創作読物 24「人って、やはりこだわりの強い生き物」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「そうですね。

 人って、やはりこだわりの強い生き物ですからねぇ。」

「こだわり、ですか?」

「ええ。

 こだわりって、結局、我を通すことですから、

 ある意味、こだわりイコール自己中ってことですよね?」

「ああ、なるほど。

 こだわりイコール自己中ってのも、なんか新鮮な感じで響きますね。」

「まあ、こだわりにも、いいこだわりと、そうでないこだわりが

 あるかとは思うんですけど…。」

「いいこだわりと、そうでないこだわり?」

「ええ。

 こだわりってのはね、

 もともとはあまりいい意味を持ってなかったんですけどね、

 最近では、例えば、こだわりの逸品とか、

 いい意味でも使うようになってきて…。」

「ほう、なるほど。

 そうですね…。

 料理なんかでも、食材にこだわる、とか言いますねぇ。」

「ええ、そうですね。

 いい意味のこだわりってのは、

 たぶん、その人が意識してこだわってることだから、

 いいのでしょうけど…、

 問題は、良くないこだわりのほうなんですよね。」

「と、おっしゃると?」

「つまり、良くないほうのこだわりは、

 その人の本質というか、おそらく無意識でこだわってるわけですから、

 その方向性が周りの人のそれとズレてる場合には、ちょっと面倒というか、

 こだわってる本人も、わかってないわけですからね。」

「自己中で、突っ走っちゃう、ということですか?

 しかも、自分がズレてるという自覚もないので、

 むしろ、周りが悪いというか、ズレてると思っているというか…。」

「そうですね。

 そして、その人に権力というか、

 力がある場合には、ほんと、厄介なことになりますよね。」

「なるほど。

 その人に周りが振り回されちゃうってことですかね?」

「そうですね…。

 ところで、飯塚さんは、振り子の原理って知ってます?」

「え?振り子の原理ですかぁ?」

「ええ。

 と言っても、これは私が勝手に名付けたんでね…、

 ご存じのはずないんですけど(笑)。」

「そうなんですか。

 で、どういうことですか?その振り子の原理って。」

「ええ。

 これは私が教員になって、2,3年経った頃なので、

 もう今から35年も前の話なんですけど…。

 なので、もう時効ですね(笑)。

 実は、ある生徒を巡っての生徒指導案を決める時に

 気づいたことなんですけどね。」

「へえー、なんか、興味ありますね。

 学校って、そういう時、どうやって決めるのかなって。」

「でもまあ、今になって思えば、当たり前というか、

 大したことではないんじゃないか、とは思うんですけど…。」

「でも、話してください。聞きたいです。」

「そうですか…。

 いや、私の初任校は、まあ、学校としては中堅校というか、

 生徒指導もそんなに苦労がないというか…。」

「いわゆる落ち着いた学校ってことですか?」

「そうですね。

 まあ、学校というより、学園ていう言葉がピッタリするような(笑)。」

「そうですか。

 なんか、懐かしい響きですね、学園て。」

「そうですけど…、

 でも、生徒にとっての学園て、教員にとっては楽園になりがちで…。」

「え?そうなんですか?」

「ええ。往々にしてね。

 つまり、生徒指導で忙殺されることがない学校って、

 要は、楽なんですよ、教員にとっては。」

「なるほど。

 小・中学校と違って、高校は学校によってだいぶ違いますからねぇ。

 生徒の様子って言うか。

 それって、進学率の差なんですかねぇ?」

「そうですねぇ。

 まあ、進学率は1つの物差しに過ぎないんだけど、

 今や、というか、ずーっと万能な物差しになっちゃってますからね。」

「やはり、子ども以上に親は、まずはそこに関心がありますよね。」

「ですねぇ。

 で、私の初任校は、生徒指導案件はあまり出ないし、

 進学率は、まあそこそこ。でもって部活動は盛んという、

 まあ、生徒が高校生活をエンジョイして、

 青春を謳歌するには、もってこいの学校だったんですよね。」

「で、まさしく学園だと。」

「ええ、そうですね。

 でも、そういう学校って、さっき言ったように、

 教員にしてみると楽なんで…。

 でも、楽な状態が続くと、やはり人って、現状維持を望むのでね。

 だんだんと手抜きというか、活力がなくなって…、教員の側にね。」

「なんか、わかるような気がしますね。

 先生たちも人間ですからねぇ。」

「なので、私は密かに、うちの学校は教員困難校だって言ってたんですよ。」

「え?

 教育困難校ってのは、なんか聞いたような気がしますが…。

 教育困難校でなくて、教員困難校ですか?」

「ええ。

 生徒のほとんどは、とてもいい子たちなんですが、

 教員はと言うと…、ちょっとマズいんじゃないの?

 という人たちが多くて…。」

「へぇー。

 教員困難校って、でも、なんかわかる気もしますねぇ。」

「そうですか。言い得て妙でしょう(笑)。」

「そうですね(笑)。」

「それがね、ある年の4月早々に、確か喫煙をした生徒が出ましてね。

 その指導案を決める職員会議があったんですよ。」

「ええ、ええ。」

「当時は、初めて喫煙で指導される場合は、

 家庭謹慎3日というのが、相場と言うとなんですが、

 まあ、だいたいそれが一般的だったんで…、

 その時の生徒指導原案もそうだったんですね。」

「ええ。

 いわゆる停学処分ってことですね。」

「まあ、世間的には、家庭での謹慎のことをそう言ってましたね…。

 ところがですね…、その年に他校から赴任してきたある先生が、

 いきなり原案に反対したんですよ。」

「え?そうなんですか?

 反対の理由は何だったんですか?」

「あ、いや、もう理由は覚えてないんですけど…、

 ただもう3日では甘いと…。」

「ただ反対しただけなんですか?」

「いや、修正案として、家庭謹慎5日にすべきだって言い出したんですよ。」

「で、どうなったんですか?」

「確か、その人、4月に赴任して初めて職員会議で発言したんですよ。

 しかも、それが、それまでは何というか、当たり前だった謹慎3日

 に対して、それでは甘いと言い出して…。

 しかも、謹慎5日にするべきだって…ね。」

「それで周りの先生たちは、どんな感じだったんですか?」

 

(つづく)

 

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