創作読物 17「人生って、そんなわけにはいかない」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「中学2年生って、どんなお年頃かってことなんですけど。」
「中2といえば、そうですね、思春期真っ只中ですよね?」
「はい、そのとおりです。
それが正解のその1。
でもあともう1つあるんですけど…。」
「え?何だろ。」
「さっき、おっしゃってたじゃないですか、陽香さんとご主人とのことで。
洗濯物一緒に洗わないで!とか(笑)。」
「あ、ああ、反抗期ですか?」
「ピンポーン!はい、正解です(笑)。」
「思春期と反抗期ね、なるほどねぇ。」
「まあ、この頃は、若者の反抗期が高校生や大学生になってからとか、
あるいは表立っては現れなくなってる、とか言いますけど。」
「そうなんですか?」
「ええ。
思春期は、まあ身体の変化ですから、放っておいても年頃になれば、
それなりに変化が見て取れるんですけど、心のほうの成長に欠かせない
反抗期のほうが、現れ方がまちまちというか…。」
「反抗期は、心の成長に欠かせないんですか?」
「どう思います?」
「なんか、反抗することで、かえって心が荒れて、成長ということでは
マイナスのような気もしますけどねぇ。」
「なるほど。
ただ、難しい言い方をすれば、自我の確立ってやつですよね。
それまでは、おおざっぱに言えば、親とか先生の言いなりというか、
まあ、言うことを聞くいい子だったわけでしょうが、
反抗期を迎えて、自分はこれでいいのかって、葛藤し始めるわけですよね。
で、これじゃいけないと、自己主張するようになる。
まあ、それが大人の側から見れば、反抗してる、ということになる。」
「なるほどねぇ。」
「ただ、昔はその思春期の訪れに前後して、反抗期も来たわけですけど、
今は、その反抗期がもっと後ろにずれ込んだり…、
現れにくくなったりね。」
「あ、そう言えば、陽香のお友達の葉子ちゃんは、
反抗期らしきものが感じられないと、お母さんが言ってましたね。」
「反抗期がないっていうと、ちょっと語弊を招くかもですね。
ないっていうより、あるんだけど、周りから見て、
そう感じられないというか…、
つまり、そんなに激しくは現れないってことだと思うんですよね。
でもほんとは、わかりやすい形で現れてくれたほうがいいかも、
なんですよね。
そうでないと…。」
「どうなるんですか?」
「うん。
身体は大人でも、心や考え方は子どものままということでしょうかね。」
「精神的に幼い、歳相応じゃないってことですか?」
「だと思います。
まあ、精神年齢が肉体年齢に追い付いていないというか、
アンバランスというか、で、そのまま大人になって、
特に試練や挫折もなく、大過なく過ごして行ければ
いいのかもしれないですけど、
人生って、そんなわけにはいかないじゃないですか。」
「そうですよね。そんなに甘くはないですよね。
むしろ、親の手を離れて、社会に出てからが、
自分で何とかしなきゃいけないことがたくさんありますからね。」
「こういう、何ていうか、成長の証って言うか、通過儀礼って言うか、
その時期が来れば、まあ、自然に起こるものだったんでしょうが、
それが、何らかの理由で現れなくなると…。」
「何です?」
「これも一概には言えないですけど…、
例えば、20歳過ぎてから、つまり年齢的には大人になってから
反抗しだすと、家庭内暴力になってしまうとか、
社会に適応できなくて、引きこもりになってしまうとか…。」
「えー?怖いですねぇ。」
「なので、こういうことも、
しかるべきタイミングがあるってことかと思うんですよね。
ん?どうかしましたか?」
「あ、いや、その、さっき言った葉子ちゃんのことを…
ちょっと考えてたんです。」
「ああ、陽香さんのお友達の?」
「ええ。
なんか、お母さんから、葉子は反抗期がないのでね、
親子というより、いつまでも姉妹みたいな関係でいられて、
いろいろと楽しいわよ、
と言ってたので…、
それ聞いた時は、えー!楽でいいじゃない!
うらやましいな!って、思わず言ってたんですけど…、
今の先生の話聞いて、なんか、ちょっと…
他人事ながら不安になって来ちゃいました。」
「そうですか…。
そうですね、反抗期が現れにくくなってきた要因として、
今おっしゃったような、親子関係の変化というのも
大きいかと思いますね。
つまり、親子が親子というよりも兄弟姉妹みたいに、
あるいは友だち関係のように仲が良くなって…。
そうすると、反抗する機会というか、材料も理由もなくなって
来ますからね。」
「ああ、そういうことなんですね。友達のように仲がいいっていうのも、
親子の場合は考えものなんですかねぇ?」
「子どもにとって親が、乗り越えるという対象ではなくなって来たというか。」
「いくら友達っぽい関係って言っても、親子には違いないので、
やはり、子どもにしたら、いつまでも甘えられるわけですからねぇ、親に。」
「そうですね。乗り越えるというよりも、乗り越えたくなくなるというか、
今が一番、現状維持が一番楽!ということになりがちですね。」
「でも、それだとやがてしっぺ返しが来る…、ということですか?」
「うーん、必ずしも、というわけではないと思うんですけれど…、
ただ、反抗期らしきものがないお子さんの場合には、
いくつか注意して考えたほうがいい点があるとは思うんですけど…。」
「え?それはどんなことなんですか?」
(つづく)
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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