創作読物116「ほんとは、その時に気づけば良かった」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「それで、結局、関東大会には行けなくて…。」

「じゃあ、そのセンターの先輩は、

 苦しかったろうね。」

「ええ。

 安田先輩って、言うんですけど、

 もう、大泣き、というか…、

 ベンチで泣き崩れちゃって…。」

「うん。」

「で、顧問の先生が…、

 あ、顧問は、バスケが専門の体育の先生で、

 木村という人なんですけど…。」

「木村という人…ね。」

「あ、ええ。

 その木村先生が、

 試合に負けたんで、これから学校に帰って練習するぞって。」

「まだ、試合は残ってたの?」

「ええ。

 インターハイ予選では、勝ち残ってたんで。」

「なるほど。」

「で、その日は、夕方まで5時間ぐらいかな、

 猛練習させられて…。

 で、練習が終わったら、

 木村先生が、安田先輩だけ残して、

 お前たちは帰れ、って言うんで…。」

「うん。」

「そんなこと、今までなかったんで、

 なんでだろ?と思ったんですけど、

 顧問から特別の話でもするのかな、と思って、

 私たちは皆、そのまま帰ったんですけど…。」

「うん。」

「ほんとは、その時に気づけば良かったんですけど…。」

「何か、感じたんだね?」

「ええ。

 なんか、ちょっと怪しいというか…。」

「うん。」

「そしたら、翌日、

 顧問が急に、次の日曜日に韓国の中学生のチームと

 練習試合するぞ、って言い出して。」

「韓国のチームと?」

「ええ。

 韓国って、日本よりもバスケは強いんですよ。」

「そうなんだ。」

「で、韓国の中学生ナンバー1のチームが、

 日本の中学生ナンバー1のチームと、

 親善試合をするというので、来日してたらしく…。

 で、練習相手を探してたらしいんですけど…。」

「それで、陽香さんのチームと練習試合を?」

「ええ、そうなんです。

 なんか、顧問の木村先生というのは、

 何と言うか…、バスケの世界では、顔が利くらしくて…。」

「ふーん、そうなんだ。

 で、試合したの?」

「ええ。

 次の日曜日に、うちの学校で。」

「強かった?」

「そりゃあもう、

 全然敵わなかったですね(笑)。」

「そっかぁ。」

「ただ…。」

「ただ?」

「ただ、その試合で、

 センターの安田先輩が…、

 全然歯が立たなかったんですよね、ゴール下で。」

「そうか。

 先輩は、スランプになっちゃったのかな?」

「うーん。

 ただ、関東大会予選に負けてからの1週間は、

 先輩は、なんか、プレイが冴えないというか…。

 なんか、悩んでる感じはあったんですけど。

 それが、試合でも、出ちゃって…。

 ほんと、らしくなかったと言えば、そうなんですけど…。」

「うん。」

「韓国のバスケって、ちょっとラフなんですよね。」

「そうなんだ。

 サッカーの日韓戦でも、そうだけど、

 なんか、日本相手だと、燃えるらしいね、韓国のチームって。」

「ええ。

 なんか、練習試合でも、闘志むき出しって感じで、

 特に、センターの先輩が、穴だと思ったのか、

 次第に当たりも強くなって…。

 コテンパンにやられた、って感じでしたね、先輩は。」

「うん。」

「で、

 韓国のチームが帰った後、

 また、特訓があって…。」

「もしかして、

 練習の後に、また安田先輩だけ、残されたの?」

「ええ、

 そうなんです。

 ただ、私はその日、部室に忘れ物しちゃって、

 他の部員たちと別れて、途中で学校に引き返したんですよね。」

「うん。

 で、部室に行ったの?」

「ええ…。

 体育教官室に、部室の鍵を取りに行ったら、

 まだ、返却されてない、と言われて。

 おかしいな、と思いながら…。」

「部室に向かったんだね。」

「ええ。

 で、部室に入ろうとしたら、

 中から、男の人の声がして…。

    私、もうびっくりしちゃって。

 だって、女子の部室ですからね。」

「うん。

 で、その声に聞き覚えがあったんだね?」

「ええ…、

 顧問の木村先生の声でした…。」

 

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