創作読物54「立ち向かうか、それとも、見て見ぬふりをするか」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「…、大きな壁…、かぁ…。

 私も今、ぶつかってるのかな…。」

「うん?」

「あ、いや…。

 なんでもないです…。

 で、先生はこれまで、何回大きな壁にぶつかったんですか?」

「え?

 そうだねぇ…。

 うん、何回もあるよ。

 きっと、人より多いんじゃないかな(笑)。」

「そうなんですか…。

 それは、どうしてなんですか?」

「うん…。

 三つ子の魂百まで、って言うでしょ?」

「あ…、ええ…。

 あの…、それ、聞いたことあるんですけど…、

 なんか、意味はよくわからなくて…(笑)。」

「そっか。

 三つ子ってのは、3歳児ってことね。」

「え?

 そうなんですか?

 私、双子、三つ子の三つ子かと思ってました(笑)。」

「ああ、なるほどね(笑)。

 でも、この場合は、

 3歳というよりも、幼い頃って意味で、

 つまり、三つ子の魂百までってのは、

 幼い頃の性格は、年をとっても変わらないってことね。」

「へー、

 そうなんですね。

 三つ子がわかってなかったから、全然意味不明でした(笑)。」

「ははは、そりゃそうだね(笑)。

 でね、まあ、小学生が幼いかどうかはあるけど、

 さっき、時代劇が好きって言うか、

 よく観てたって言ったでしょ?」

「ええ。」

「それって、たぶん、

 おばあさんの影響だったんだよね。

 つまり、そのおばあさんがテレビの時代劇好きで、

 いつも、学校から帰ると、私も一緒になって観てたんだよ。

 お茶すすりながらね(笑)。」

「なんか、渋い小学生だったんですね(笑)。」

「うん。

 渋い、渋茶でね(笑)。

 もちろん、私も身体動かすのが好きだったから、

 いつもってわけではなかったんだけど…。」

「ええ。」

「で、その頃、よく観てたのが…、

 陽香さんは、絶対知らないと思うけどね…、

 素浪人月影兵庫とか、花山大吉とかでね。」

「全然、わかりません(笑)。」

「だろうね。

 で、最近、その再放送をCSでやってたんで、

 懐かしくて、観てみたんだよ。」

「そうですか。」

「そしたらね…、

 やっぱり、どの回も、結局最後は、

 悪党どもを、月影兵庫が成敗するんだよね。

 十剣無刀流、上段霞斬りで。」

「なんですか、それ?」

「あ、まあ、それはいいんだけど…。

 だから、やっぱり、勧善懲悪そのものだったんでね。

 で、思ったわけ。

 自分は、小さい頃、これ観て育ったから、

 相当、影響を受けたんだろうな、ってね。」

「じゃ、先生も、勧善懲悪的な考え方になったってことですか?」

「うん。

 大なり小なり、と言うか…、

 もしかすると、かなり染まっちゃったんじゃないかなと、ね。

 こう見えて、純真だったから(笑)。」

「ええー!

 あ、ごめんなさい。

 そうですよね、純真そうですよね、先生。

 子ども頃は…(笑)。」

「あ、陽香さんも、なかなか言うねぇ(笑)。」

「あ、いえいえ。」

「でもね、

 なんか、不正を許せないとか、許さないとか…、

 単純かもしれないけど、そんな性格が自分の中に宿ったというか…。」

「それが、三つ子の魂百まで、ってことなんですね。」

「うん。

 でもね、さっき言ったように、

 大事なのは…、と言うか、

 問われるのは、そういう不正というか、

 おかしなことを目の当たりにした時に、

 結局、どういう行動に出るかってことだからね…。」

「そうですね。」

「不正に対峙する、と言うか、

 立ち向かうか、それとも、見て見ぬふりをするか…。

 立ち向かえば、向こうも必死に防戦と言うか、攻撃してくるだろうから、

 必ずしも、こっちが勝つわけじゃないし…。」

「ええ。」

「だからと言って、

 見て見ぬふりをするってことは…。」

「魂を売ることになる、と。」

「そうだね。

 そこで、多くの人が、葛藤するわけだよね。」

「で、先生は、そういう時はどうするんですか?」

「うん…、

 どうすると思う?」

「うーん、

 そういう聞き方をするってことは…、

 きっと、立ち向かっちゃうんでしょ。」

「お。

 陽香さんは、なかなか鋭いねぇ(笑)。

 心理学なんか、向いてんじゃないの?」

「あ、ええ。

 心理学、面白そうですよね。

 最近、そう思います。」

「そっか…。

 そうなんだよね…。

 そういう時は、今まで、だいたい立ち向かっちゃって…。」

「やっぱり(笑)。」

「うん。

 でも、ほら、月影兵庫みたいに、腕っぷしが強いとか、

 黄門様みたいに、絶対的な権力があるわけではないから…。」

「ですよね。」

「それに、相手だって、不正を暴かれたくないというか、

 そもそも、自分が悪いとは思ってなかったりするんで、

 必死になるでしょ?」

「ええ。」

「しかも、悪者ほど、ずる賢いというか、狡猾だし、

 正義の味方は、結局やられちゃったりしてね(笑)。」

「…、うん、辛いけど、

 そういうことってありますよね。」

「で、やられちゃうと、

 その瞬間から、今度は正義の味方のほうが、不正義にされちゃうんだよね。」

「ええ。

 あ、それ、知ってます。」

「え?」

「それって、勝てば官軍、負ければ賊軍て言うんじゃないんですか?」

「おう、

 そうそう。

 でも、よく知ってるね、陽香さん。」

「ええ。

 この前、テレビで観たんで…。」

「なあんだ、

 陽香さんも、時代劇観るんじゃん。」

「あ、いえいえ。

 違います、違います。

 なんか、歴史ドキュメンタリーとかでした。」

「ま、いっか。なんでも(笑)。

 そう、勝てば官軍、負ければ賊軍ね。

 歴史は勝ったものがつくる、とも言うしね。」

「え?

 何ですか、それ。」

 

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