創作読物 23「諦められるわけがないです」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「あ、こんにちは。
どうぞお入りください。」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「今日は久しぶりにいい天気ですねぇ。
道は混んでましたか?」
「お天気なので、ちょっと混んでましたね。」
「そうですか。でも、渋滞ってほどではなかったですかね?」
「はい、そうですね。」
「えーと、今日は…。」
「ええ。
先生ね。私、先週のお話の後、いろいろと考えたんですけど…。」
「あ、はい。」
「先生は先週、なんか、学校に対して批判的というか…、
かなり厳しいことおっしゃってましたでしょ?」
「あ、ええ、そうでしたね。」
「あれって何故なのかなって…、
私なりに考えたというか…。」
「そうですか。
で、何か答えが出ましたか?」
「あ、いやあ、ちょっと難しくて…、わからなかったんですが…。
ただ、先生は確かに学校を批判するようなことをおっしゃたんですが、
なんか、吐き捨てるような感じじゃなかったですし…、
なんか、口調は冷静だったし、乱暴ではなかったですし、
でも、何て言うか…、熱というか、圧みたいなのが伝わってきて…。」
「そうでしたか。
そんな感じが伝わってましたか(笑)。
飯塚さん、鋭いですねぇ(笑)。」
「いえいえ、そんなんじゃないんですけど…。
ただ、決して批判してるだけじゃないというか…、
うーん、何というか、ちょっと表現が難しいんですが…。」
「そうですか。
じゃあ、今日はまず、そのあたりのお話からしますかね?」
「あ、はい。お願いします。」
「おっしゃるように、ただ単に文句を言ってるわけではないし、
諦めて、突き放してるわけでもないんですよ。
いや、むしろ、諦められるわけがないですよね。
だって、ずっと、教育の世界で生きてきたんですから。」
「そうですよねぇ。」
「ええ。
なので私は、学校のことはよくわかっているつもりですよ。
良い面も、そうでない面も含めてね。
そして、むしろ、良い面のほうが多いということもわかってますよ。」
「そうなんですか?」
「もちろんそうですよ。
だから、ちょっと口幅ったいけど、
先週お話した内容は、まあ、苦言というか、何というか…。」
「敢えておっしゃったということですか?」
「そうですね。
まあ、やはり、私は学校で育ってきたというか、
育てられてきたわけですから…。
つまり、そのう、もっと良くなってほしいって気持ちが…、ね。」
「なるほど。
それで、ストンと落ちたというか…、
つまり、先生はなんだかんだ言っても、学校が好きってことですね?」
「ははは。
そう聞かれて、はいそうです、ってのも気恥ずかしいですけどねぇ(笑)。」
「好きっていうよりかは、期待の表れってことですかね?」
「あ、そうそう。そうですね(笑)。
その言い方のほうがいいですね(笑)。」
「なので、言わずにはいられないってことなんですかね?」
「うーん、そうですね。
今の自分なら、冷静にというか…、
いろいろと客観視できると思うのでね。」
「客観視ですか…。
やはり当事者だと、それがなかなか難しいってことですよね。
私も、陽香のことで、最初はなかなか冷静に見れなくて…。
でも、今はお蔭様で、ちょっとずつクールというか、
いろいろな角度から見れるようになってきた気がします。」
「そうですか。
なら、いろいろと話して良かったですね。」
「はい、そうですね。」
「ところで飯塚さん、今、客観視という言葉を使ったでしょう?」
「あ、はい。」
「それで思い出したんですが…、
私ね…、子どもが大人になるって、
いろんな考え方があるとは思うんですが…、
私はいつからか、その人がね、自分自身や周囲の状況を
客観的に見ることができるようになったら、
それが大人の仲間入りをした、と言えるんじゃないか、とね。」
「あー、なるほどー。」
「飯塚さんは、この考え方、どう思います?」
「あ、ええ。
なんか、納得できるって言うか…。
でも、それ納得しちゃうと…。」
「しちゃうと?」
「私もまだまだ子どもだったってことですよねぇ?」
「え?
あ、ああ、陽香さんのことですね?」
「ええ、そうです。
先生と、こうしてお話することで…、
ようやくちょっとずつ、陽香のこととか、
周りのことが見えて来た、というか…。
いや、まだ、全然見えてはいないんですけど、
見ようと意識できるようになってきた、というか…。」
「なるほどね。
いや、自分自身や周囲の状況を客観的に見ることができるようになる
ってのは、今、子どもが大人になる、1つの基準て感じで言ったんですが、
人って成長し続けるわけですから、そう考えれば、
誰でも、どんな場面でも、これって当てはまるのかもしれないですよね。」
「そうですね。
でも、一生かかっても難しいかもしれないですね、
自分や周りの状況を客観視できるようになるって…。
やっぱり、人って自己中って言うか、自分中心になりがちですからねぇ。」
(つづく)
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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