創作読物57「そこに留まってたら、何もわからない」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「先生は、これまで…、

 何て言うか…、そのう、偏見を受けたことはあるんですか?」

「うん。

 そりゃ、あるさ(笑)。

 おそらく何度もね。」

「おそらく…、って、

 そんなに多いってことですか?」

「うん?

 ああ、だって、そういうのって、

 自分でわかる場合と、わからない場合があるでしょ?

 つまり、自分の知らないところで、受けてたり…。

 悪口とか、陰口ってのも、それに入るんじゃないかな。」

「あ、そっかぁ。

 そう言われてみれば、

 陰で悪口言われるのなんかも、偏見に満ちてるかも…、ですね。」

「でもね、

 そういう時に、さっきのこの立方体の絵が役に立つ、と言うか…。」

「どういうことですか?」

「つまり、自分が偏見と言うか、誤解されてる時って、

 たぶん、自分も相手のことを、大なり小なり誤解したり、

 偏見の眼で見てたりしてるんだろうなって。

 そう思うと、なんか、あまりムキにならなくて済むんじゃないかと、ね。」

「そっかぁ。

 確かにそうですね。

 でも、人に誤解されると、

 なんか、気分が悪くなるというか…、

 落ち着かない、というか…、

 心の中が、ザワザワしますよね。」

「そうだね。

 それで…、

 まあ、これは人によって、いろいろ反応が違うのかもしれないけど、

 相手に面と向かって抗議したり、

 いろいろな事情で、何も言い返せなかったり、

 こっちも陰で悪口言ったり、

 リベンジと言うか、なんとか仕返ししようと企んだり…。」

「ですねぇ。」

「そんな時、

 陽香さんは、どんな反応するのかな?」

「うーん。

 その時々で、違うかなぁ。」

「だよね、きっと。

 ケースバイケースというか、

 場合場合で、違うんだろうね。

 相手にもよると思うから、一概には言えないか。」

「そうですね。」

「でも、何かアクションを起こす時には、

 それなりのエネルギーと言うか、

 パワーが必要でしょ?」

「ええ。」

「そういう時の、エネルギーの源って、

 なんか、大事な気がするんだけどねぇ。」

「どういうことですか?」

「うん。

 なんか、説明が難しいんだけど…、

 そういう時って、ピュアなものが源になる場合と、

 さっきのダークサイドじゃないけれど、

 なんか、陰気と言うか、汚いと言うか…、

 ダークなものが源になる場合とがあるような気がして…。」

「あぁ、

 何となく、わかります。」

「で、ピュアとダークとを比べた時に、

 ダークなほうが、エネルギーは大きい感じがしてね。」

「そうなんですか?」

「うん。

 なんか、ダークなほうが、

 最大瞬間風速が強い、というか、

 爆発的な力が発揮できるような気がするんだよね。

 つまり、そのう…、

 純粋な思いよりも、

 恨みとか、憎しみといったもののほうが、結局勝つというか…。」

「なんか、わかる気もしますが…、

 それだと、純粋な人は救われない…、ですねぇ…。」

「うん。

 でもね、

 仮に、ダークパワーで何かやって、

 結果的に勝ったとしても、

 結局は、その力って、使った本人にも害を与えるというか…。

 つまり、爆発的な力は出せるかもしれないけど…、

 結局、自分もその爆発で吹っ飛んじゃうと言うか…、

 自己を損なうというか…、痛手を負うというか…、

 だから、爆発的と言うよりも、破壊的なんだと思うよ。」

「ああ、

 それが、悪魔に魂を売っちゃうってことなんですかね。」

「そうかも、だね。」

「でも、だとしたら…、

 人に対する恨みとか、憎しみとかでは、

 あまり行動しないほうがいいってことですね。」

「うん。

 結局、自分もダークサイドに食われちゃう、ってことだからね。

 でも、それがなかなか難しい、と言うか、

 なかなか自制できないのが、人間なのかもね。」

「うーん。」

「あ、

 なんか、難しい話になっちゃったね。」

「あ、いえいえ。

 なんか、とても、考えさせられちゃいます。」

「ま、でも、とにかく、

 要は、いろんな角度から、物事を見ることができるといいって話だね。」

「そうですね。」

「でも、

 それにはどうしたらいいと思う?」

「うーん。

 いろんな本を読むとか…、

 いろんな人の話を聞く…、とかですか?」

「うん。

 まあ、それも大事だろうけど…、

 そうだ、一つコツを教えようか?」

「え?

 そんなコツがあるんですか?」

「うん。

 ほら、じゃあ、これは何?」

「え?

 それは…、先生の親指…、ですか?」

「そう。

 親指だね。

 じゃあ、でも、私の親指の爪の色とか、形はわかる?」

「えー、

 わからないです。」

「うん。

 だって、陽香さんは今、私の親指の腹側しか見てないもんね。」

「ええ。」

「じゃあ、それがわかるにはどうしたらいい?」

「うーん、

 私が先生の側に回り込んで、覗くしかないです…、かね?」

「うん、そうだね。

 それが、コツだよ。」

「え?」

「つまり、今いる場所から眼に入るものを見てるだけではだめで、

 自分から動かないと、物事の全体像というか、

 ほんとのところは見えないってことだよ。」

「ほう、なるほどぉ。

 そこに留まってたら、何もわからない…、

 だから何も変わらないってことですね。

 いいことを教わりました(笑)。」

 

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