創作読物97「自分らしく生きるって、もしかしたら、辛いことのほうが多い」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「なので、

 お母さんや先生たちは、

 陽香さんの不登校の理由は、友達関係のもつれ、

 と思ったんだね?」

「そうですね。

 うーん、でも、それも半分は本当と言うか…、

 K子とのいざこざで、

 確かに人間不信というか、友達が恐くなって…、

 だって、それまで、仲良くというか、

 普通に遊んだり、話したりしてた子たちが、

 急に、ガラッと態度が変わって…。

 先生、

 人って、そんなに簡単に変われるものなんですかねぇ?」

「うーん。

 変わるというか…、

 そういう人たちには、そういう面がもともとあった、

 と思ったほうが、当たってるというか…、

 状況の理解は、しやすいのかもね。」

「なるほどぉ。

 今だったら、そうやって冷静に考えることもできる気がしますけど、

 その時は、もう駄目でしたね。」

「ガラッと態度が変わること、

 それも節操ないというか、

 朝はこう言ってたのに、その日の夕方には、

 正反対のことを言う、ってのを豹変て言うんだけど、

 もともと金魚の糞は、金魚の身体にくっついて、

 あっちフラフラ、こっちフラフラしてるだけだから、

 金魚が、急に泳ぐ向きを変えれば、糞も変わらざるを得ないというか…。」

「そう考えると、

 なんか、可笑しいというか、滑稽ですね(笑)。」

「風見鶏とも言うよね。」

「ああ、そうですね。

 風見鶏は、風が北から吹けば、北を向いて、

 南から吹けば、南を向くしかないですもんね。」

「うん。

 そうだね。」

「つまり、自分には、こうしようという思いや考えがないというか…。

 仮に、あったとしても、そうできない人たちなんですね。」

「そうできないのは、なんでだと思う?」

「うーん。

 結局は、やはり勇気とか、信念がないんじゃないのかなぁ…。」

「勇気とか、信念かぁ。

 確かに、それもあるかもしれないけど…、

 私は、もっと単純なんじゃないかと思うけどね。」

「もっと単純?」

「うん。

 要は、楽だからじゃないのかな、ってね。」

「楽、かぁ。」

「人って、

 右に行くべきか、左に行くべきか…、

 つまり、岐路に立った時って、

 結局、単純には楽そうに見える道を選ぶ人が多いんじゃないかな、とね。」

「でも、楽そうに見える道が、

 本当に楽な道かどうかは、行ってみないとわかんないですよね。」

「だね。

 でも、その時の金魚の糞たちは、

 少しは考えたというか、直感的に陽香さんの味方をするより、

 K子さんの側についたほうが楽だと思ったんだろうね。」

「きっと、そうなんでしょうねぇ…。

 でも、私にはできないな、そういう、友だちを裏切るようなことは。」

「陽香さんは、

 どんな時でも、ちゃんと自分の頭で考えて、

 進む道を見つけようとするんだろうね。」

「そんなふうに言われると、

 そうでもないような気もしますけど…。」

「でも、今まで、いろいろと陽香さんと話した限りでは、そう感じたけどね。

 ただ、大事なことは、それをずっと貫けるかだと思うけど。」

「貫けるか、ですか?」

「うん。

 つまり、君子豹変と言うか、

 陽香さんにも、楽な道を選びたいと思う時が来るからね、必ず。」

「うーん。

 でも、なるべく、自分は自分らしく生きたいというか、

 自分を曲げたくはないですけどね。」

「うん。

 陽香さんには、そういうところがあるからなおさら、

 いざ、岐路に立たされた時に、人一倍葛藤するんじゃないのかな、とね。」

「そうかもしれないですね。

 でも時々、そういうのって、なんか、損な気もしますけど。」

「だろうね。

 陽香さんはまだ若いからね(笑)。

 自分らしく生きるって、もしかしたら、辛いことのほうが多いからね。」

「ですね(笑)。

 でも…、

 なんか、流されるのは、嫌と言うか…、

 やっぱり、辛くても…。」

「うん。

 結局は、あとでどっちのほうが後悔しないかってことなんだろうね。

 で、陽香さんは後悔してるのかな?不登校を選んだことを。」

「不登校を選んだ、ですか?」

「ああ。

 陽香さんには、その自覚は恐らくなくて、

 そうせざるを得なかった、というか、

 成り行きでそうなったように思ってるかもしれないけど、

 人って、やはりその都度、選んでるんだよね、何事も。」

「今まで、そんなふうに考えたことはなかったけど…、

 でも、言われてみれば、確かにそうかもしれませんね。

 自分で、不登校を選んだんですね、私。」

「で、それを後悔してる?」

「最初の頃は、後悔と言うか…、

 なんで?っていう気持ちが強かったですけど…。

 今は、後悔というのは当たらない、と言うか…。

 ええ。

 後悔ではないですね。

 こういう生き方もありかな、って思えて来たんで。」

「そうか。」

「ただ、

 後悔ということではないけど…、

 不登校を選んだ本当の理由を、

 誰にも言えてないというのは…、

 あまり良くないのかなって…。」

「それで、今日、ここに来たんだね。」

「あ、はい。」

 

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