創作読物51「子どもは、純真でもあり、残酷でもある」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「それって…、

 ほんとのことを…、改竄て言うんですか…、

 なんか、誤魔化したりするっていうのも、一緒なんですかね?」

「うーん。

 そうだねぇ…、

 さっき、ほら、ある情報を悲観的に捉える人と、

 楽観的に捉える人がいるって言ったでしょ?」

「あ、ええ。」

「その関連で、話をするとね…、

 陽香さんは、カチカチ山って話、知ってる?」

「ああ、昔話のカチカチ山ですか?」

「そうそう。」

「ええ。

 10年ぐらい前に読んだと思います。

 まだ、家にあるんじゃないかなぁ。」

「結末は覚えてる?」

「え?

 ああ、確か、ウサギがタヌキを泥船に乗せて、懲らしめて…、

 でも、最後は、改心したタヌキを助けるんでしたっけ?」

「ああ、

 陽香さんが読んだ本は、そういう結末だったんだね?」

「え?

 本によって結末が違うんですか?」

「うん。

 一口にカチカチ山って言っても、たくさんストーリーがあってね。

 で、その本では、おばあさんはタヌキに殺された?」

「いやぁ、

 確か、タヌキに殴られて大怪我したんじゃなかったっけかな?

 でも、タヌキはおばあさんを殺しちゃうんですか?」

「うん。

 元々のカチカチ山は、もっともっと残酷でね。」

「え?

 そうなんですか?」

「知りたい?」

「ええ、知りたいです。」

「たぶん、陽香さんが読んだ本とは、だいぶ違うと思うんだけどね。

 じゃあ、元々のカチカチ山のあらすじを言うね。」

「はい、お願いします。」

「えーと、昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。

 二人は、畑を荒らすタヌキに悩まされていたので、

 ある時、おじいさんが罠をしかけ、タヌキを捕まえた。

 おじいさんは、おばあさんに夕食はタヌキ汁にしようと言って、

 また畑に出かけて行く。

 ところがその後、タヌキはおばあさんに、

 もう絶対悪さをしないと謝り、縄を解いてもらうんだけど、

 実は、これが大嘘で、タヌキは、家事を手伝う振りをして、

 杵でおばあさんを撲殺、殴り殺してしまう。」

「えー?

 そうなんですか?」

「いやいや、まだまだ、これからだよ。

 タヌキは、おばあさんの皮を剥いで、おばあさんに化けると、

 おばあさんの肉を煮込んで、タヌキ汁でなく、ババア汁を作り、

 そうとは知らずに帰ってきたおじいさんに、

 美味しいタヌキ汁ができたと言って、ババア汁を食べさせちゃう。」

「えー?

 怖!」

「で、おじいさんが、美味い美味いと食べ終わったところを見計らって、

 正体をばらし、お前が今食べたのは、タヌキ汁でなく、

 ババア汁だ。嘘だと思ったら、流しの下の骨を見ろと、

 おじいさんを嘲りながらタヌキは山に帰って行ってしまう。」

「ほんとに残酷だし、

 憎たらしいタヌキですね。」

「うん。

 で、悲しみにくれていたおじいさんの所に、

 仲良しのウサギが訪ねてきて、何があったのかと聞く。

 わけを話したおじいさんに同情したウサギは、

 タヌキを懲らしめることを決意する。

 数日後、ウサギはタヌキに儲け話があると持ちかけ、薪拾いさせる。

 その帰り道、疲れたふりをしたウサギはタヌキにおぶってもらい、

 ウサギは、薪に火をつけ、タヌキに大やけどを負わせる。」

「そのへんは、私が読んだ本と同じですねぇ。」

「次に、手足を縛って山頂からすべり降りると楽しいと言って、

 タヌキを傷だらけにしたり、傷が治る薬だと騙して、

 唐辛子入りの味噌を渡したり…。」

「え?

 それは知りませんでした。

 ウサギも、かなりしつこいというか、残忍ですね。」

「でも、苦しむタヌキに、ウサギは更に追い討ちをかけるんだよ。

 ウサギは、タヌキを漁に誘い出し、木の船と大きい泥の船を用意する。

 大きいほうがたくさん魚を獲れると考えたタヌキは泥船に乗るが、

 次第に船が水に溶けて、沈んでしまう。

 タヌキは、助けを求めるが、ウサギは見捨てて、

 結局、タヌキは溺れ死んだのでした。

 チャンチャン。」

「へー、

 すごいですねぇ。

 全然ちがうわ(笑)。

 でも、ほんと、残酷な話なんですねぇ。」

「そうでしょう?」

「でも、なんで、話が変わっちゃってるんだろ…。」

「だよね。

 殺されたはずのおばあさんが、大怪我に変わってたり、

 見殺しにされたタヌキが、ウサギに助けられて、

 しまいには、おじいさん、おばあさんとウサギとタヌキとで、

 お餅を食べながら、仲直りしたりね(笑)。

 だいぶ、変わっちゃってるよね。」

「ですよね。」

「なんで、話が変わっちゃった、というか、

 変えられちゃったと思う?」

「変えられちゃったんですか?」

「うん、そうだよ。」

「えー?

 なんでだろ…。

 すごい残酷だから…、ですか?」

「うん。

 理由の一つは、それみたいだね。」

「いくつか理由があるんですか?」

「そうみたい…。

 えーと…、陽香さんは、子どもは純真だと思う?

 それとも、残酷だと思う?」

「え?

 うーん。」

「いきなり、難しいよね(笑)。」

「そうですね。」

「でも、子どもは純真なんだから、

 あんまり残酷な話は聞かせないほうがいい、という人たちが居てね。

 そういう人たちの考えで、カチカチ山とか、残酷な話が、

 次第にオブラートに包まれてきたらしいんだよね。」

「そうなんですか…。」

「でも、その結果、本来の話がお蔵入りって言うか…。」

「ですねぇ。」

「陽香さんは、

 子どもにとっては、どっちがいいと思う?」

「うーん。

 難しいなぁ…。

 でも…、

 子どもって、純真なだけではないような…。」

「だよね。

 まあ、だから、もし、正解があるとしたら、

 子どもは、純真でもあり、残酷でもある、ってのが答えなんだろうけど…。」

「ええ。

 そうですね。

 だと思います。」

 

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