創作読物117「口止めされたんだね」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「そうかぁ…。

 で、陽香さんはそこで、

 聞いちゃいけないこと、

 見ちゃいけないことを見ちゃった、ということかな?」

「ええ…、

 そうですね…。」

「言いにくい?」

「そうですね…、

 いざとなると…、ちょっと。」

「そっかぁ。

 たとえば…、

 そうだなあ…、

 顧問の先生が…、先輩のマッサージしてたり…、とか?」

「えっ?

 先生、なぜわかるんですか?」

「う、当たりかぁ…。

 いやあ、そういうスクールセクハラは、

 残念ながら、そう珍しくはないんでね。」

「え?

 そうなんですか?」

「もちろん、

 よくあることではないけれど、

 スクールセクハラの事例としてはね…、

 マッサージだけでなく、さらに性行為を強要したりとか…。」

「いえ、

 安田先輩は、そうではないんですけど…。

 ただ、廊下でやり取りを聞いた時は、

 先輩は、そういうの嫌がってるようだったんです…。

 で、私、恐る恐る窓からちょっと覗いたら…、

 木村先生が、先輩の太ももの辺りを触ってて…。」

「うん。」

「私もう、

 めまいがしそうになって…、

 そのまま部室から離れて…、

 泣きながら家に帰って…。」

「ショックだったんだね。」

「ええ。

 だから、その後のことは見てないから…、

 …そのう…、何というか…。」

「うん。」

「でも、先輩は、センターやってたぐらいだから、

 体格も私なんかよりも、全然良くて…。」

「そっかぁ…。

 で、陽香さんは、その翌日とかも、

 練習とかはしたの?」

「あ…、はい。

 インターハイ予選が次の日曜日だったので…、

 休むわけにもいかず…、

 逆に、なんとか忘れようと、夢中で練習しました。」

「うん。」

「ただ…、

 やはり、練習が終わると、思い出しちゃって…。

 先輩のことも心配だし…。」

「うん。

 陽香さんは、その時点では、

 そのことを誰かに言ったり、相談したりはしたの?」

「いえ。

 とても言えなかったです、誰にも。」

「そうか。」

「ただ、

 私も、プレイにどうしても集中しきれなかったし…、

 で、次の日の練習の後に…、

 先輩に直接聞いちゃったんです。」

「うん。

 どういうふうに?」

「あまり、考えもまとまらなかったので…、

 先輩、木村先生とのこと…、大丈夫ですか?って。」

「そしたら?」

「そしたら…、

 先輩、急に慌てて、怒り出して…、

 何が?何のこと言ってるの?って。

 ものすごい勢いで、聞いてくるので…、しょうがなく、

 おとといの練習試合の後、

 忘れ物取りに部室に戻ったら、

 先輩が、木村先生にマッサージされてるとこ、見ちゃったんです、

 と、そのまま正直に言ったんです。」

「そしたら?」

「先輩は、もう真っ青になって、

 誰かに言ったの?って。

 言ってないです、と答えたら、

 絶対黙ってて!誰かに言ったら、承知しないから、って…。」

「口止めされたんだね?」

「ええ。」

「で、実際、誰にも言わなかったの?」

「今日、先生に話すのが、初めてです。」

「なるほどぉ…。

 でも、それで終わったわけではなかったんだね?」

「はい、そうなんです。

 翌日、学校に行ったら…、

 あ、これは、はじめに話しておいたほうが良かったんですが…。」

「うん。」

「実は、その時、私には同じクラスの桜井めぐみっていう子と、

 親友というか…、とっても仲が良かったんですけど…。

 そのめぐみは、実は安田先輩のいとこで、

 二人もとても仲良しだったんですよね。」

「うん。」

「で、

 どうも、先輩がめぐみに何か言ったらしく…、

 その日から、めぐみが急に私を無視するようになって…。」

「ほう。」

「それが、

 無視するだけじゃなくて…、

 クラスの女子たちに、私の悪口というか…、

 あることないこと、言いふらし始めて…。

 結局、知らないうちに、私はハブかれちゃったんです…。」

「いじめられた、ということ?」

「ええ、そうですね。」

 

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