創作読物 25「常識なんて、人の数ほどある」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「周りの人たちは、どんな反応したと思います?」
「えっ?
いやあ、わかりません、というか…、でも…、
きっと…、何てこと言い出すんだと、びっくりしたんじゃないですか?」
「まあ、そうですね。
びっくりもしたし、軽く動揺もしたというか…。
で、そのあと、どうなったと思います?」
「え?
どうなったんですか?」
「ええ。
これね、その人が修正案出さなければ、
おそらく無風というか、家庭謹慎3日の原案が
すんなり通っていたと思うんですよ、賛成多数で。」
「まあ、そうなんでしょうね。
だって、それまでは謹慎3日が当たり前って言うか、
特に反対はなかったんでしょう?」
「ええ、そうです。
ところが、その人が…、まあ、爆弾発言と言うと大袈裟ですが、
言わば、静かだった池に一石を投じて、波紋を広げたわけですね(笑)。」
「ええ、ええ。
それでどうなりました?」
「つまり、これ、振り子で例えると…、
それまで触れてなかった振り子が、
その人の発言で、まあ、右でも左でもいいんですが、
大きく片方に振れたんですよね。」
「なるほど。」
「そうするとね、周りの人は、面白いと言っては何ですが…、
その振り子の振れ幅が、大きければ大きいほど、
元に戻そうとする心理が働くんですね。」
「つまり、その人の案に反対する意見が出たんですね?」
「そうなんです。
なんとか、振り子を元あった位置に戻そうとして…、
反対意見が相次いだんですよ。」
「まあ、そうでしょうね。」
「でもね、ここからが振り子の原理ってことになるんですけれど、
その人が振った振り子の振れ幅が、かなり大きかったので、
それを元に戻そうとする過程で、謹慎5日はいかになんでも長すぎる。
なので、謹慎4日ではどうなのか?という意見も出たんですよね(笑)。」
「へえー。
なんか、面白いですねぇ。
というか…、でも、そんなやりとりで決まっちゃうんですか?
生徒の指導の内容が。」
「そうですよね。
このやりとりだけ聞いてると、
なんか無責任というか…、生徒のことを考えてのことではなくて、
単に、教員間の対立というか、ちょっと大げさに言うと、反目というか。」
「そうですよね。
そんなんで決められたら、なんか、納得できないですよね、生徒も親も。
で、結局はどうなったんですか?」
「結局は、落ち着きましたよ、いつもどおりの家庭謹慎3日にね。」
「なんだぁ。
あ…、いや、なんだぁということもないんですけど…、
じゃあ、結局、雨降って地固まったということですか?」
「いや、それがね、確かに雨は降ったんですが、
地が固まったかというと、それがちょっと違うというか…。」
「え?どういうことですか?」
「うん。
つまりね、振り子が大きく振れると、
それを元に戻そうとする力が働くんですけど、
その過程で、少しずつその振り子の振れたほうにすり寄るというか、
引っ張られるというか…。」
「4日にすればいい、という意見が出たり…、ということですか?」
「そうですね。
でも、それだけでなくて…。
まあ、結果は謹慎3日に落ち着いたんですけど、
たぶん、教員たちの何人かは、何というか…、
まあ、判で押したように、謹慎3日でいいのかなぁ?と
考え出した人たちがいたんですよね、その会議が終わってから。」
「というと、つまり、先生のおっしゃる振り子の原理ってのは、
振り子が大きく振れると、それを元に戻そうとする力が発生するけど、
それだけでなく、そのあともそういう影響というか、
振り子が振れたほうに傾くというか…、
そういう効果が出る、ということなんでしょうか?」
「ええ。
おっしゃるとおりなんですよ。
私ね、その時の職員会議のやりとり見てて、わかったというか、
気づいたんですけど…、
つまり、振り子の原理というか、振り子の法則みたいに言うと…、
何か、何にも問題はないみたいに無風だったり、
あるいは、1つのことで、それはもう当たり前のことというふうに
固まってたりしてるものがあって、
それを何とか動かしたい、何かの変化をもたらしたい、と思った時には、
敢えて思い切って振り子を極端に大きく振ればいい、というね。
そういった力学があるんだな、と気づいて、これは使えるなと。」
「はあ、なんか、面白いですねぇ。」
「ですよね。
でも、謹慎5日を主張した教員は…、
たぶん、振り子の原理なんて意識してなくて、
まあ、おそらくその人の前の学校では、
それが当たり前だったんでしょうね。
生徒の喫煙なんて、日常茶飯に起きる学校だったんで。」
「じゃあ、その先生というか、その学校では、
初めての喫煙でも、謹慎5日が当たり前というか…、
常識だったということなんですか?」
「だと思います。
だから、その人は単にその人の当たり前というか、
常識を口にしただけだったんだと思いますよ。経験則からね。
でもまあ、常識なんて、人の数ほどあるわけですからね(笑)。」
「あれ、今、なんかいいこと言いましたね。
メモっとかないと忘れちゃう(笑)。
常・識・は・人・の・数・ほ・ど・あ・る、と…。
よし!」
「なので、その人にしてみても、何か一石を投じるとか、
そんなつもりで提案したわけではないんですよ、きっと。」
「なるほど。
でも、結局はその先生の発言で、ちょっとさざ波が立った、と?」
「そうですね。」
「で、先生はそのやりとりを見て、
振り子の原理に気づいて…、
ああ、いいことに気づいた、これは使ってみようと思ったんですか?」
「ええ、そうなんです。」
「そうですか。
で、その後、使ってるんですか?実際に。」
「ええ。
使ってますよ。」
「どんな時に?」
「ああ…、
飯塚さんに対しても使ってますよ。」
「えっ?
そうなんですか?」
(つづく)
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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