね(笑)。」

「ええ…。

 ちょっとびっくりしました。」

「おっしゃってたように、ちょっと腰が悪いんだけど、

 ここに来て、一回施術したら、ご本人も思いのほか良くなったって、

 びっくりされてね(笑)。

 今日で、3回目なんだけど、

 体調が良くなるにつれて、どんどん意欲が湧いてきて…、って感じでね。」

「そうなんですか。

 なんか、すごくパワフルなんで、圧倒されちゃいました。」

「そうだねぇ。

 確かに日本人の平均寿命って、特に女性は伸びてるんだけど…、

 91歳で、まだまだやりたいことがいっぱいあるって…、

 すごいことだよね。」

「ええ、ほんとに。」

「まあ、だからこそ元気でいられるんだろうけどね(笑)。」

「そうですね。」

「さて、じゃあ、今から施術するけど…、

 着替え…は?

 あ、その恰好のままで大丈夫そうだね。」

「あ、はい。」

「えーと、施術については、お母さんから何か聞いてる?」

「はい、だいたいは…。」

「そう。

 お母さん情報だと、時々、頭痛がするんだって?」

「あ、はい。」

「間隔とか、頻度はどのくらい?」

「1週間に2回ぐらいです。」

「あ、そう。

 それは辛いねぇ…。

 寝不足とかはある?」

「…あ、…はい。

 ちょっと夜更かししちゃうんで…。」

「何時ぐらいまで起きてるの?」

「2時とか…、3時とか。」

「で、起きるのは?」

「朝一回、眼が覚めるんだけど…、

 また二度寝しちゃって…、

 10時ぐらいにかなぁ、起きるのは。」

「眠りが浅そうだね。」

「だと思います。」

「背中とか、肩とかは凝ってない?」

「よく、わかんないですけど…、

 母からは、よく姿勢が悪いって言われます。」

「そうね…、

 ちょっと猫背で、巻き肩かな。」

「巻き肩?」

「あ、巻き肩って聞いたことないかな?」

「ええ。」

「巻き肩ってね…、

 こういうふうに、肩が内側に巻いてしまってる状態でね。

 で、こうなると、顎や頭も自然と前に寄っちゃって、

 姿勢が悪くなるんだけど…、

 この状態が続くと、この胸の筋肉が縮まったままになり、

 そうすると、背中にある肩甲骨が胸の方に引き寄せられちゃって、

 ますます巻き肩になってしまうんだよね。」

「そうすると…、

 何か悪い影響が出るんですか?」

「そうだね。

 肩や首が凝ったり、背中が痛くなったりね。

 あ、頭痛も起こりやすくなるね。要するに、悪循環だね。

 なので、陽香さんの頭痛も、寝不足だけでなく、

 そのあたりも原因の一つかもね。」

「え?

 頭が悪いんじゃないんですか?」

「ははは。

 なんか、その言い方は聞こえが悪いね(笑)。」

「え?

 ああ…、そうですね(笑)。」

「あ、今、ここに来て、初めてちょっと笑ったね?」

「え?

 ああ、そうですね(笑)。」

「でも…、

 陽香さんは、自分で頭悪いと思う(笑)?」

「…、そんなに良くはないかと…。」

「じゃあ、悪くはないんだね(笑)。

 あのね、頭痛ってね、

 筋肉の強張りから来てることが、よくあるんでね。」

「そうなんですか?」

「うん。

 なので、大胸筋て言うんだけど、

 このあたりの胸の筋肉と、首周りの筋肉、

 それから、背中の筋肉の凝りを緩めると、

 頭痛も楽になることが、よくあるんだよ。」

「え?

 頭そのものはあまり関係ないんですか?」

「関係ないこともないんだけど…、

 つまり、首周りの血液の循環とか、血行の良し悪しが関係しててね。

 あ、でもね、胸とか、首とか、背中の筋肉の凝りもね、

 それぞれ、そこが悪いんじゃなくて、

 この、お腹の奥にあるね、大腰筋、大きな腰の筋肉って書くんだけど、

 この大腰筋が一番の原因ってことが、多いんだよ。」

「えー?

 なんか、面白いというか…、不思議ですねぇ。

 お腹の筋肉が頭痛の原因だなんて…。」

「うん。

 つまりその場合、肩こりや頭痛ってのは、あくまでも症状、結果であって、

 原因は、全然別のところにあるってことが、よくあるんだよ。」

「へぇ、そうなんですかぁ…。」

「うん。

 なので、症状ばっかり追いかけて治療しても、

 肝心な原因にアプローチしてないと、

 また、症状がぶり返しちゃうんだよね。」

「へぇ、そうなんですね。」

「まあ、今日は初めてなので、

 その他にも、どこの筋肉が硬くなってるか…、

 これ、私たちは、筋肉がロックしてるって言ってるんだけど、

 それをチェックさせてもらうね。」

「あ、はい、お願いします。」

「はい、じゃあ、まずは仰向けになってくれるかな?」

「あ、はい。」

 

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