創作読物124「陽香さんの話しやすいほうから話せばいい」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

ピンポーン、ピンポーン

「あ、平井です。

 どうもご無沙汰しています。」

「おう、平井さん。

 久しぶりですね。

 さあ、どうぞ。もう陽香さんは来てるんで。」

「そうですか。

 じゃあ、お邪魔します。」

                                      

 

「あ、平井先生。

 飯塚です。

 先日は、いろいろとありがとうございました。」

「あ、いやいや。

 今日は、認定試験の資料も持ってきたから…。」

「平井さん、

 まあ、その話はお茶でも飲みながら、ゆっくり話しましょう。

 これ、陽香さんのお母さんからの戴き物なんだけど、

 美味しそうだから、3人でいただこうと思って待ってたんだよ(笑)。」

「ああ、そうですか。

 私は手ぶらで来ちゃいましたけど(笑)。」

「ははは。

 ま、場所は違うけど、家庭訪問のようなものだからね、今日は。」

「そうですね。

 すいません。」

「陽香さんも、ここのところ、何回か来てくれてね、ここに。」

「そうみたいですね。」

「あれ?

 陽香さんは緊張してるのかな?

 平井先生が来たら、急に無口になって…。

 さ、陽香さんも一緒に食べよう。」

「あ、はい。

 ありがとうございます。いただきます。」

「平井さんのお茶はここに置くね。」

「はい、ありがとうございます。」

「さて、

 私が進行役を務めるということでもないんだけど…、

 何の話題から始めようかね?陽香さん。」

「ええ。

 平井先生。

 お電話でもお伝えしましたが…、

 改めてお話しすると…、

 私、高校を辞めて、認定試験合格に向けて勉強しようと思って。」

「うん。

 それをこの前、飯塚さんから聞いてね…、

 僕もあれからいろいろと考えたんだけど…、

 今日、飯塚さんに聞きたかったのは、

 まずは、大学に行って何を勉強したいと思ってるのか、

 それとも、とにかく大学に行こうと思ったのか、

 そのあたりのことと…、

 あとは、認定試験は別に、高校を辞めなくても受けられるし、

 もし、飯塚さんが学校に来れるなら、

 高校で単位数を稼いだほうが、認定試験の科目も少なくて済むから、

 有利になるんでね。

 なので、受験は中退とセットで考えてるのか、

 もしそうなら、それは何故なのかな、と思ってね。」

「・・・・・。」

「あ、ごめん。

 ちょっと急にまくしたてちゃったね。」

「いえ、いいんです。大丈夫です。

 今日は私もそのことをお話ししなきゃと思って来たので。」

「陽香さん、

 何故、大学に行きたいのか、

 ということと、何故、高校を辞めようと思ってるのか、

 まあ、陽香さんの話しやすいほうから話せばいいよ。」

「ええ、ありがとうございます。

 平井先生。

 私、ここにお邪魔して、

 藤井先生といろいろとお話しするうちに、

 心理学に興味が湧いて来たんです。

 で、最近も心理学の入門書とか、

 読み始めたんですが、

 心理学って、ほんといろんな分野があると言うか…、

 たとえば、家族心理学とか、社会心理学とか、

 犯罪心理学なんてのもあるし、

 それから、藤井先生が得意な行動心理学とかも…。」

「え?

 私が得意?」

「ええ。

 だって、藤井先生って、

 人のしぐさや表情や、話し方とかで、

 いろいろと想像してますよね?」

「え?

 まあ、それはそうかな。」

「で、それがよく当たるじゃないですか。」

「そうかね。」

「ああ、それは僕も感じます。

 なんか藤井先生と話してると、

 見透かされてる、というと語弊がありますが…。」

「それは、語弊があるね(笑)。

 うん、でも、そうかもね。

 特に行動心理学を学んだわけではないけど、

 人のちょっとした表情とか、言葉遣いや振る舞いに、

 その人の性格とか、思わず出ちゃうことって多いから、

 それを見て、いろいろ考えるのは、面白いからね。

 ついつい、やってるのかもね。」

「ええ。

 だから私も、将来、どんな心理学に今以上に興味が出るか、

 それは今はわからないんですけど、

 でも、きっと、夢中になれるものがあるんじゃないかな、と思って。」

「飯塚さんは、それで大学の心理学部を目指したいんだね?」

「はい、そうなんです。」

「飯塚さんは、それをご両親には伝えたの?」

「はい、一応。」

「一応?」

「ええと、母にはちゃんと心理学をやりたいので、

 というところまで話したんですけど…。」

「うん。」

「父には、そこまで話す前に、反対されて…。」

「お父さんは反対なのか…。」

「ええ。」

「それは何故なのかな?」

 

(つづく)