創作読物59「チャンスはピンチってことだね」

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「あ、もしもし、

 飯塚ですが、藤井先生ですか?」

「あ、陽香さんのお母さんですね。

 こんにちは。」

「あ、はい。

 こんにちは。

 今、お電話、大丈夫ですか?」

「ええ。

 大丈夫ですよ。どうされました?」

「ええ。

 あのう、昨日はほんとにありがとうございました。

 陽香にいろいろとお話していただいたみたいで…。」

「あ、いえいえ。

 なんか、長くなってしまって…、

 却ってすいませんでした。

 でも、楽しかったですよ(笑)。

 陽香さんは、何か言ってました?」

「あ、いえ…。

 ただ…、今朝、陽香が6時に起きて来て…。」

「ほう。」

「で、びっくりしたんですけど…。

 だって、毎日お昼近くまで寝坊してたもんですから…。」

「そうですか。」

「それで、こんなに早く起きて、

 どうしたの?って聞いたら…、

 これからちょっと散歩してくるって…。」

「ほう。

 散歩ですかぁ(笑)。」

「ええ、そうなんです。

 で、トレーナーに着替えて出て行こうとしたので、

 玄関先で、散歩はいいけど、なんでまた、急に?って聞いたら…。

 ピンチはチャンスだから、って一言だけ言って出かけたんですよ。」

「そうですか…。

 で、どのくらい散歩したんですか?陽香さん。」

「そうですねぇ…、30分ぐらいですかね…。」

「で、帰って来た時、どうでした?」

「ええ。

 それが、とってもいい顔つきしてまして…。

 いい汗かいたぁ、って(笑)。」

「そうですか(笑)。

 じゃあ、良かったじゃないですか。」

「ええ、そうなんです。

 なんか、急だったんで、逆にちょっと心配したんですが…。

 先生、何か…、散歩するといいとか、おっしゃってくださったんですか?」

「あ、いやあ、特に散歩は話題になりませんでしたけど…。」

「そうなんですか…。

 じゃあ、ピンチは…、チャンスとかってお話は?」

「いや、それも言ってませんがねぇ。」

「そうですか…。

 じゃあ、なんでそんなこと言ったんだろ、あの子…。」

「そうですか…。

 いや、昨日も感じたんですけど…、

 陽香さんは、とっても賢いですねぇ…。」

「え?

 そうですか?」

「ええ。

 高校一年生としては、

 かなり、大人なんじゃないかな。」

「そうでしょうかねぇ…?」

「はい、そうだと思いますよ…。

 ただ…、だから、余計考え過ぎちゃうってことがあるのかなと…。」

「はあ。」

「でもそうですか…、ピンチはチャンスだなんて、言ってましたか(笑)。」

「ええ。

 なんか、朝早く起きたのに、

 寝ぼけまなこではなくて…、

 なんか、ちょっとスッキリした顔してて…。

 それも、不思議と言うか…、びっくりしたんですけど…。」

「なるほどね(笑)。

 じゃあ、昨夜はよく眠れたんですね、きっと。」

「ええ。

 いつもは、深夜まで、なんか、ガタガタやってるんですけど…、

 昨夜は、早寝したみたいで…。

 久しぶりに、長時間外出して…、

 しかも、初対面の先生とお話したんで、

 疲れたのかな?って、思ってたんですけど…。

 まさか、私と同じ時間に起きてくるなんて…。」

「で、散歩は続けるとか…、言ってました?」

「あ、ええ。

 帰って来た時に、それ聞いたら、

 雨の日以外は、続けようって言ってました。」

「そうですか…。

 三日お嬢さんにならないといいですね(笑)。」

「え?

 あぁ、そうですね(笑)。」

「お母さんも、ご一緒にやられたらどうですか?」

「うーん。

 朝は、いろいろと忙しいので…。」

「でも、朝6時の散歩って、気持ちいいでしょうねぇ。」

「そうでしょうねぇ…。

 そう思います。」

「でも、散歩を朝6時にするってのも、

 陽香さんなりの、意味があるんだと思いますよ。」

「え?

 そうなんですか?」

「三日坊主にならずに、続いたら、

 直接、聞いてみたらいいじゃないですか。」

「そうですね。

 そうしてみます。」

「それとね…、

 これも、散歩が続いたら…、でいいんですが…。」

「ええ。」

「陽香さんに、言ってみてくれますか?

 藤井がこんなこと言ってたよ、と。」

「ええ。

 何て言えばいいんですか?」

「はい。

 ピンチはチャンスってことは、

 チャンスはピンチってことだね、って。」

「え?

 何ですか?それ。」

「ああ、すみません。

 お母さんにしてみれば、何のこっちゃ、って話ですね(笑)。

 でも、陽香さんには伝わると思いますので…。」

「はぁ、そうですか…。」

「なので、その意味は…、

 また、そのうちに陽香さんに直接、聞いてみてくださいよ。」

「あ、はい。

 わかりました。じゃあ、それも聞いてみます。」

 

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