創作読物 29「すべてのことには時がある」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「学校側は、その裏返しですよね、簡単に言えば。

 つまり、保護者に対する丁寧な説明や情報提供不足…、

 親の子育ての仕方への不信感とか、つまり、偏見や先入観とか…。

 ああ、なので、裏返しというか、双方ともに同じような原因ですね。」

「だったら、話し合いなんてうまくいくはずないですよね。

 お互い、距離というか、溝があり過ぎですからねぇ。

 まして、ミクシィ?じゃないけど、フィンランドみたいに

 お互いになぜですか?なぜですか?なんて言ってたら、

 ほんと、喧嘩になっちゃいますよねぇ。」

「そうですね。

 信頼関係に裏打ちされたミクシィは、

 純粋に知らないことを、よりよく理解したいっていう気持ちからですが、

 不信感に基づくミクシィは、ただ単に相手を追及してるだけですからねぇ。」

「それじゃ、うまくいくはずないですねぇ…。あーあ。」

「がっかりしちゃいましたか?」

「そうですねぇ。」

「ところで、飯塚さんは、PTAの役員とかは、これまで何かなさいました?」

「ああ、ええ。

 小学校の時だけですけど…、

 正直、ずっと逃げ回ってたんですけどね(笑)、

 陽香が6年生になった時に、結局、逃げられなくなって、学級委員を。」

「そうですか。

 それは逃亡生活が長かったですね(笑)。」

「そうですね。

 他の人よりは…、ですね(笑)。」

「じゃあ、飯塚さんは、

 PTA活動は下駄箱から始まるって、聞いたことありますか?」

「え?何ですか、それ?

 聞いたことありません。」

「そうですか。

 いやね、PTAの会合って、たいがいは学校の中の教室とか、

 会議室でやるでしょ?」

「ええ、そうですね。」

「そこで、保護者だけで話し合ってる時は、知りませんけど、

 誰か管理職とか、担当の教師が同席してると、

 その時の話って…、なんか余所行きって言うか…、

 保護者は、ほとんど本音を出さないでしょう?」

「まあ、そうですね。」

「なので、本当のPTA活動は、会議が終わって、

 保護者が下駄箱で靴を履き替えて、帰り道につく時から始まる、とね。

 ねえねえ、あの先生、さっきあんなこと言ってたけど、どう思う?なんてね。」

「ほう、なるほど(笑)。」

「それからがドッと出るでしょ?本音が(笑)。」

「確かに、そうですねぇ(笑)。」

「で、時間が足らなくなって、ファミレスで延長戦開いたり、ね(笑)。」

「確かに、確かに(笑)。」

「なので、PTA活動は下駄箱から始まるって、ね。」

「へぇー、それってすごくわかりやすくってピッタリな表現ですね(笑)。」

「ですよね。

 でも、ミクシィ?じゃないけれど、なぜだと思います?それって。」

「え?

 なぜって、やはり、先生の前では、本音というか…、

 特に学校に対する批判めいたことは言えないからでしょうねぇ。」

「ミクシィ?」

「え?

 ああ、さらに、なぜってですか?」

「はい、そうです(笑)。」

「うーん。

 なぜ、学校を批判できないか…。

 それはやっぱり、自分の子どもになんか不利なことになったら…、

 という不安があるからじゃないですか?」

「まあ、そうなんでしょうね。

 子どもが人質にとられてる、なんてことも言いますからねぇ。」

「人質ですかぁ。

 確かに、人質って言えば、人質ですよね(笑)。」

「うん。

 でも、仮に親が学校に対して、批判とか苦情を言ったりしても、

 それがその子どもに悪影響を与えるなんてことは、あってはならないこと

 なんだけど…、それが皆無じゃないってことが問題なんでしょうね。」

「ええ、そうですよ。

 だって、聞きますよ。

 ちょっと担任の先生に、子どもの指導のことで文句言ったら、

 それから子どもに先生が辛く当たるようになったとか…。」

「そうですか…。

 そういうのも、さっき言ったように、双方の関係性がうまくいってない

 からなんでしょうね。」

「だとしたら、変わらないですねぇ。」

「ええ、このままではね。

 なので、保護者も学校では、愛想振りまいて、

 でも、学校出た途端に、なんか文句言う、なんて、

 精神衛生上よくないことをしてないで、

 言いたいことがあれば、ちゃんと陰ではなく、表で言わないとねぇ。」

「そうなんでしょうけど…、

 それが、なかなかできないというか…。

 だって、だいたいの親がそうしてるんで…。

 それに、精神衛生上よくないっておっしゃるけど、

 なんだかんだ愚痴とか文句言い合ってるうちに、気持ちが晴れるというか…、

 あっ!

 でもこれが、先生のおっしゃる同調圧力ってやつなんですかねぇ。」

「そうですね。

 でもまあ、大切なのは、飯塚さん自体がどう思うか、

 どう振舞うかってことですからねぇ。」

「はぁ。」

「もちろん、どう振舞うかってのは、飯塚さんが決めることなので、

 私は何とも言えないですけれど…。

 ただ…、

 言えることは、面従腹背もよくないし…、

 それって結局、自分を誤魔化してるって言うか、

 二枚舌を使ってるわけですからね。

 そのうち、自分で自分が嫌になっちゃうでしょ。

 かといって、反対に、絶対視とか、盲従も良くはないですよね。

 自分で判断することなく、とにかく無批判に従っちゃうってことだからね。」

「うーん。

 厳しいというか…、

 むずかしいですねぇ…。」

「そうですね。

 これって、まさに生き方に関わることですからね。

 理屈とか、理想だけでは、如何ともしがたいというか…。

 そんな簡単にはいきませんよね(笑)。」

「そうですね…。

 でも、とても大事なことだと思いますし…、それに…、

 今まで、深く考えたことがなかったことですから…。

 逃げたり、誤魔化したりしないで…、

 ちゃんと考えないといけないかな、と。」

「そうですか。

 まあ、すべてのことには時があるって、言いますからね…。」

「そうですね。

 今が、その時なのかもしれませんね。」

 

(つづく)

 

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