創作読物 13「スキンシップを求めてきた」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「でも、陽香さんのほうから、ママ、ちょっと揉んでくれる?って

 言ったんですね?」

「ええ、そうなんです。」

「その時、お母さん、どう思いました?」

「ええ。

 え?と思いましたけど、なんか、嬉しいというか…、

 自然に会話ができてる気がして…。」

「そうですか…。

 陽香さんが、スキンシップを求めてきたわけですからね。」

「なるほど…。

 そういう意味があったんですか。」

「いや、これは陽香さんに聞いてみないとわかりませんが、

 やはり、甘えたいというか…、お母さんにね。」

「そうですか…。

 すぐに揉んであげれば良かったですね?」

「いやあ、またチャンスはあると思いますよ。

 だって、これまでは、そんなこと言ったことはなかったんでしょ?」

「ええ、そうなんです。

 だから、私もちょっと、なんて言ったらよいか、わからなくて…。」

「でも、今度は大丈夫でしょう?」

「あ、はい。大丈夫です(笑)。」

「でも、なんで、陽香さんにちょっとだけど変化が起こったと思います?」

「うーん、私が学校のことを言わなかったからですかね?」

「そうかもしれませんね。」

「じゃ、ずっと言わないほうがいいということですか?」

「いや、そういうことでもないんですけど…、

 ほら、先週、私が言いましたよね?

 物事にはタイミングがあるって。」

「あ、ええ、そうでしたね…。

 じゃあ、今はそのタイミングじゃないと?」

「どう思います?」

「そう思います。」

「まあ、お母さんが言いたくて言いたくて、どうしようもない、

 というなら、またちょっと話は別ですが…、

 どうなんでしょう?」

「あ、いや、そんな是が非でも言わなきゃいけないなんてことでは…。」

「そうですか。

 なら、今は口にしなくていいんじゃないでしょうかね。」

「そうですね。」

「ところで…、先ほどのスキンシップですが。」

「ええ。」

「陽香さんが小さい頃は、どうだったんですか?飯塚家では。」

「ああ。

 私と陽香は、いつもじゃれ合うというか…、

 親子というより、姉妹みたいな(笑)。」

「そうでしたか。

 陽香さんとお父さんは?」

「ああ、主人とは、あんまり…。

 もともと主人は、そんなに子ども好きじゃないので…。」

「そうなんですか。」

「ええ。

 私は、子どもが大好きで…、

 大学も保育士の資格が取れる所に入って…、

 卒業後してから結婚するまで、たった3年間でしたけど、

 経験もあるので…。」

「そうだったんですね。」

「ええ。

 なので、自分の子どもも、ほんとは3人は欲しいなと思ってたんですが…。」

「なかなか折り合いがつかなかったと…、ご主人と。」

「そうですね。

 なので、陽香も、ほんとうはもっと父親に甘えたい…、

 いや、特に小さい頃はそう思った時期があったと思うんですけど、

 主人が…、まあ、仕事も忙しいってこともあったんですけど、

 日曜日なんかも、陽香の相手するよりも、いつも疲れた疲れた、

 と言っては、ゴロゴロしてたので…。」

「なるほど。」

「なので、陽香が中学校入って…、

 あれは、中1の冬だったと思うんですけど、

 陽香が反抗期って言うんですか?

 急に父親を避けるようになって…、

 主人が帰ってくると、それまで私と居間で話してたのに、

 ふっと自分の部屋に行っちゃったり…、

 洗濯物なんかも、パパと一緒にはしないで!と言ったり…。」

「なるほど。

 それに対してご主人は?」

「いや、どうなんでしょ。

 あまり顔にも口にも、自分の気持ちとか、考えを出さない人なので…。

 わからないです。」

「今でも、陽香さんとご主人は、そんな感じですか?」

「ええ、そうですね。」

 

(つづく)

 

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