創作読物66「教育っていうのは、恐ろしいもの」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「どう?」

「うーん。

 思わず、うなっちゃう動画ですねぇ。

 なんと言うか…、インパクトがあると言うか…。

 よくできた動画ですね。」

「でしょう?」

「ええ、ほんとに。

 で、学生がこれを見た後の反応は、

 どんな感じなんですか?」

「うん。

 感慨深げ、というか…、

 いろいろ考えてるような顔するよ。」

「でしょうね。」

「この授業は、

 いわゆる一般教養科目と言うか、

 生涯学習論という科目でもやってたし、

 もちろん、教職課程の中にも織り込んでやってたんだよ。」

「どのクラスでも、

 反応は同じでしたか?」

「そうだね。

 でも、教職課程ではね、

 教師を目指してる学生たちだし…、

 とりわけ、特別支援学校の教員を目指してる学生たちの中には、

 自分の家族とか、親戚とかに、障害のある人が、

 現に居る場合も多くって…、

 だから、ビデオ見た後は、一種独特の雰囲気が流れたりね。」

「そうですか…。

 で、ビデオを見せた後は、

 どう授業展開するんですか?」

「うん。

 もちろん、質問するよ。

 なぜ、最後の場面で、子どもたちは一様に真似してるのに、

 どうして、親たちは真似しないのか、

 真似できないのは、どうしてだと思う?ってね。」

「核心を突く質問ですね。

 で、学生たちは、どんな答えをするんですか?」

「うん。

 その前に、平井さんは、何故だと思う?」

「え?

 僕ですか?」

「うん。」

「そうですねぇ…。

 親たちは、真似できないと言うか…、

 真似しちゃいけないって、思うんじゃないですかね。

 つまり…、そのう…、障害のある人たちは、

 特に…、生まれつきの場合には、もともと…。」

「なんか、奥歯に物が挟まったような…、

 言い難そうだね。」

「そうですね。ちょっと。」

「まあ、学生たちも、

 そういう感想意見が多いんだけど…、

 そこでさらに聞くわけ。

 でも、この親たちが子どもの時には、

 おそらく変顔の真似をしたんじゃないのかって。

 現に、この子らは、みんな真似してたじゃない、と。」

「そうですね。」

「なんで、子どもの時には、真似できて、

 大人になると、できなくなるのかな?って、

 さらに考えてもらうんだよ。」

「すると、どんな感想意見が出るんですか?」

「そういう人の真似しちゃ、かわいそうだから、

 という気持ちが、子どもには湧かないけど、

 親というか、大人になるにしたがって、

 そう思うようになるからなんじゃないかなって、

 いう意見が一番多いかな。」

「なるほど。」

「だけどね、

 真似しちゃかわいそう、って思うこと自体、

 差別意識の現れでしょ?

 自分たちとは、違うんだから、

 という意識から来てる気持ちだからね。」

「ドキッ!って感じですね。

 おっしゃるとおりですね。」

「だから、さらに追い打ちの質問をするんだよ。

 じゃあ、なぜ大人になるプロセスで、

 かわいそうっていう気持ちとか、感情が起こるように

 なるのか?ってね。」

「うーん。」

「すると、学生たちは、答えに窮するよね、大概。

 平井さんは、どう思う?」

「難しいですねぇ…。」

「つまり、子どもの時は、

 ズバリ、差別意識はないわけでしょ?

 それが、大人になるにつれて、

 差別意識がいつの間にか、身について…。

 それが身につくプロセスに何があるかって、ことなんだけど。」

「ええ。」

「結局、このビデオの親たちも、

 自分が子どもの頃だったら、

 無邪気に真似したんだろうけど、

 きっと、その親に咎められたんじゃないのかな。

 真似しちゃいけません、かわいそうでしょ、って。」

「つまり、

 親が、そうしつけたと?」

「うん。

 おそらくね。

 でも、親だけでなくて、

 学校でも、教師たちに、そうしつけられたんじゃないのかなあ。」

「なるほどぉ。」

「だから、差別意識ってのは、

 後天的に植え付けられるものなんだってことを、

 このビデオは、端的に指摘してるんだよね。」

「なんか…、

 そう考えると、

 教育って、とても恐ろしいと言うか…。」

「そうだよ、

 平井さんは、今日、とても大事なことに気づいたね。

 教育っていうのは、恐ろしいものなんだよ。」

「ええ。」

「だいたい、真似しちゃいけないとか、

 かわいそうだってのは、

 真似する側の自己満足って言うか、

 勝手な考えでしょ?」

「まあ、そうですね。」

「そこには、真似される側の、

 つまり、相手の気持ちを慮るというか、

 そのあたりが欠如してるよね。

 ビデオの最後の少女は、きっと思うでしょ?

 どうして私の時は、真似してくれないの?って。

 真似してほしいんじゃないのかな?あの子も。」

「そうだと…、思います。」

「もう一度、見てみる?ビデオ。」

「あ、はい。

 お願いします。」

 

  https://youtu.be/WB9UvjnYO90

 

「でも、授業は、これで終わりじゃないよ。」

「え?

 そうなんですか?」

 

この続きは、こちら。

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