創作読物67「レントゲンの目で見る」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「うん。

 人が人を差別したり、

 偏見の眼で見ちゃうことの原因・理由は、

 いろいろとあるとは思うんだけど、

 この動画では、そのうちの大きな一つ、

 つまり、差別意識は、後天的に植え付けられるもの、

 っていうことがわかるんだよね。」

「ええ、そうですね。」

「で、原因がわかれば…、」

「あ、対策も立てやすい、って、

 さっき、おっしゃいましたね。」

「そうそう。

 単に原因を探るだけでは、

 差別はいつになったって収まらないでしょ?

 ちゃんと対策とセットで考えないと。」

「そうですね。

 じゃあ、授業では、その対策までやるわけですね。」

「うん。

 で、もう一つ動画を見てもらうんだよ。」

「ほう。

 楽しみですね。」

「では、今度は、前振りなしで平井さんに見てもらおうかな。」

「あ、はい。

 お願いします。」

 

 https://youtu.be/PnDgZuGIhHs

 

「どう?」

「いやあ、

 これはさっきの動画以上にスゴイですね!」

「だよね。

 さっきの変顔を真似する動画には、

 THE EYES OF A CHILD. 

 子どもの目っていうタイトルが付いてるんだけど、

 こっちの動画は、むしろ、レントゲンの目だね。」

「そうですね。」

「こっちの動画には、Love Has No Labels

 っていうタイトルが付いてるんだけど、

 愛はレッテルを超える、ってな感じの意味かな。」

「それぞれ、場面ごとに、

 Love has no gender.

    Love has no race.

    Love has no disability.

    Love has no age.

    Love has no religion.

 っていう見出しが付いてましたね。」

「うん。

 それぞれ、愛は、ジェンダーや人種、障害、年齢、宗教を

 超える力がある、というメッセージだよね。」

「肌の色の違いや、

 年齢、宗教の違いなんかも、

 レントゲンの目を通してみれば、何の違いもない、

 ってのは、ほんと、強烈なメッセージですね。

 学生たちは、これ見て、どんな反応でしたか?」

「女子学生なんかは、ハンカチを出してる子もいたね。」

「そうでしょうね。」

「なので、授業としてのメッセージは、

 まず、差別や偏見てのは、

 自分も含めて、誰もがしてしまう可能性がある。

 なぜなら、そうした意識ってのは、

 後天的に植え付けられる、負の学習だし、刷り込みだから。

 なので、自分が差別意識や偏見を抱いてしまいそうな時には、

 その相手を、レントゲンの目で見るように心がけてほしい、

 ってことかな。」

「いやあ、とってもいい授業ですね。

 僕も、受けたかったですね、こんな授業。」

「でもね、

 大切なのは、継続性というか、持続力だから、

 人権意識ってのは、常に磨いていく必要があるんだよ、

 ってのが、学生たちに一番伝えたかったことだね。」

「なるほど。

 なんか、現場でも、

 年に一回ぐらいですかね、人権研修って。

 だから、ちょっと形式的にこなしてるって言うか、

 そんな部分も感じますね。」

「まあ、研修をどのように受け止めるかっていうのは、

 結局は、個人個人に任されちゃってるからね。

 でも、多くの人は、自分は大丈夫、

 自分には関係ない、つまり、他人事っていう意識があるんじゃないかな。」

「そうかもしれませんね…。

 でも、先生。

 体罰なんかも、もちろん、人権意識とか、

 人権感覚とかが低いから、やっちゃうんでしょうけど…、

 人権研修受けることで、なくなりますかね?」

「うーん。

 体罰の場合は、もう少し複雑と言うか…。

 なかなか難しいかもねぇ。」

「先日も、生徒向けに、体罰のアンケート調査やったんですけど。」

「全県的にやってるやつね。」

「ええ。

 もちろん、アンケートは匿名だし、

 郵送で教育委員会に直接送られるので、

 現場の僕たちには、結果はよくわからないんですが…。

 でも、毎年、いくつかの学校で発覚してるのでね。

 なかなか、なくならないですね。」

「うん。

 体罰については、世間では、いわゆる体罰容認派って言うか、

 体罰でなく、教育的指導だって言ったり、考えたりしてる人が、

 案外多くいるのでね。」

「昔のドラマなんかでは、

 親が先生に、子どもが言うこと聞かなったら、

 かまわないから、横っ面の一つも張り倒してください、と

 言ってるような場面も多かったような気がしますけど…。」

「うん。

 今は、ドラマなんかでそういう描写すると、

 面倒なことになるから、そういうシーンは減ってるだろうけど、

 でも、現実的には、未だにそういう親は居るだろうしね。

 もちろん、体罰なんか絶対に許さない、って

 声を挙げる親も増えて来てるけど…。」

「そうですね。

 体罰反対派に対して、

 容認派とか、賛成派の人たちも、確かにまだ居ますよね。」

「うん。」

「ところで…、

 先生はどうなんですか?」

「どうって、

 賛成とか、反対とかってこと?」

「と言うか…、

 先生は、体罰したことあるのかな?って、

 ちょっと思ったものですから…。

 ないですよね、すみません。」

「ああ、そうか。

 いや、あるよ。

 もう、35年も前のことだけどね…。」

「え?

 そうなんですか…。」

「聞きたい?」

「え?

 いいんですか?」

「うん。」

 

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