創作読物61「人から変わり者って言われることが多い」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「地頭って、地面の地に頭って書くんだけど…。」

「だから、普通、じとうって読みますよね。」

「ああ、そうだね。

 日本史習った人は、じとうだよね(笑)。」

「泣く子と地頭には勝てない、って、

 あの地頭ですよね?」

「あ、そうそう。

 道理の通じない相手には、黙って従うしかない、って意味ね。

 だから、じとうは、なんか、悪い人の代名詞みたいなんだけどね。

 この場合は、じとうじゃなくて、じあたまね。」

「ええ。」

「で、地頭がいいってのはね…、

 まず、好奇心が旺盛で、コミュニケーション能力もあって、

 応用力が高くて、臨機応変というか、

 その場に応じた判断とか、行動がとれるってことね。」

「それって、完璧じゃないですか。」

「だよね。

 だから、ネーミングはイマイチかもだけど、

 地頭って、特に企業なんかでは、

 採用試験なんかでは重要視してるんだよね。」

「へぇ、そうなんですか。」

「平井さんは、就職は教師一本だったの?

 企業とかは、考えなかったの?」

「そうですね。

 大学院も教職大学院でしたし…。」

「ああ、そうだったね。

 でも、企業も受けてみると良かったかもね、経験として。」

「そうかも、ですね。」

「でね、

 今、企業が重要視してる採用基準の順番て、知ってる?」

「あ、いえ、知りません。」

「1位は、リーダーシップね。

 まあ、これは納得だよね。」

「ええ。」

「で、3位が英語力で、4位が日本語力なんだって。」

「日本語より、英語力なんですか…。」

「うん。

 だから、日本人よりも、海外からの留学生のほうが有利ってことだね。

 この基準で選考すると、日本人より、どうしてもアジアからの留学生のほうが

 いい成績取るらしいから。」

「なるほど。

 そうすると、いいポジションは、留学生が取っちゃうんですね。」

「うん。

 でも、勝負の分かれ目は、2位の地頭の良さなのかもね。」

「やはり、2位に地頭が来るんですね。」

「うん、そうみたい。」

「でも、先生。

 地頭がいい、悪いって、

 どう判断するんですか?

 私は、自分が地頭がいいか、悪いかなんて、わからないんですけど…。」

「採用試験では、

 勘の鋭さとか、

 好奇心旺盛で、調べることが好きとか…、

 それから、人から変わり者って言われることが多いか、

 なんてことも聞かれるというか、判断されるみたいだよ。」

「勘が鋭いとか、好奇心てのはわかりますが、

 どうして変わり者かどうかを見られるんですか?

 変わり者を排除するってことなんですか?」

「いや、むしろその逆で、

 変わり者を採りたいんだね。」

「それはまた、なぜなんですか?」

「とにかく、変わってれば、それでいいということじゃなくて、

 もちろん、変わり者すべてがそうじゃないんだけれど、

 往々にして、変わり者の中には、人よりも、アイディアや発想が豊富で、

 普通の人が思いもつかないような考えやアイディアを持っている可能性が

 高いってことなんだろうね。」

「なるほどぉ。

 でも、なんか、一時代前の企業だと、

 会社の言うことを素直に聞いて、従う人間を優先的に採用する、

 っていう企業が多かったんじゃないんですか?日本では。」

「それは、一時代っていうよりも、昭和の時代かもね(笑)。

 いまは、それじゃ、海外の企業とは渡り合えないでしょ。」

「なるほど。

 でも、そういう話聞くと、

 私も企業を受けてみればよかったですね。

 ちょっと怖いけど…。

 ただ、地頭の良さってのは、もしかして生まれつきのものなんですかねぇ。

 もしそうなら、鍛えても、あまり効果がないってことなんですか?」

「もちろん、ある程度は、持って生まれたものって部分もあるだろうけど、

 でも、地頭の良し悪しってのは、結局のところは、

 これまでの常識とか、既存のルールに囚われて、自縄自縛になるんでなく、

 いかに現状をより良くしていくための工夫や方法を考えられるかどうか、

 ってことだから、それは、それを意識することで開発されるんじゃないかね。」

「創意工夫と実行力ということですかね。」

「要するに、それがリーダーシップの有る無しってことだよね。」

「だから、採用基準の1位に、リーダーシップが来るんですね。」

「だね。

 だから、話を戻すと…、

 陽香さんは、地頭が相当いいと思うので、

 鍛え方次第で、これからグーンと伸びるんじゃないかな、ってね。」

「それって…、

 彼女は変わり者ってことですか?」

「どう思う?」

「私は、彼女のことが、まだよくわからないので…。」

「そっか。

 でも、変わり者と言うか…、

 地頭の良さで、人とはちょっと違った見方とか、考え方があって、

 それで、みんなと同じことができないというか…、

 そうすることを拒否したのかもね。」

「そういう面もあるのかもしれませんねぇ。」

「まあ、ただ、これは我々の勝手な想像だけどね。」

「ええ、まあ。」

「ただ、間違いなく、

 彼女には、いろんな可能性はあると思うよ。

 思う、というか、そう感じたよ。」

「先生がそう感じたのなら、

 きっと、そうなんでしょうね(笑)。」

「え?

 何それ?」

「え?

 だって、先生も地頭のいい、変わり者でしょ?(笑)。」

「え?

 まあ、地頭がいいかどうかは、わからんけど、

 変わり者には違いないね(笑)。」

 

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