創作読物56「偏見も、一度持っちゃうと、なかなか消せない」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「先生とお話してると、

 いろいろと考えさせられる…、

 というか、あれこれと想像しちゃって…、

 なんか、時間が経つのがあっという間ですね(笑)。」

「そうかい?」

「ええ。

 それに…、

 私、一つ気づいたんですけど…。」

「うん?

 何を?」

「先生の発想と言うか…、考え方って…、

 なんか、いつも逆、逆を考えるんですね?」

「え?

 そう?」

「ええ。

 逆と言ったらいいのか…、

 いつも裏を想像する、と言うか…。」

「なんか、そう言われると、

 ちょっと、人が悪いように聞こえるけど…(笑)。

 でも、なんで、そう思ったの?」

「だって…、

 デマの話やカチカチ山や時代劇の話、

 勝てば官軍とか、スターウォーズの話も、

 みんな普通というか、常識的な見方や考え方はしてなくて…。」

「じゃあ、非常識ってこと?(笑)。」

「あ、いやいや、そういうことじゃなくて…、

 なんか、新鮮と言うか…、今まで考えもしなかった発想と言うか…、

 視点が拡がって、面白いなあと…。」

「そっかぁ…。

 自分では、あまり意識したことないけど…、

 でも、陽香さんの指摘は当たってるかもね(笑)。

 うーん、意識してないってのは、ちょっと違うかな…。

 やっぱり、意識してるね、ちょっと。」

「どういうふうにですか?」

「うん。

 まあ、一言で言うと…、

 物事を多角的に見るってことかな。」

「多角的…、ですか?」

「うん。

 多角的とか、多面的とかね。

 たとえば…、

 そうだ、ちょっと絵を描くね…。

 よし、陽香さんは、この絵を見て、

 網掛けの面は、どっちに見える?」

「え?」

「つまり、網掛けの面が手前に見えるか、

 それとも、奥に見えるか?」

 

 

「あ、

 手前と言うか…、右手前と言うか…。」

「手前に飛び出して見えるんだね?」

「あ、はい。」

「そうか…、

 でも、私には奥に引っ込んで見えるよ。」

「え?」

「見えない?

 じゃ、一回まばたきして、

 改めて見るとどう?」

「あ、見えました(笑)。」

「でしょ?

 じゃあ、これってどっちが正解?」

「いや、これはどっちも正解ですよね?」

「うん、そうだよね。

 どっちも間違ってはいないよね。」

「ええ。」

「でもね、

 人って、だいたい自分が初めにそう思ったことって、

 先入観て言うのかな…、

 なかなか変えられないんだよね。」

「そうですね。

 言われないと気づかないって言うか…。」

「うん。

 でもね…、

 人に言われて気づくっていうのも…、

 それはそれで、大事なことではあるけれど、

 ほんとうは、人に指摘されなくても、

 自分で気づけるようになりたいよね。

 そう思わない?」

「そうですね。

 そう思います。」

「それに、

 先入観て…、

 そうだ、先入観て、英語で何て言うか知ってる?」

「えー、

 先入観ですか…、

 わかり…ません。」

「prejudiceって書くんだよ。」

「プレ…。」

「プレジュディス、ね。

 プレって、ほら、プレシーズンとか言うでしょ。

 だから、前って意味ね。」

「はい。」

「で、後半のジュディスってのは…、

 まあ、ジャッジ、つまり、判断ってことね。」

「なるほどぉ、

 だから、事前に判断するから、先入観かぁ。」

「そうだね。

 でも、このprejudiceには、

 もう一つ、偏見ていう意味もあるんだよね。」

「へぇー。

 そっか、偏見も、前もっての判断と言うか、考えですもんね。」

「うん。

 事前の刷り込みってことだよね。

 でも、先入観はともかく、

 偏見てのは、聞こえが悪いでしょ?」

「そうですね。」

「でも、この箱の絵でもわかるように、

 人って、常に先入観と偏見を持って、

 いろいろと物事を見てるってことなんだよね。」

「なるほど…、

 それって、言われればわかるけど…、

 普段は気づかない…、というか、

 なんか、とっても怖いことですねぇ…。」

「うん。

 だから、偏見も、一度持っちゃうと、

 なかなか消せないんだよね。」

 

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