創作読物 6「学校に行くのは常識?」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「さきほど私は、陽香さんにどうなってほしいと思ってるか、

 お母さんに聞きましたよね?」

「ええ。」

「それで、お母さんはちゃんと学校に行けるようになってほしいと…。」

「そうですね。

 子どもが不登校になってしまったら、

 親ならみんなそう思うんじゃないですか?」

「そうですね…おそらく。でもそう考える親御さんもいらっしゃるけど、

 そうでない親御さんもいらっしゃるんですよ、実際には。」

「え?そうなんですか?

 どう考えてるんですか?そういう方は…。」

「ええ…。

 その前に…、

 お母さんにとって、陽香さんが学校に行くってことは、絶対ですか?」

「絶対…?

 そう言われると…、ちょっと、答えに困るというか…。

 でも、子どもが学校に行くのは当たり前なんじゃないですか?

 まして、入りたくて受験勉強して、入学したんですから。」

「陽香さんは、今の高校に入りたかったと…?」

「はい、そうです。

 担任の先生に勧められた時は、定時制高校ということで

 ちょっと抵抗があったみたいでしたが…、

 自分でも学校のホームページ見たり…、

 説明会にも2回行ったりして…。」

「だんだん、入りたいと思ってきた?」

「ええ、そうですね。

 同じ中学校から、そこを受ける子がとても少ないということも、

 陽香には、安心できたようで…。」

「なるほど…。

 今、お母さんは、子どもが不登校の親は、

 誰もが子どもに学校に行ってほしいと思っているだろう、

 とおっしゃいましたよね?

 子どもが学校に行くのも当たり前なんじゃないか、とも。」

「あ、はい、そうですね。

 違うんですか?」

「うーん、難しいところなんですけれども…、

 やはり、親御さんとしては、できれば行ってほしいと

 思ってはいると思うんですね…。」

「でしょう?」

「はい、でも、それが絶対かというと、当然かというと、

 必ずしも、そうは思っていない親御さんもいらっしゃるんですよ。」

「えっ?そうなんですか?

 なんでですか?」

「ええ。

 おそらく、お子さんが不登校になり始めた時は、

 ほとんどの親御さんは、なんとか学校に行ってほしいと、

 あれやこれやと、手を尽くしたんだと思います。」

「そうでしょうね。私もそうでした。」

「ただ、なかなかうまくいかないというか…、

 かえってお子さんとの関係がこじれたり…、

 余計に学校に行かなくなったり…。」

「そうなんですか…。」

「そんな苦い経験をするうちに、親御さんとしても、

 是が非でも学校に行かせる、行ってほしいとの思いは、

 ちょっとトーンダウンしてくるというか…。」

「諦めちゃうってことですか?」

「うーん、諦めるというより、肝が座るというか、

 ちょっとゆったり構えられるようになるというか…。」

「肝が座る…?」

「そうですね。見方、考え方が変わるというか…。

 ところでお母さんは、今、日本ではどのくらいの子が

 不登校になっていると思いますか?」

「え…?さあ、どのくらいなんでしょう。見当もつかない。」

「小・中で比べると、年齢が上がるにつれて増えていくんですけど、

 少な目にみて、中学校ではだいたい30人近くに1人の割合なんですよ。」

「え?そんなに?

 じゃあ、クラスに1人は居るってことですか?」

「そうですね、だいたい。

 で、この割合はまだまだ増えていくんではないかと…。」

「そうなんですか…。」

「だから、結構な人数の子が、不登校になってるんですね。

 なので、学校に行くのは常識で当たり前なこと、って言ってしまうと、

 そうした多くの子どもたちは当たり前じゃない、

 ってことになってしまうでしょ?」

「…ええ。」

「でも、これはちょっときつい言い方かもしれませんが…、

 陽香さんは、お母さんから見て、当たり前の子じゃないんですか?

 常識的じゃない、つまり、非常識な子ということなんでしょうかね?」

「いや、そう言われると・・・、

 そんなことはない!…と思いたいですよね。」

「そうですよねぇ。

 では陽香さんがどうなのか、ということはちょっと置いておいて…、

 お母さんにとって、学校というのは絶対なんでしょうか?」

「え?」

 

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