創作読物70「ほかの人とは違うユニークな個人であれ」

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「日本独特かどうかはわからないけど…、

 日本では、まだまだ個人の権利を尊重する、

 という発想が根付いていないから、っていう人も居るよね。

 でもそれが原因だとすると、日本だけじゃないってことになるし…。」

「やはり、さきほどおっしゃってた、

 人権感覚の欠如って問題に帰ってくるんですかね。」

「うん。

 あとは、日本は島国で、村意識が強いからとも言われるし…。」

「だから、村の掟とか、秩序を乱した者は、村八分にするとか?」

「そうだね。

 ところで平井さんは、その村八分の中身は知ってる?」

「え?

 村八分の中身…ですか?

 そう…改めて聞かれると…、わからないですけど…。」

「要は、村十分、

 つまり、冠・婚・葬・建築・火事・病気・水害・旅行・出産・年回忌で、

 村八分になると、このうちの葬式と火事の二分を除いては、

 付き合いをしてもらえなくなる。

 つまり、仲間から外されるってやつね。」

「先生、よく覚えてますね。」

「いや、今、話しながら調べたんだよ(笑)。」

「なんだぁ、そっかぁ(笑)。

 それで、スマホ触ってたんですね(笑)。」

「うん(笑)。」

「でも、

 村八分って、結局、のけ者にするってことですよね?

 今でも、生徒なんか、ハブなんて言葉使って、

 いじめみたいなことしてますもんね。」

「うん、そうだね。

 村八分は、元は村からはぶく、から来てるからね。」

「村八分にあった人は、たまったもんじゃなかったんでしょうね、

 仲間外れにされちゃって。」

「うん。

 でも、見かたによっては、

 村十分でなく、村八分、つまり完全には仲間はずれにされてないんだから、

 それはそれで、日本人らしい温情の現れだっていう人も居るけどね。」

「そうなんですかぁ?

 でも、なんか、やはりハブかれた人にしてみれば…、ねぇ。」

「確かにね。

 まあ、火事は村を挙げて消火しないと、村も全滅しちゃうし、

 葬式も、死人を放置すると疫病とかが拡がる恐れもあるし…。

 つまり、自分たちに害が及ばないものは、放っておいて、

 一切助けないっていう仕組みだからね。

 やはり、ご都合主義と言うか、

 自分たちのことだけ考えて、結局は冷たい排除の論理のような気もするね。」

「だから、

 当時の村人たちは、 

 他人に迷惑をかけて、嫌われたり、疎まれたりするのを恐れて、

 つい周りに合わせてしまう気質になっちゃったんですかね。」

「うん。

 もちろん、そうした気質と言うか…、

 考え方を助長したのは、時の政府と言うか、

 この場合は、江戸幕府だけどね。」

「と言うと?」

「うん。

 元々は、豊臣秀吉が始めた五人組の制度ね。」

「五人組…ですか?」

「そう。

 農家5軒を一組とし、その組内で互いに見張らせたり、

 共同で責任を取らせたりした制度ね。」

「見張らせるって、具体的にはどんなことを見張らせたんですか?」

「まずは、いわゆるキリシタンが居るかどうか。

 密告しないで、発覚したら組全体に罰金課したり。

 もちろん、犯罪者が出てもそうだし、

 それから、毎年の年貢も、決まった量を組で責任もって出させるとか…。」

「監視社会そのものじゃないですか。」

「そうだね。

 監視社会は、今に始まったことじゃないんだよね。

 時の為政者にしてみれば、いかに大衆を把握して、

 コントロールできるかどうかってのは、政権維持のためには必須だからね。」

「うーん。

 共同体とか、助け合いの精神とか言って、

 結局は、為政者に都合よく飼いならされてきたってことなんですかね。」

「とにかく、日本では、

 隣とか、周りの人のことを気にしたり、

 合わせるっていうことが、長い年月をかけて築かれてきたんだろうね。」

「でも、

 今はアパートとか、マンション住まいの人が増えて、

 隣人とかのことは、あまり気にしない人が多いとも聞きますけど。」

「うん。

 でも、騒音問題とか、もめごととか、ニアミスも増えてるでしょ?

 それって、やはり、お互い監視し合ってるって言うか…、

 だから、本質はあまり変わってないんじゃないのかなぁ。」

「確かに、そうかもしれないですねぇ。」

「とにかく、個性を埋没させて、いかに周りに合わせるか、っていうスキルは、

 今も学校が、一生懸命教えてるからね(笑)。」

「均一化した子どもの拡大再生産てやつですね。

 だとすると、知らず知らずのうちに、

 同調圧力を受け続けてるわけですね。

 それに気づくかどうかは別にして。」

「そうそう。

 それに対して、欧米なんかでは、家でも学校でも、

 ほかの人とは違うユニークな個人であれ、ということを

 ずっと教え続けてるからね。

 同調圧力なんて、感じた日には、激しく抵抗、抗議するんじゃないのかな。」

「為政者にしたら、扱いにくい大衆なんでしょうけどね。」

「うん。

 でも、彼らは、それこそが民主主義だと思って、

 大事にしてるんじゃないのかな。

 日本では、そのほんとの民主主義ってのを、

 まだ味わったことがないから、わからないけどね(笑)。」

「そう言えば…、

 先日、大手企業に就職した友人から聞いたんですけど…。」

「ん?」

「いや、なんか、

 その友人の職場では、

 上司の顔色をうかがったり、上司によく思われたいと考えたりして、

 ゴマ擦ったり、自分の気持ちを曲げて発言したりする人が居て、

 同僚などとの横のつながりでも、自分がどう思われるのかをいつも気にして、

 友人はそうでもないんですけど、嫌われないようにしたり、

 なるべく目立たないようにしようとしたりする人が多い、って嘆いてました。」

「そう。

 平井さんは教員だし…、

 まあ、学校ってのは、世間の会社とはちょっと違って、

 そういうふうに、露骨に風見鶏になる人は少ないけど…。

 そうなんだぁ。まだまだそういう会社、あるんだね。

 じゃあ、友達も苦労するね。」

「ええ。

 もうすでに、転職しようかなぁ、なんて言ってました。」

「その友達に、

 嫌われる勇気があるかどうか、だろうけどね。」

「あ、数年前のベストセラーですね、それ。

 学生の時に読みましたよ。」

 

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