創作読物108「ビジョンと戦略と仲間と時」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「それからね…、

 陽香さんは、まだ働いたことがないから、

 イメージは湧かないかもしれないけど、

 さっき言った、仕事はチームでする、ってことも、

 言うは易く、でも実行するのは、なかなか難しいことなんだよね。」

「そうなんですか…。

 チームワークって、簡単に使ってるから、

 それが当たり前なんだと思ってましたけど…。」

「うん。

 これは、以前、懇意にしていた人の受け売りなんだけど、

 何かを改革する時には、4つのことが大切なんだけど、

 その4つって、陽香さんはわかる?」

「いえ、全然イメージ湧かないですけど、

 でも、話の流れからすると…、

 チームワークもその中に入ってますか?」

「ははは(笑)。

 そう来たか(笑)。

 そうだね、

 改革と言うよりも、チームで仕事をする上で必要な4つのこと、

 と言ってもいいかもね。

 それはね、ビジョンと戦略と仲間と時、なんだよ。」

「ビジョンと戦略と…、えーと、仲間と時?」

「そう。

 まずはビジョン。

 展望と言うか、将来、こうしたい、こうなっていたい、という絵だね。」

「理想像ってことですか?」

「まあ、そうだね。」

「それは、やはり社長とか、

 上に立つ人が考えるんですか?」

「そういう場合もあるけど…、

 と言うか、そういうほうが多いのかもしれないけど、

 仮に上の人が考えるにしても、

 社員や構成メンバーの思いを汲み取ったり、

 勘案しながら立てないと、いわゆるワンマン経営になっちゃうでしょ。」

「そうですね。」

「だから、

 理想は、社員一人一人が、

 自分の仕事や会社をどうしたいか、どうなったらいいと思ってるのか、

 それを、それぞれが考えていなきゃいけないし、

 また、それらをすり合わせる場と機会を設けることが大事で、

 上の人は、そういうお膳立てを意識して行う必要があるんだよね。」

「なるほど。」

「そして、それは、次の戦略を練ることにも繋がるんだけど、

 戦略や戦術を練るのも、

 いわゆる上司と部下が、一緒になって知恵を出し合うのと、

 上の者が決めたことを、そのまま下の者がやるのとでは、

 大きな違いが出るんだよね。」

「指示待ち人間じゃ、いけないってことですね?」

「うん。

 一緒に戦略を練る、ということは、

 上司も部下も、一生懸命考えなきゃいけない、というわけだし、

 そして、自分の意見や感想を述べて、もし、それが採用されれば、

 当人も自分の言ったことに、責任を持たなきゃいけなくなるでしょ?」

「ただの指示待ちとは、責任も違うんでしょうけど、

 面白味が違うってことですかね?」

「仕事に参加してる、と言うよりも、参画してるって言う意識が出るよね。」

「参加と参画の違いですか…。」

「さっき言ってた、金魚の糞だって、

 参加は参加だもんね(笑)。」

「え?

 じゃあ、私は気をつけないといけないですね(笑)。」

「そうそう(笑)。

 で、ビジョンを考えたり、

 戦略や戦術を練ったりするのは、

 上に立つ人のマネジメント、つまり経営手腕なんだけど、

 いかに社員や部下を巻き込んで行くか、ってことも…、

 と言うか、それが一番難しいけど、一番大切なマネジメント

 なんじゃないかと、私は思うんだけどね。」

「だから、3つ目は、仲間ってことなんですね。」

「うん、そうだね。

 単に、仕事を偶々一緒にやっている、というレベルではなく、

 一緒に刺激しあって、助け合って、切磋琢磨するって言うか…、

 このメンバーは、偶々ではなく、出会うべくして、出会ったんだ、

 つまり、この出会いは必然だったんだ、ってぐらいに思うことができれば、

 すごい仕事ができるような気がするねぇ。」

「上に立つ人のマネジメント次第、ってことなんでしょうけど、

 なんか、難しいことのような気もしますねぇ。」

「そうさ、

 とっても、難しいさ。

 でも、それを醍醐味と感じられるかどうかで、

 上の人の力量が決まっちゃうんじゃないかな。」

「醍醐味?」

「あ、醍醐味ってわからないか…。」

「ええ。」

「本当の面白さ、てな感じかな。」

「仕事の醍醐味、とか使うんですね。」

「そう。」

「で、もう1つの、時ってのは何なんですか?」

「うん。

 タイミングって訳すのが、一番ぴったりするかな。

 時期を得る、とか言うけど、

 どんなに優れたビジョンや戦略や仲間がいても、

 時期を得なければ、宝の持ち腐れと言うか、

 いい仕事はできないんだよね。」

「でも、それってなんか難しいですよね。

 運みたいなもんなんですか?」

「ああ…、運ね。

 そうかもしれないね。

 でも、仕事とか…、

 あるいは、スポーツとかのほうがわかりやすいかもしれないけれど、

 流れとか運を、自分のほうに引き寄せるってことも、

 もしかしたら、実力のうちなのかもしれないね。」

「うーん。

 なんか、ますます難しそう。」

「いや、でも、

 ビジョンと戦略と仲間が揃うってこと自体が、

 とっても難しいことなんだから、

 その3つが揃った時ってのは、

 まさしく、時を得たと思っていいのかもね。

 そういうタイミングを逃さず、

 何か、思い切ったことをやればいいのかもよ。」

「なるほど、

 そうかもしれないですね。」

 

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