創作読物111「計画された偶然…」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「トラブルは避け続けることはできない…。
ほんとに、そうだとは思うんですけど、
でも、やっぱり、トラブルに巻き込まれるというか、
それって、やはり嫌ですよね。」
「トラブルって、
人によって感じ方は様々だと思うけれど…。
つまり、ある人にとっては、全然大したことではないことでも、
別の人にとっては、重大事と感じることもあるし、
その逆もあるし。」
「それはそうですね。
人によって、捉え方は違いますよね。」
「うん。
でも、たぶん、共通していると思うのは、
とにかく、自分の想定していたこととは違うこと、
しかもそれが、良いことではなく、悪いことが起こった時に、
人はそれをトラブルと思うんじゃないかな。」
「あ、なるほど。
だから、人によって、考え方とか感じ方の違いで、
トラブルと思うかどうか、
捉え方も変わってくる、というわけですね。」
「うん。
でも、それであれば、考え方とか感じ方を変えることで、
それまではトラブルと感じていたことも、あまり感じなくなる、
ということができるようになるんじゃないかなぁ。」
「ほうほお。
先生お得意の、発想の転換てやつですね。」
「え?
そんなの得意だって、言ったっけ。」
「あ、いえ、なんとなく(笑)。」
「そっか(笑)。
でも、陽香さんの言うとおり、
発想の転換が重要なんだよね。」
「やっぱり。」
「さっきは、
まずは目標を決めて、そこに到るための計画を立てて、
という、キャリア・アンカーについて話したけど…。」
「ええ。
でも、その計画が、なかなか思いどおりに行かないので、
人はトラブっちゃう、ということなんですよね。」
「うん。
それに対してね、別の考え方があるんだけど…。」
「何ですか?それは。」
「陽香さんは、
計画された偶然て言葉、
日本語として、どう思う?」
「計画された偶然…、ですか?」
「そう。」
「偶然て、偶々起こることなんだから、
計画なんてできないですよね?」
「そうだね。
だから、日本語として奇妙というか、おかしいよね。」
「そうですね。」
「でもね、
計画された偶然は、
英語だと、Planned Happenstance(プランド・ハップンスタンス)
て言うんだけど。」
「プランド・ハップンスタンス、ですか?」
「そう。
ハップンスタンスは、偶然で、プランドは、計画された、ってことね。」
「英語でも、変ですよね(笑)。」
「そうだね。
まあ、逆説的な表現なんだね。
これは、アメリカのスタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授が
提起したキャリア論なんだけど…。」
「大学の先生が言ってるんですか。」
「そうだね。
大学の先生らしく、数百人の成功したビジネスパーソンのキャリアを
きちんと分析して、割り出した理論なんだよね。」
「そうですか。」
「結局、仕事で成功した人の8割の人が、
今ある自分のキャリアは、予期せぬ偶然に拠るところが大きい、
と答えたらしいんだよ。」
「はあ。
それって、つまり、計画どおりに行かなかったんだけど、
なんとか切り抜けて、成功に辿り着いたってことなんですね。」
「うん。」
「じゃあ、やっぱり、トラブルを克服する力があったってことですね?」
「うん、そうなんだよ。」
「今、話しながら、ググったんだけど…、
プランド・ハップンスタンス理論は、次の3つの骨子からなってて、
1 個人のキャリアは、予期しない偶然の出来事によって、
その8割が形成される
2 その偶然の出来事を、当人の主体性や努力によって最大限に活用し、
キャリアを歩む力に発展させることができる
3 偶然の出来事をただ待つのではなく、
それを意図的に生み出すように積極的に行動したり、
自分の周りに起きていることに心を研ぎ澄ませたりすることで
自らのキャリアを創造する機会を増やすことができる
て、書いてあるね。」
「はぁ。
2番目のは、さっきのトラブルをどう乗り越えるか、って
ことなんでしょうけど、
3の偶然を、意図的に生み出す?
それって、なんか難しいですよねぇ?」
「うん。
文章で書かれると、
え?って感じるかもしれないけど、
要は、犬も歩けば棒に当たる、ってことなんじゃない?」
「え?
あの、犬棒カルタの、あれですか?」
「うん、そうだよ。
この犬も歩けば棒に当たる、ってのは、
棒が災難という捉え方と、棒は幸運、ラッキーという捉え方の
二通りがあるようなんだけど、
いずれにしても、歩かないことには、つまり、動かないことには
何も始まらない、ってことだよね。」
「うーん。
なんか、この話、デジャブ感があるなあ。」
「え?何?」
「あ、そうだ。
以前、この部屋で先生と話してて…、
あのう、親指の話でしたね。
確か、今いる場所から眼に入るものを見てるだけではだめで、
自分から動かないと、物事の全体像というか、
ほんとのところは見えない。
つまり、そこに留まってたら、何もわからない、何も変わらない…
っていう話と、同じですね。」
「あ、そうだね。
よく覚えてたね(笑)。」
「はい(笑)。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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