創作読物 14「ほんとに難しいですね、会話って」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「お母さんから見て、ご主人と陽香さんとの関係は
どんなふうに映ります?」
「うーん。
親子なんだから…、しかも一人っ子なんだから、
もっと、何て言うか、仲良くというか…、
当たり前の会話はしてほしいとは思いますけど…。
でも、思春期の娘と父親なんて、そんなもんかなぁ、とも。
私も父親とは、そんな感じでしたからねぇ、特に中高生の頃は。」
「そうでしたか。
で、今はお母さんとお父さんとは?」
「あ、ええ。
お蔭様で、普通に行き来もしているし、
仲はそんなにいいほうじゃないかもしれないけれど、
悪くはないですよ。」
「じゃあ、ご主人と陽香さんとのことも、そんなに心配はいらない?」
「うーん。
だといいんですけど…、
陽香は今、大事な時期なので、
主人にも、もうちょっと関心を持ってほしいんですけどねぇ。」
「そうですか…。
でもそれ、もしかすると…、
ご両親の関係性のほうが、まさしく関係してるかも、ですね。」
「え?
私と主人の関係がですか?」
「ええ。
でもそれについては、またそのうちに話題にする機会が来ると
思いますので…。」
「そうですか…。
なんか、よくわかりませんけど…。」
「ええ、またの機会にしましょう、それは。
今のお母さんの頭は、ご主人とのことよりも、
まだ陽香さんのことで、ほとんど占められてますからね。
それに、前回のやりとりの時に、私がその話題を振ったら、
夫婦のことはいいですよ!って、おっしゃってましたもんね(笑)。」
「あら、そうでしたっけ?そんなこと言いましたっけ?」
「ええ、おっしゃいました(笑)。
ただ…、
陽香さんにとってお二人は、まさしくご両親なんですから、
そのお二人の関係、つまり、わかりやすく言うと、
ご両親の仲の良し悪しというのは、
当然、娘さんである陽香さんにも、
大なり小なりの影響を与えているわけですからね。」
「…まあ、それは確かに、そうだとは思いますが…。」
「思いますが?」
「あぁ、いえ。
今まで、そういった感じでは考えてなかったもんで…。」
「そうですか。
ま、じゃあこの話は、このへんにしておきますか。
また、ちゃんと意見交換する機会は来ると思いますので。」
「あ、はい。」
「えーと、確か前回私は、
お母さんにとって、学校というのは絶対なんですか?
といったことを聞きましたよね?」
「あ、はい。そうでしたね。」
「それについては、この一週間、何か考えたりはしました?」
「あ、いや…、特には、深くは考えませんでしたが…。」
「深くは…、ということは、少しは考えたんですか?」
「あー、いえ、ほとんど…、考えていませんでした…(笑)。
先生は、言葉遣いに細かいというか、ほんと厳しいですねぇ(笑)。」
「ははは、すいませんね(笑)。
でも、言葉って大事ですからね。
ちょっとした使い方でニュアンスが違って伝わちゃったり、
誤解を生む、なんてことが結構あるんでねぇ。」
「そんなもんですかねぇ。」
「そんなもんなんですよ、結構(笑)。
特に、その人が言葉選びを意識してる時は、まあいいんですが、
無意識のうちに使ってる場合は、特に注意が必要なんでね。」
「注意が必要?」
「ええ。
つまり、今だって、飯塚さんは、深くは考えませんでした、
とおっしゃったでしょう?」
「ええ。」
「すると、それを聞いたほうは、
そっか、じゃあ、少しは何か考えたのかな?と
思っても不思議ではないですよね?」
「まあ、確かに。」
「それって、最初は小さな誤解かもしれないけれども、
そういったことが積み重なっていくと、
大きな誤解というか、その人との関係がちぐはぐになっていくというか、
徐々に離れていくというか…。
まあ、あまりいいことはないですからねぇ。
なので、誤解は小さいうちに解消しておかないと、
気づいた時には、お互い誤解が誤解を生んで、
誤解の塊になっちゃいますからね(笑)。」
「なるほど。」
「そして、誤解の始まりの大体は、言葉から生じるのでね。」
「コミュニケーションの難しさってことですか?」
「そう言えるかもしれませんね。
人って、やっぱり誰かの言葉に反応して、
何かを考えたり、さらに言葉にして返したりするんでね。
ただ厄介なのは、そういう時、大体は自分なりの解釈というか、
もっと言えば、自分に都合の良いように解釈するっていう傾向が
誰にでもあるでしょう?」
「確かに、そういうところってありますね。」
「なので、やはり、少なくとも自分が発する言葉には、
注意が必要なんじゃないかと、ね。」
「そういうことなんですね、先生が言葉にこだわるのは。」
「まあそれでも、いくらこちらが言葉選びに気を使っても、
誤解される時はされちゃうんですけどね(笑)。」
「そう考えると、ほんとに難しいですね、会話って。」
(つづく)
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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