創作読物110「トラブルは、歓迎すべきこと…」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「陽香さん、
またまた古い話で、申し訳ないけど…。」
「あ、いえ、
先生の昔話は面白いから、もっと聞きたいです(笑)。」
「え?
昔話かぁ(笑)。
まあ、そうだよね。
これも、今から40年以上も前の話だからね(笑)。」
「はい。」
「当時、NHKで土曜ドラマってのがあって…、
あ、今でもまだあるのかな?
ま、いいや。40年以上も前に、
優しい時代という、篠田三郎が教師役のドラマがあってね。
いわゆる学園ものっていうジャンルで、
もうストーリーはほとんど覚えてないんだけど…。」
「ええ。」
「ただ、その中で、確か橋爪功が演じていた、
生徒の父親役が発したセリフが心に残っていてね。」
「どんな言葉だったんですか?」
「うん。
学園ものだから、
例によって、生徒たちが問題を起こして、
教師や親、大人たちが右往左往するんだけど。
今、言ったように、前後の話はもう忘れちゃったんだけど、
その時に、橋爪功演じる父親が、
トラブルを起こしたり、
トラブルに巻き込まれないようにすることも大事だけれど、
それ以上に大切なのは、
トラブルに遭遇した時に、それを乗り越えていく力をつけることだ、
って言ったんだよね。」
「なるほどぉ。」
「セリフもそのとおりだったか…、
たぶん違うと思うけど、ニュアンスはこんな感じだったと思うよ。」
「ええ。
でも、何というか…、
やはり、そうだよねって、思わされますよ。
だって、今の学校は…、
いや、家でもそうかな。
なんか、無難無難ということを大事にしてるみたいで…、
つまり、トラブルを起こさないように、起こさないようにと、
そんなことばかり気にしてると言うか…。」
「気が付くと、
転ばぬ先の杖と言うと、聞こえはいいかもしれないけど、
石橋を叩く人間ばかりになっちゃってると言うか…。
もちろん、慎重に行動することは大切なことではあるけれど、
そういうのが性に合ってる人もいれば、
乱暴、無謀というと言い過ぎだけど、
多少、向こう見ずな人も居るわけで…。」
「ですよね。
なのに、みんな守りに入ってると言うか…、
それは、もしかすると大人たちが、若い頃に、
いろいろと無茶なことをして、トラブって、
痛い目や嫌な目に遭ったから、
教訓として言ってるのかもしれないけど…。
でも、若い人たちは、やはり、無茶するし、失敗もするので、
だから、それをするなって言われるよりも、
それこそ、トラブルに遭った時に、どうやってそれを克服していくか、
そっちのほうが知りたいですよね。」
「うーん。
なんで、大人たちはそれを教えてくれないんだろ。
陽香さんは、どう思う?」
「うーん。
よく言われる、過保護ってことなんですか?」
「うん。
それもあるかもしれないけど…、
もしかしたら、大人たちは、
自分もトラブルを乗り越えていく力を育てる機会を、
与えてもらえずに、大人になっちゃったのかもしれないね。」
「はぁ…。
もし、そうだとしたら、教えることはできないし、
トラブル自体を避けるようにするのは、当然と言えば当然ですね。」
「もし、そうだとしたら、
これは悪しき伝統と言うか…、
悪循環に陥っちゃってるわけだから、
変えるのは、なかなか難しいことなのかもね。」
「ええ。
そうですねぇ。」
「ただ、陽香さんの発言で、1つ気になるのは、
トラブルを解決する力ってのは、
教えられるものでもないんじゃないかな。」
「?」
「それこそ、それって生きる力そのものだから、
個人個人が、自分なりに悩みながら、獲得していくと言うか…。」
「まあ、
そう言われれば、そうなんでしょうけど…。
でも、大人は大人なりの知恵があるんじゃないですか?」
「うん。
その知恵を、参考として伝えるのは、
もちろん、いいことかと思うけど、あくまでも参考であって、
結局は、個人個人が自分に合ったやり方で生きていくしかないでしょ?
そのやり方だって、臨機応変に変えていかなきゃいけないだろうし…。」
「つまり、先生がおっしゃりたいのは、
トラブルを避ける力も必要だけど、
それだけではだめで、トラブルを克服する力をつけることが大事で、
それは、結局、自力で見つけていくしかないと。」
「そうだね。
今のままだと、
トラブル自体を恐れる気持ちだけが大きくさせられちゃって、
みんな、小粒というか、こじんまりした感じになっちゃってるからね。
トラブルを乗り越えていくことで、
自分が大きくなっていくなら、
トラブルは、恐れるものではなくて、
むしろ、歓迎すべきこと、と言っちゃあ、言い過ぎかな(笑)。」
「トラブルは、歓迎すべきこと…、
ですか。
なんか、すごい話になってきましたね。」
「誤解を避けるために、繰り返しになるけど、
トラブルを回避できる力をつけることは大事だし、
そういう生き方もいいと思う一方で、
それだけでいいのかなぁ、とも思うんだよね。
それに加えて、トラブルを糧として生きていく生き方。
どのみち、トラブルは避け続けることはできないわけだし、
そこから逃げないで、立ち向かっていくというか、
ひるまない気持ちを持つことのほうが、大事なんじゃないのかな、
って思うわけだよ。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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