創作読物99「これからもっともっとあがけばいい」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「これって、やはり、おかしいんだよ。
だって、普通、コミュニケーションてのは、
人間関係を良好にするために必要って、言われてるでしょ?」
「ええ。」
「なのに、コミュニケートしたら、人間関係が壊れちゃうから、
しない、言わないってのは、本末転倒してるんだよね。」
「なるほどぉ。
なんかおかしいと感じたのは、そういうことだったんですね。」
「うん。
コミュニケーションは、人間関係を築くのに必須なのに、
コミュニケーションをとろうとすることで、
そのことが却って人間関係を阻害する要因になっちゃう、ってね。」
「うーん。
それ、わかるような気もしますけど…、
でも、それって、コミュニケーションの取り方に問題がある、
ってことはないんですかね?」
「うん、さすがに陽香さんは鋭いね(笑)。
そうだと私も思うよ。
つまり、コミュニケーションが未熟と言うか…、
特に、日本人の場合は、率直にものを言うということが、
習慣になってないからね。」
「口下手ってことですか?」
「そうかもね。
コミュ障なんて言葉が使われるのも、日本だけなんじゃないかな。
自分はコミュ障だからとか、あの人はコミュ障だからとか、
もう、そういうこと言うこと自体が、諦めてるというか、
改善しようとしてないというか…。」
「なんか、そう言われると、耳が痛いというか…、
確かに、諦めちゃってる気がしますね。
私も含めて。」
「まあ、一生懸命努力して、諦めるのなら、まだわかるけどね。」
「努力もしないで、ってことですよね、問題は。」
「うん、だと思う。
それに…、
というか、だからこそかもしれないけど、
だから日本人の場合は、特に今は、人間関係が脆弱なんじゃないのかなぁ。」
「弱い、ってことですか?関係性が。」
「うん。
だって、これを言ったらおしまい、と思って、
感じたこと、思ったこと、考えたことを口にするのを憚るということは、
もともと強固な関係が築けてないってことでしょう?」
「仲良しごっこ、ってことですか?」
「うまいこと言うねえ。
そう、仲良しごっこしてるだけで、
本当に仲がいいわけじゃない、っていう関係がたくさんあるのかもね。」
「かえって、関係性が希薄ってことですね…。
でも、確かに、友達関係でも、なんか、気ばかり使っちゃって、
気疲れしちゃうことって多いような気もしますね。」
「友達関係だけじゃなくて、
すべての関係が、そうなんじゃないかな。
夫婦関係、親子関係、職場での人間関係、地域の人との関係、
教師と生徒との関係…、
それに、もしかしたら恋人同士でもね。」
「そう考えると、
なんか、むなしいと言うか…。」
「そうだね。
16歳の陽香さんにしてみたら、
聞かなきゃよかった、っていう話かもしれないねぇ。
でもね、そういうことを知らないで大人になるのと、
知った上で大人になるのとでは、大人のなり方が違ってくるんじゃない?」
「大人のなり方ですか?
そんなのあるんですか?」
「うん。
大人のなり方とは、ちょっと違うかもしれないけど…、
いつかね、陽香さんのお母さんと話したことがあるんだよ。」
「え?」
「つまり、いろんな考え方があるとは思うんだけど…、
私はいつからか、その人が自分自身や周囲の状況を、
客観的に見ることができるようになったら、
それが大人の仲間入りをした、と言えるんじゃないか、とね。」
「そうですかぁ…。
で、母はそれに対して、何て言ってましたか?」
「うん。
納得はされてたけど、
でも、同時にそれは難しいことですねって。
やっぱり、人って自己中って言うか、自分中心になりがちだから、
自分や周りの状況を客観視できるようになるってのは、難しいとね。」
「そうですか。
それに対して先生は、何ておっしゃったんですか?」
「何て言ったと思う(笑)?」
「え…?
きっと、それを知ったんだから、まだ大丈夫ですよ、とか?」
「ははは。
なんか、最近、見透かされて来ちゃったなぁ(笑)。
でも、そんなようなことを言ったと思うよ。」
「当たりですね(笑)。」
「うん。
つまり、これって、生き方なんだと思うよ。
さっき、言ったように、自分を誤魔化しつつ生きるのか、
それとも、それが嫌だから、あがきつつ生きるのか、ね。」
「あがく、ですか?」
「ああ。
あがくっていうと、もしかしたら、ジタバタするとか、もがくとか、
なんか、往生際が悪いような、マイナスイメージがあるかもだけど、
でもね、活路を見いだそうとして必死になって努力する、
と言う意味もあるんだよね。
ほら、たとえば、ぬかるみに嵌った馬が必死で前足で地面をかいて、
這い出そうとする。
そういうのって、一生懸命というか、一所懸命というか、
見る者は、誰もが応援したくなるでしょ?頑張れって。」
「そうですね。
そっかぁ、あがくって、いい意味なんですね。」
「そう。
だから、陽香さんも、これからもっともっとあがけばいいんだよ。」
「あがく…、かぁ。」
「そうだ。
陽香さんは、世界で一番貧しい大統領って言われた人を知ってる?」
「え?
知りません。
大統領なのに、貧しいんですか?」
「うん。
もちろん、キャッチフレーズだけどね。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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