創作読物53「魂を売るってのは、なんか、怖いですね」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「じゃあ…、
悪者は、必ずしも悪いわけじゃないっていうか…、
というか…、悪は必ず滅びるわけじゃないってことですか?」
「陽香さんは、どう思う?」
「ええ。
そうかもしれない…、かな…。」
「ドラマではなくて…、
この、現実の世界では…、
正義というか…、正直者がばかをみるってこと、ない?」
「…、そう…、ですね…。」
「さっき、
子どもは純真でもあるけど、
同時に、残酷でもあるって、言ったでしょ?」
「ええ。」
「親とか、
あるいは、世間の人は、
その子どもの純真な面だけにスポット当てて、
純真で、純粋に育ってほしいから、
小さい頃から、あまり残酷なものは見せないし、
聞かせないほうがいいと思う、ってことはあると思うんだ。」
「それで、カチカチ山とかも、
元々の残酷な部分を、オブラートに包んで、
マイルドな話に変えちゃうってことなんですね?」
「そうそう。
いわゆる、親心ってことなのかもしれないけど…、ね。
でも、それって、やっぱり…、
どちらかと言うと…、勧善懲悪っぽい考え方でしょ?」
「確かに…。
子どもには、良い面と悪い面と、両方あるのに、
片方だけ見せて育てても…、結局は、なんか…、
あまりうまくいかない気もしますけどねぇ。」
「うん、そうだよね。
仮に、その子が、そういうのに影響されて、
勧善懲悪的な考え方になったとして…、
そして、大人になると…。」
「周りの人の中には、
悪者もいるってことですよね。」
「うん、そうそう。
だから、そこで、争い…、というか、
まずは、本人の中で、葛藤が起きるでしょ。」
「そうだと思います。」
「その葛藤の末に、
その人が、どういう行動に出るかってことなんだけどね、大事なのは。」
「ドラマのように、
悪を懲らしめようとしたり、悪に立ち向かったりしたら…。」
「まず、確実にトラブルになるでしょ?」
「ですよね。
だって、相手だって、自分が正しいと思ってるわけだから…。」
「そうだね。
でも、その人が…、
悪を見ても、トラブルを恐れて、何もしないとしたら…。」
「うーん。」
「そうしたら、
結局、その人の中で…、
ちょっと大袈裟に言うと、自我崩壊が起きるよね?」
「自我崩壊…、ですか?」
「うん。
自我ってのは、ほんと、難解な言葉でね…、
陽香さんは、自我って…、何だと思う?」
「えー?
考えたこともないなぁ…。
でも、自も我も…、両方とも自分てことですよね?」
「そうだね。
だから、わかりやすく言うと…、
自我って、自分らしさ、っていうといいのかな。」
「自分らしさ…?」
「そう。
よく、自分らしく生きるとか、自分らしく生きなさい、とか言うでしょ?」
「ええ。」
「なので、その場合の自分らしくってのは、
他の人とは違う、自分の考え方とか、感じ方とか、行動…、ね。」
「ええ。」
「みんな、人は、その自分らしさによって、
生活というか、生きてるわけだよね。
それが、個性って言ってもいいんだけど…。」
「なるほど。
そういうふうに聞くと、わかりやすいですね。」
「だから、その自我が発揮されて…、
と言うか、自我のとおりに生きて行けてる時には、
人は、楽というか…、順風満帆なんだろうけど…。」
「ええ。」
「人間関係って、そうそう簡単なもんじゃないから…。」
「自分の自我と、ほかの人の自我が、ぶつかることもある…。」
「そうそう。
で、自分の自我が…、
というか、自分らしい考え方とか、行動とか、
つまり、自分の生き方が、ほかの人のそれと衝突した時に、
人は、どっちを取るか、ってことなんだけど…。」
「どっちを取る?」
「うん。
つまり、自分らしさを発揮して、自分の自我を押し通すか…。」
「それって、相手の人と、闘うってことですよね?」
「うん。
だから、結局は、どっちかが勝って、どっちかが負けるってことだから。」
「それは、覚悟というか…、
勇気が要りますよね、自分を通そうとするのには。」
「でしょ?
だから、それができない人は…、争いを避けて、
他者の自我を受け入れるしかない、ってことだよ。」
「他者の自我を受け入れるってのは、
要するに…、自分の自我、自分らしさを捨てるってことですか?」
「だね。
でも、自我を捨てるって言うと、
なんか、すごく大袈裟に聞こえるかもしれないけど…、
我々って、日常生活の中で、大なり小なり、
常に、そんなことやってんだよね。そんなことの連続なんだよ、ほんとは。」
「え?
そうなんですか?」
「うん。
まあ、それを別の言葉で表現すれば、妥協ってことね。」
「ああ、
なるほど、妥協ですか。
それなら、たぶん、たくさんしてます(笑)。」
「そう(笑)?
でも、相手が、とっても悪い場合には、
そう簡単には、妥協もできないでしょ?」
「そうですね。」
「そういう時に、人は、大いに葛藤するわけね。」
「なるほど。」
「自分らしさをどこまでも追求するべきなのか、
それとも、相手に魂を売ってしまうのか?」
「魂を売るってのは、なんか、怖いですねぇ。」
「うん。
でも、人って、生きてるうちには、
何回かは、そうした大きな壁にぶつかる時が来るんだよ。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
今すぐ予約が確定するオンライン予約はこちらから
その他、お問い合わせ等は、0467-87-1230(やな、いたみゼロ)まで。