創作読物52「悪者も、自分たちが正義だと思ってる」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「それと、もう一つの理由はね…。」
「え?」
「ああ、カチカチ山の話が変えられちゃった理由(笑)。」
「あ、ああ。
そうでしたね。
もう一つあったんでしたよね(笑)。」
「うん。
陽香さんは…、
勧善懲悪って言葉…、知ってる?」
「あ、ええ。
そのまま読んで、善を勧めて、悪を懲らしめるってことですよね?」
「うん、そうそう。
じゃあ、勧善懲悪で有名な時代劇って、知ってる?」
「えっー?
時代劇ですか…。
時代劇は観ないので…。」
「あ、そっかぁ。
そうだよね(笑)。」
「あ、でも、時代劇じゃないけど…、
アンパンマンなんて、どうなんですか?
正義の味方アンパンマンが、悪いことするばいきんまんを懲らしめるって…。」
「なるほど。
アンパンマンなんかも、いい例だね。
そっか、
何も時代劇を持ってこなくても…、
ウルトラマンとか、スーパーマンとかでもいいのか(笑)。」
「そうですね(笑)。
で、それがどうしたんですか?」
「あ、ああ。
私は、時代劇が好きだから(笑)、
時代劇で話をするとね。」
「ええ(笑)。」
「あの有名な水戸黄門ってあるでしょ?」
「あ、ええ。
観たことはないですけど…。」
「うん。
観たことなくても、タイトル知ってるって、すごいことでしょ?」
「まあ、そうですね。」
「それだけ、超有名ってことなんだけど…。
いや、私は、小さい頃に、爺さん婆さんが好きで観てたので、
一緒に観ることが多かったんだけどね…。」
「え?
言い訳ですか?(笑)。」
「あ、いやいや。
でもね、大人になってからは、観るの止めたんだよ。」
「ふーん…。
なぜですか?」
「うん。
あるお医者さんにね、
ああいう勧善懲悪ものを、楽しんで観てる人は、
早く呆けるって聞かされてね…。」
「そうなんですか?
なんでですか?
というか…、
先生はもう、認知症のお医者さんに掛ってんですか?」
「え?
あっ、違う違う。
昔、若かった時に、その先生の講演会で聞いたんだよ。」
「そうだったんですね。
ちょっと、びっくりしました(笑)。」
「いやいや、まだまだ大丈夫…、だと思ってんだけど…(笑)。
でね…、まあ、その先生が言うにはね…、
勧善懲悪の話って、結局は、最後に正義は勝つ、ってね、
観る前から、もう話が決まってるでしょ?」
「結局は、主人公が正義で、勝つってことですか?」
「そうそう。
だから、観る側からすると、安心というか…、
いくら主人公が危機に瀕しても、
最後には、悪を懲らしめて、めでたし、めでたしというか…。
だって、水戸黄門の主人公の黄門様が必ず言う台詞は、
助さん、格さん、かまわないから、懲らしめてやりなさい、っていうんだよ。」
「へえー。
ずばり、懲悪なんですねぇ。」
「そう。
だけどね…、
その先生曰く、観る側は安心かもしれないけど、
始めから、結末がわかった状態で、
しかも、いつも判で押したような、
決まりきったものを観続けるってのは、
脳にとっては、刺激がないってことなんだって。」
「それで、ボケやすくなっちゃうってことですか?」
「うん、そういうことらしい。
それとね…、
勧善懲悪ものを好んで観続けることの、別の弊害としてね…、
悪は、結局はいずれ滅びる、とか、
悪は、正義によって叩きのめされて、改心する、っていうね、
そういう、刷り込みというか、思い込みが行われてね…。」
「えー?
そんなに影響が出るんですか?」
「うん。
ちょっと大袈裟に思えるかもしれないけど…、
でも、毎週毎週、いつも同じようなテレビとか観てるとね、
それは、時代劇でも漫画でも、アニメでもね…、
知らないうちに、相当の影響が及ぶってことなんだろうね。」
「そういう人は、知らず知らず、
勧善懲悪的になっちゃう、ってことなんですか?」
「まあ、その人の考え方とか、振る舞いとか…、
もっと言えば、人生観に与える影響が小さくないってことなんだろうね。」
「うーん。
それも怖い気がしますねぇ。」
「うん。
でも、もっと怖いのは…、
正義は、どちら側にもあるってことなんだよね。」
「え?
どういうことですか?」
「うん。
テレビなんかでは、単純に主役が、いい者で、正義で、
悪者がまさしく悪って感じでしょ?」
「ええ。」
「でも、この現実の世界では、
悪者も、自分たちが正義だと思ってるんでね…、
だから、いい者も悪者も、どちらも自分たちが正しいって言って、争うから、
ややこしくなるっていうか…、
そんな単純な話にはならないんだよね。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
今すぐ予約が確定するオンライン予約はこちらから
その他、お問い合わせ等は、0467-87-1230(やな、いたみゼロ)まで。