創作読物 33「自負心も責任感も強い」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「じゃあ、特に日本と違う点について、

 かいつまんで、いくつかお話しましょうかねぇ。」

「はい。よろしくお願いします。」

「さあて…、どっから話そうかなぁ…。

 そうだ…、平井さん、日本では学校の責任者は誰?」

「は?

 それは学校長じゃないんですか?」

「そうだよね。

 で、最終的な責任は、教育委員会がとることになってるよね、一応(笑)。」

「ええ、そうですね。」

「でもね、ニュージーランドでは、学校の責任者は校長じゃなくて…、

 BOTって言うんだけどね、学校理事会なんだよ。」

「えっ?そうなんですか?

 そのBOTってのは、何かの略なんですか?」

「うん、そう。Board of Trusteesの略ね。

 で、この組織がすごくてね、

 その学校の保護者代表数名に、校長、教職員代表、地域の代表何人かが

 中心メンバーなんだけど、それに、なんと生徒代表も入っててね。

 その学校理事会が、学校の教育目標や人事、予算面について、

 全責任を負ってるわけ。」

「えっ?

 人事も予算も握ってるってことですか?」

「そう、すごいでしょ(笑)。

 だから、校長の採用や解雇もね、学校理事会に権限があるんだよね。」

「え?

 じゃあ、教育委員会は何やってるんですか?」

「教育委員会は、もう30年以上前に廃止しちゃったんだよ。

 なので、それまで教育委員会がやってたことを、学校理事会に移したってこと。」

「へえー!

 じゃあ、校長はどうやって決めるんですか?」

「校長はね、自分だったら向こう3年で、この学校をこうしてみせるって、

 つまり、学校経営の青写真を公約として掲げて立候補して…、

 保護者や地域住民の選挙で決めるんだよ。」

「それもまた、驚きですねぇ…。

 で、公約が果たせなかった時は?」

「まあ、その時は解雇されるんだね。」

「え?

 じゃあ、校長も、うかうかしてらんないんですね。

 日本みたいに、一度なっちゃえば退職までずっと校長、

 てなことではないんですね…。」

「そう。だから厳しいよね。

 なので、学校経営について、常に学んでいかないといけないわけで…。

 まあ、でも、それって当たり前って言えば、当たり前なんだけど…。」

「でも…、さっきのメンバー聞くと…、

 学校理事会の人たちって…、こう言っちゃなんだけど、 

 いわゆる素人集団じゃないですか。

 そういう人たちが、学校の運営とか経営なんて、できるんですかね?

 教育委員会もないということなら、なおさら。」

「もちろん研修とかね、

 トレーニングは受けられるようになっていて…、

 それは日本で言う文部科学省ね、ニュージーランドでは教育省って言うんだけど、

 そういうところが研修プログラム提供したりしてるんで…。」

「でも、理事会の人たちは、そういうのちゃんと受けるんですか?

 仕事だってあるわけでしょうし…。」

「ちゃんと受けないと、理事として失格でしょ?

 それに、研修とか受けるってのは、義務でもあるけど、権利でもあるからね。

 自分たちが学校任されてるっていう、自負心も責任感も強いんじゃないかな。」

「それも日本とは大違いですねぇ…。

 で、学校評価はどうやってるんですか?」

「うん。

 学校の教育目標立てて、それに見合った教員を確保して、予算も立てて…、

 それをね、つまりその計画を、EROっていう所に出すわけ。」

「ERO?ですか?

 それも略語ですよね?」

「そう。

 確か…、Education Review Office だったかな?

 訳すと、教育機関評価局ね。

 で、すごいのは、そのEROは教育省から完全に独立している、

 つまり、純然たる第三者機関なんだよね、これが。」

「なるほど…。

 日本の場合は、よく第三者機関って言っても、

 結局はほとんどが、関係者って言うか…、

 ほんとに中立で公正公平な立場に立てるのかな?

 って人たちが入ってますからねぇ…。

 だから、手心が加わるとか…、忖度しちゃうとか…。」

「そうだね。

 予定調和というか…、出来レース的なことが多いよね…。

 で、EROは何年かごとに、校長の取り組みというか、

 BOTそのものの取り組みを評価するんだよ。

 教育内容とか、設備とか、システムとかが、ちゃんと基準に達してるか、とか。

 で、それをちゃんと公表するんだよね。」

「それなら、BOTの人たちも必死ですよね。

 素人なんて言ってらんないですからねぇ。」

「そう。

 なので、彼らは、教育省の研修だけでなくて、

 民間のそういった研修とかも進んで受けてるらしいよ。」

「そのあたりは、民間の競争原理も働いてるんですね。」

「まあ、やはり、自分の子どもが通ってる学校とか…、

 地域住民にとっても、自分たちの地域の学校って、

 やっぱり、いい学校になってほしいでしょうからねぇ。

 関係者は、みんな真剣に取り組んでんだよね。」

「なるほどねぇ…。

 日本みたいに、文科省とか教育委員会といった行政機関が、

 何というか、学校を一元管理するんじゃなくて、

 学校の当事者とか、ステークホルダーに経営を任せてるってことですね。」

「ステークホルダーね…。

 そう、まさしく利害関係者なんだから、

 自分たちに利することは積極的に行い、

 害をなすものは、自ら排除していくっていうね…、

 まあ、1つの理想的な形かもしれないね。」

「いやあ、びっくりですねぇ。

 そういうの聞いちゃうと、日本て、つくづく駄目と言うか…。

 なんか、むしろ、御上が各学校を牛耳ってたり、足引っ張ってたり…。

 この前の英語の民間試験の件とか、記述式の問題の件とかも、

 全然現場のことがわかってないんだなぁ、って感じで…。」

「まあ、ニュージーランドの取り組みは、大雑把に言うとこういうことで、

 他にもいろいろと参考になることはあると思うんで、

 気が向いたら、調べてみてくださいよ。」

「あ、はい。

 ありがとうございます。早速調べてみます…。

 でも、なんで藤井先生は詳しいんですか?ニュージーランドのこと。」

「あ、いやあ、

 40代後半の時に、視察に行ったんですよ、国の派遣で。

 ちょうどその頃、日本でも、学校組織マネジメントってのが、

 注目されつつあった時期でね。」

「学校、組織、マネジメントですか?」

「うん、そう。

 でも、なかなか難しいよね、

 おっしゃるように、日本の学校の体制と言うか、行政の体質というか…、

 なんか、昔は日本も教育先進国なんて言われた時期もあったんだろうけど、

 20世紀で、それも足踏みしちゃってるというか…、

 もう完全に教育後進国になっちゃってるんじゃないかな、今は。」

「そうかも、ですねぇ。

 フィンランドなんかと比べても…、なかなか厳しいですよね。」

「あ、そうそう。

 フィンランドと言えば、平井さんは知ってる?

 フィンランドの子どもたちが作った会議のルールって?」

「あっ、それ、知ってます、知ってます。

 大学の時の授業で、やった覚えがあるんですけど…、

 でも、どういうのでしたっけ(笑)?」

「ははは。そうですか(笑)。

 確か、パソコンに入ってたと思うんで、プリントアウトしましょうか。」

「あ、はい、すいません。ではお願いします。」

 

(つづく)

 

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