創作読物82「人から、認められたいってことなんですかね?」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「そうですかぁ…。」

「そういう意味では…、

 その生徒指導の先生はね…、

 そうだ、仮にT先生としておこうか…。

 そのT先生は、確かに体罰はいけないけれども、

 なんというか…、威厳があって…、もちろん、冗談も言うけど、

 一方で、孤高的な面や雰囲気もあって…。

 魅力的な人だったよ。」

「藤井先生にとってのロールモデルですか?そのT先生は。」

「うーん。

 ある意味、そうだったのかもね。今振り返ると…。

 当時は、なに?この人、っていう変な人も周りにたくさんいたけど、

 ロールモデル的ないい先生もたくさんいたね。」

「いいですねぇ…。」

「平井さんの職場には居ないの?」

「居るんでしょうけど…、

 僕に見る眼がないんで…。」

「そう。

 まいっか。

 そのT先生はね…、

 厳しい面もあったから、

 いわゆる悪の連中からは恐れられていたけど、

 でも、そんな連中の中でも、人気があってね。

 不思議な魅力のある人だったよ。」

「居ますよね、そういう先生。」

「うん。

 なので、私も、

 そのT先生からいい影響も受ければ…、

 良くない影響も受けたんだな、きっと。」

「体罰ということですか?」

「そう。

 修学旅行先で、

 男子3名が羽目を外して、

 朝まで女子部屋に潜り込んでたのを発見した時、

 もちろん、その場で強く叱ってれば、それだけで済んだというか、

 済ますこともできたんだけど…。」

「発見したのは、

 担任の藤井先生ご自身ですからねぇ…。」

「うん。

 ただ、その時に…、

 私の頭に過ったのは…、

 こういう時は、示しをつけなきゃいけない、ってことだったんだよ。」

「T先生の顔が浮かんだんですか?」

「もう、覚えていないけど…、

 たぶん、そうだったんだと思う。

 だから、生徒のためというよりも、

 むしろ、こういう時には毅然とした態度で、示しをつけなきゃ、という…、

 言うならば、自分のために3人に平手打ちをしたわけだよ。」

「なるほどぉ。

 先生は、体罰は、塾以来だったんですか?」

「そうだね。

 アルバイトの塾講師ではなく、

 いわゆる教師になってからは、その時が初めて…。

 そして、それで最後かな(笑)。」

「そうなんですか…。」

「うん。

 そうだよ。

 それが最初で最後。

 当然だけど…、あまり、気持ちいいもんじゃないし…、

 もちろん、後味が悪かったし…。」

「その3人の男子生徒は、どうでした?」

「うん。

 その時は、現場を押さえられたんだから…、

 観念して、殊勝な態度だったよ。

 殴られてもしょうがないと、覚悟というか、観念してたんじゃないかな。」

「そうですか。」

「でね、

 殴ってから、暫くたって、

 その3人の本来の部屋に様子を見に行ったんだよ。」

「ええ。」

「そしたら、まあ、反省してるふうで、

 おとなしくしてたから、私が、大丈夫か、頬っぺたは?って聞いたら、

 そのうちの一人が、先生、悪いことした生徒を殴っといて、

 そんなこと聞いちゃだめですよ、って(笑)。」

「そんなやり取りがあったんですか…(笑)。

 まあ、ばつが悪かったんでしょうね、照れ隠しというか…。

 でも、藤井先生は、好かれてたんですね。」

「そうかね。」

「今のやり取り聞けば、なんとなくわかりますよ。」

「うん。

 そうかもね。

 少なくとも、根には持たれなかったからね。」

「でしょうね。」

「でもね、平井さん。」

「はい。」

「体罰って、

 やはり、塾の時みたいに、同調圧力でやっちゃうこともあるし、

 修学旅行の時みたいに、生徒のためというよりも、

 生徒のためを装って、結局は、自分の存在を示すというか…、

 まさしく、示しをつけるためにやっちゃう、っていうこともあるんだよね。」

「そういう部分もあるのかもしれませんね…。

 何か、例えは悪いかもしれないですけど…、

 戦争で、兵隊が敵を殺して初めて、一人前扱いされるような…。」

「なるほど…。

 そういう意味では、

 歪んだ承認欲求なのかもね。」

「承認欲求ですか…。

 人から、認められたいってことなんですかね?」

「うん。

 それも、生徒からではなく、同僚たちからね。」

「でも、体罰する教師は、同僚たちからも、ドン引きされてますけどね、今は。」

「だから、

 歪んだ承認欲求ってことだよ。

 結果はともかく、少なくとも体罰する時点では、

 そういった心理も働くんじゃないかな?」

「そんなもんなんでしょうかね…。」

「まあ、

 あくまでも、1つの要素としてね。」

「体罰には、他の要素もあるんですか?」

「そりゃあ、もちろん、あるでしょ。」

「何ですか?それは。

 先生には、わかってるんですか?」

「私が、というよりも、

 そうした実験があるからね。」

「体罰の実験ですか?」

「いや、

 人はなぜ、他者を攻撃するかっていう実験かな。」

「へー。

 面白そうですね。」

 

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