創作読物 43「子どもよりも、自分の幸せを優先してる」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「そうだねぇ…。

 友達もね…、

 自分が家庭教師やってた時に、

 もうちょっと親身になって、面倒見たり…、

 話を聞いてやれば良かったとか…。

 正月に会った時にもね…。

 なんか、おかしいなって感じたんだから…、

 その時に、どうしてもう少し気にかけてやれなかったんだって…、

 自分で自分を責めてたけどね…。」

「そうですか…。

 やるせないですねぇ…。」

「うん…。

 でも、後悔先に立たず、というか…、

 そういうのって、みんなタラレバの話だからねぇ…。」

「確かにそうかもしれないですけど…、

 でも、M君の父親のしてたことって、

 完全に虐待じゃあないですか!」

「…ん?

 うん。」

「だって、何かにつけて、M君のこと、殴ってたんでしょう?」

「うん、まあ、そうみたいだね。」

「きっと父親は、虐待でなく、しつけだったと言うんでしょうけれど…。

 でも、先生、しつけと虐待は完全に違いますよね?」

「もちろん、違うよね。

 でも、平井さんは、その違いをちゃんと説明できる?」

「え?

 いやぁ…、急に言われても…、それは難しいですけど…。

 でも、先生、

 よく、子どもの幸せを願わない親はいないって言うけど…、

 そういう話聞くと、それって嘘ですよね?

 それが本当だったら、子どもを虐待する親なんて、居ないはずですから。」

「うーん…、

 でも、子どもの幸せを願わない親はいないっていうのは、

 それはそれで、嘘ではないと思うよ。」

「え?」

「ただ、子どもを虐待する親は、

 たぶん、子どもよりも、自分の幸せを優先してるんだろうね。

 だから、言い直さないといけないのかもね。

 子どもの幸せを、自分の幸せとして感じられる親は、子どもの幸せを願う、と。」

「なるほど…。

 それなら納得できます。」

「あと…、

 ついでにもうひとつ、タラレバの話をすればね。」

「ええ。」

「M君の中学や高校の先生たちがね、

 もう少し、親身になってればね…、M君のことで…。」

「ええ…、

 僕も、さっきからそれを考えてました…。」

「まあ、学校や教師たちの関りと、M君の死との間に、

 どれほどの因果関係があるかはわからないけどね。

 とにかく、在学中のことではなかったわけだし…、

 高校も、中退してから、暫く経ってのことだったからね。」

「ええ。

 でも、担任たちの関り次第では、

 もうちょっと違った結果になっていたかもしれないですよね。」

「まあ、それこそ、タラレバの話だけどね。」

「ただ、先生が、M君の話を、

 僕にしてくれた理由というか…、

 僕なりにわかった気がします。」

「え?

 そう?」

「ええ。

 ただ、先生…。」

「え?」

「先生のお友達って…、

 ほんとは、友達でなくて、

 先生ご自身なんじゃないですか?」

「え?」

「いや、なんか、お友達から聞いた話とおっしゃる割には、

 かなり、詳しいというか、細かなこともリアルだったんで…。

 もしかしたら?と、途中で気づいたんですけど…。

 違いますか?」

「・・・。」

「まあ、いいんですけど…。」

「そうか…、

 バレてたか…(笑)。」

「やっぱり…、ですか。

 いや、なんか時々、言い難そうって言うか…、

 敢えて、言い換えてるようなこともあったんで…、

 もしかしたら、そうなのかな、って…。

 でも、なんで、友達から聞いた話って、ことにしたんですか?」

「…うん。」

「あれ?

 これは聞いちゃ、いけなかったですかね?」

「うん?

 いや、まあ、そんなこともないけど…。

 いや、実はね…。

 Mは、いとこだったんだよ…、私の。

 私の父親の妹の子ね。」

「えっ?

 そうだったんですかぁ…。」

「なので、ちょっと…、

 やっぱり言い辛かったって…、ことだね。」

「そういうことだったんですね…。

 じゃあ、M君のお母さんて、先生の叔母様ってことですね?」

「うん、そうだよ。

 Mの父親とは血の繋がりはないし、

 あまり、接点もなかったんで、よく知らないんだけどね…。」

「そうなんですね。

 でも、M君の家庭教師をされたんですよね?

 なら、やはり、思い入れというか…、

 単なるいとこ関係以上だったわけでしょうから、

 M君の死は、相当ショックでしたでしょうね、先生としては…。」

「まあね…。

 まあ、教師になってから、教え子が卒業して、

 就職して、直ぐに急性アルコール中毒で死んじゃったのもショックだったけどね。」

「え?

 そんなこともあったんですかぁ…。」

「まあ、これも話してもいいけど…、

 今日はもう遅いから、このへんにしようか?」

「あ、はい。

 そうですね。

 いろいろと貴重なお話、ありがとうございました。」

「あ、いやいや。」

「でも、なぜ、先生は初対面の僕に、

 かなり、デリケートというか…、

 突っ込んだ話までしてくださったんですか?」

「うん?

 あ、まあね、

 いや、なんか、平井さんとは、初めて会った気がしないというか…。

 なんか、若い頃の自分に、ちょっと似てるかな、と思ったりしたんでね(笑)。」

「え?

 そうなんですか?

 どんなところがですか?」

「あ、いやあ、ちょっとだけだよ(笑)。

 もう、ほんとに今日はここまでにしよう。」

「あ、はい、わかりました。

 でも、先生、また、お邪魔してもよろしいですか?」

「うん、いいけど…。」

「今度は、ちょっと僕の悩みを聞いてほしいというか…。」

「あ、そうなんだ。

 ここに来た目的は、ほんとはそれだったのかな?(笑)。」

「え?

 あ、まあ、そうですね(笑)。」

「じゃあ、また遊びに来るといいよ(笑)。

 連絡を待ってるから。」

「あ、はい。

 ありがとうございます(笑)。

 じゃ、また、ご連絡します。」

 

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