創作読物98「それを言っちゃあ、おしめいよぉ」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「確かに…、
後悔って言うほどのものではないのかもしれないけど、
人って、後で振り返って、ああ、あの時にこうしてればな、とか、
ちゃんと自分の気持ちを素直に言っておけばよかったな、とか、
思う時があるでしょ?」
「ええ。
そうですね、確かに。」
「でも、
人によっては、そういう後悔すらしないというか、
感じない人も居ると思うんだよね。」
「え?
どういうことですか?」
「うん。
感じないと言うと、当たってないかもしれないけど…、
感じていても、それをまともに考えないというか、
むしろ、見て見ぬふりをしちゃうというか…。」
「つまり、いい加減な人、ってことですか?」
「ああ、そうだね。
無反省と言うか…、
やっぱり人って、後悔とか反省って、基本したくないじゃない?」
「そうですね。」
「なので、後ろを振り向くと、
文字どおり、後ろめたいというか、
自分が後悔とか、反省しなくちゃいけなくなるので…、
つまり、いい加減に自分を誤魔化して生きちゃう、と言うか…。」
「わかります。
私もそうでしたから…。」
「誰にも、そういうところはあるんだよね。
でも、岐れ目として、自分を誤魔化し続けちゃうかどうか、だね。」
「岐れ目ですか?」
「人って、真剣に自分に向き合うと苦しくなるので、
見て見ぬふりをする、つまり、誤魔化しちゃいたくなる一方で、
自分を誤魔化し続けるのも嫌と言うか、辛くなるもんなんだよね。」
「ええ。」
「で、その時に、どうしたらよいのかと、葛藤するんだろうけど、
たいがいの人は、易きに流れると言うか、
ズルズルと誤魔化し続けて…。
そのうちに、自分は自分を誤魔化してるという自覚も感じなくなる。」
「え?
なんか、怖い、というか、嫌ですね。」
「そうだね。
でも、陽香さんは、その嫌という気持ちが勝ったから、
自分に正直に居よう、と思って、今日ここに来たんだろうね。」
「でも、正直になる、と言うのも、
正直怖いですね。」
「だよね。
だから、たいがいの人は、そこから逃げちゃうんだろうね。」
「私も、逃げ出したくなっちゃうかも。」
「そっかぁ…。
そうだ、陽香さんは、人が死ぬ間際に自分の人生を振り返って、
満足して死んでいく人と、悔いを残して死んでいく人と、
どっちの人のほうが多いと思う?」
「え?
そんなこと考えたことないですけど…。
うーん。
満足して死んでいく人のほうが多くあってほしいけど、
きっと、先生がそうやって聞くということは、
悔いを残して死んでいく人のほうが多いってことですよね?」
「ははは。
そうやって考えるのか(笑)。
でも、それで当たりなんだよ。
じゃあ、その後悔の中身までわかるかな?」
「えっー。
いやあ、それはまだ私にはわかりませんよぉ。
だって、私はまだ16だから。」
「いやぁ、どこかで聞いたフレーズだけど…(笑)。」
「え?」
「あ、いや…、年齢には関係ないんだけど…。
あのね…、人が死ぬ時には、いくつかのことを後悔するらしいんだけど、
そのうちの1つが、言いたいことをはっきりと言えばよかった、って
ことなんだよね。」
「はぁ。
そうなんですかぁ。
それって、今の私と同じじゃないですか。」
「でしょ?
だから、年齢には関係ないと、ね。」
「ですねぇ。
つまり、私も、言いたいことを言わないままだと、
いずれ死ぬ時に後悔するってことですか?」
「どう思う?」
「うーん。
でも、それって、当たってるような気もします。」
「うん。
だから、世の中には、言いたいことの半分も言えずに暮らしてる人が、
実はたくさんいて、そしてやがて、それを後悔して亡くなっていく人も
多いってことなんだね。」
「なんで、言わないんですかね?」
「言わないのか、言えないのか、だけど、
でも、理由は人それぞれだと思うけど…。
ただ、人間関係の良し悪しってのが、原因してるのかもね。」
「それって、どういうことですか?」
「つまり、
それを言っちゃあ、おしめいよぉ、ってことかな?」
「え?
なんですか?
そのう、それを言っちゃあ…、てのは…。」
「え?
あ、陽香さんは、フーテンの寅は知らないのか。」
「あ、はあ、
知りません。」
「あっ、そう。
男はつらいよ、って映画知らない?」
「ああ。
名前は聞いたことありますけど…。」
「陽香さんて、映画好きじゃなかったんだっけ?」
「ええ、
洋画はよく見ますけど、日本の映画はちょっと…。」
「あっ、そう。
それは残念。
今度見てみて。男はつらいよ、いいよぉ(笑)。」
「わかりました(笑)。」
「あ、それで、話を戻すと…、
つまり、これを言ったら、人間関係を壊しちゃう、と恐れて、
結局、物言わぬというか、口を閉ざしちゃう人が多いってことだね。」
「そういうことなんですね。
なんか、わかる気もしますけど…。
でも、なんか、おかしな感じもするような…。」
「うん。
なんか、おかしいでしょ?」
「ええ。
うまく言えないですけど…、ね。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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