創作読物73「自分の弱さをカモフラージュしてる」

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「あれは、初めて担任をした学年が、

 修学旅行に行った時だから、

 私としては、教師になって3年目のことかな。」

「修学旅行ですかぁ。

 どこに行かれたんですか?」

「えーと、

 あの時は、京都から山陽にかけてだったかな。

 3泊4日でね。」

「僕はまだ、修学旅行の引率はしたことないんですけど、

 引率って、すごくたいへん、って言いますよね。」

「そうだね。

 ただ、修学旅行ってのは、たいへんさだけでなく、

 教員たちも、それなりに楽しい面もあるんだけどね。」

「そうなんですか…。

 でも、修学旅行の引率中は、ホテルでも飲酒とかはできないんでしょう?」

「飲酒ね…。

 これも、紆余曲折って言うか、いろいろあってね。」

「そうなんですか?」

「それこそ、大昔は、修学旅行先でも、

 夜は、教員も普段とあまり変わらない感じで過ごしていたんだろうけど、

 私が教員になった頃は、具体的に、夜、教員が飲酒していいかどうか、

 真剣に意見交換してたよ。旅行に行く前にね。」

「申し合わせをしてたということですか?」

「うん。

 今から考えると、ちょっと滑稽かもしれないけど…。

 飲むべきではない、って人も居れば、

 嗜む程度であればいいんじゃないか、って人もいて、

 なかなかまとまらないんだよね、これが。」

「へぇー。

 そういうことも、歴史があるんですねぇ。

 今は、僕の学校では、引率中は全面禁酒ですよ。」

「そっか…。

 歴史ね。確かにね。

 でも、その頃は、落ち着きどころとしては、

 夜、生徒のそれぞれの部屋を回って、

 最終点呼して、消灯した後は、教員個々の良識に任せて、

 って感じだったかな。」

「良識ですかぁ…。

 で、実際にはどんな感じだったんですか?

 飲む人も居たんですかね?」

「うん、居たね。

 だから、もし、酒を口にしたら、

 そのあとは、生徒の前に顔を出してはいけない、って決めてたね。」

「でも、修学旅行って、

 むしろ、消灯後の生徒指導のほうがたいへんだって言うじゃないですか。」

「うん、そうだね。」

「ということは、

 変な話、飲んだもん勝ちってことになっちゃうんじゃないんですか?」

「まあ、そうだね(笑)。

 夜中に、生徒がいつまでも寝ないで騒いでたり、

 それこそ、生徒が飲酒したり、良からぬことをしたとして、

 それを見回って注意したり、発見して指導する教員は、

 飲んだ人以外の人だからね。」

「それって、

 一緒に引率してるのに、

 なんか、不公平ですよね。」

「そのとおり。

 だから、今から考えると、滑稽なんだよ。」

「それで、不平と言うか、

 文句とか、不満は出なかったんですか?飲まない教員から。」

「もちろんあったよ。

 でも、くすぶってるって感じだったかな、その頃は。」

「それって、不協和音て言うか…、

 マズいですよね。

 特に、修学旅行って、ただでさえ、教員の手が足りないわけだし、

 一致団結しないと、いろいろがうまくいかなくなってしまうでしょ。」

「そうだよね。

 でも、当時は、

 まあ、なんと言うか…、

 我が道を行くって言うか、

 協調性のない教員も、今よりはたくさん居たからねぇ。」

「そうなんですかぁ…。」

「うん。

 で、だいたい、そういう教員がトラブルメーカーになるんだよね。」

「まあ、そうでしょうね。

 でも、迷惑な話ですよね。」

「だね。

 でも、やはり、正義は勝つと言うか(笑)、

 だんだん、時間とともに、不平不満がもっと大きな声になって、

 それでおそらく、旅行先での飲酒はやめましょうって、

 変わって来たんじゃないのかな。」

「なるほどぉ…。

 やはり、おかしいと思ったことは、

 声をあげていかないと駄目なんですねぇ…。」

「ん?

 平井さんも今、何か、おかしいと思ってることがあるの?」

「そりゃあ、ありますよ。

 でも、なかなかそれを言っていくと言うのは、

 ハードルが高いと言うか…、

 できないですね。」

「そっか。

 それってさ、じゃあ、いつと言うか…、

 どうなったら言えるようになる?」

「え?

 いつになったら言えるか?ってことですか?」

「うん。」

「うーん。

 それは、僕はまだ…、

 教員2年目だし…、もうちょっと経験を積んでいけば…、

 言えるようになるんじゃないかなと…。」

「経験て、どのくらい?」

「うーん…、

 少なくても10年ぐらいかなぁ…。」

「そっか。

 でも、平井さんね。

 そういうふうにモラトリアムする人で、

 いざ、その時が来て、言える人って、私は見たことがないよ。」

「え?

 うーん。

 それって、どういうことですか?」

「うん。

 つまり、そういう人は、

 今、言えない理由を見つけて、そのせいにしてるだけで、

 結局は、いつまで経ったって、言えないんだよ、そういう人は。」

「…。」

「理由を見つけるってのは、

 結局は、自分の弱さをカモフラージュしてるだけだから、

 まず、間違いなく、今も、将来も、言えないね。

 自分の弱さを克服しない限り。

 平井さんは、そうは思わない?」

「…。」

 

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