創作読物76「もう一つ、頭痛の種が増えた」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「まあ、

 そんなこんなで、修学旅行が始まってね。」

「ええ。

 京都、山陽方面でしたっけ?」

「うん。

 京都に一泊、

 岡山、広島にそれぞれ一泊だったっけな。」

「いわゆる観光中心ですか?」

「というか、

 その頃は、班別自由行動ってのが主流でね。

 あらかじめ、生徒たちが班で行きたい所を調べておいて、

 朝、ホテルを班ごとに出発して、

 途中、何ヵ所か、チェックポイントってのがあって、

 そこに教員が居るんだけど、そこを通過しながら、

 目的地の次のホテルに夕方までに到着するっていう…。」

「ああ、

 今でも、やってるみたいですけどね、そういうの。」

「でも、このやり方だと、

 朝、ホテルを出てからの足取りがわからないんだよね、本当のところは。」

「実は…、

 僕の高校の時の修学旅行もそんな感じだったんですけど…、

 実際には、チェックポイント以外は、勝手な所に行って、

 誤魔化してましたからね(笑)。」

「でしょ?(笑)。

 まあ、班で行動すると、

 必ず逸脱しようとする者が出るよね。

 で、内紛を起こしたりね(笑)。

 でもまあ、それも含めて班別自主行動って言えば、自主行動なんだけど…。」

「先生みたいに、物分かりがいい先生ばかりなら、いいんですけど、

 僕の時は、行程どおりに行かなかったことが、

 なぜか、バレちゃって、大目玉をちょうだいしましたよ(笑)。」

「班員か、

 他の班の誰かに密告されたのかな?(笑)。」

「まあ、そんなところでしょうね(笑)。」

「でね、

 初日の午後も早速、

 京都のある地点から、その晩に泊まるホテルまで、

 班別の自主行動しながら到着するっていうことで…。」

「初日からですか?」

「さっきも言ったように、

 その頃は、班別自主行動が大はやりで、

 ほとんどの日程がそうだったんじゃないかな。

 クラス全体で動くってことは、それこそ1,2か所で、

 集合写真撮るためって感じで(笑)。」

「そうなんですか。」

「うん。

 で、次々、班ごとにホテルにゴールインしてるのに、

 私のクラスのある班が、一人足らない状態でホテルに着いて…。」

「誰か脱走したんですか?」

「そう。

 途中で、姿をくらましたと…。

 そうこうしてるうちに、私に電話がかかってきて…、

 あ、もちろん、その頃は携帯なんて便利な物はないから、

 ホテルに電話が入ったんだよ、外部から私宛に。」

「脱走した生徒からだったんですか?」

「そう思ったら、

 なんと、こちら京都東山警察署ですが…、

 先生のクラスにN君という生徒は居ますか?って。」

「え?

 警察に保護されたんですか?」

「なら、いいんだけど…、

 アクセサリーのお店で、万引きして捕まったんだって。」

「ふへー。」

「ほんと、ふへー、だよね。」

「で、どうなったんですか?」

「身柄を預かってるから、引き取りに来てくれと言うので、行ったよ。」

「本人はどんな感じでした?」

「うん。

 私の顔見るなり、

 御免て、すまなそうに両手合わせてたけどね。

 ただ、警官が言うには、常習のようですねって。」

「そうなんですか…。」

「うん。

 手口が慣れてるって。

 まあ、家庭的にもいろいろあった子だから、

 まあ、なんかやらかすだろうな、とは思ってたんだけど、

 初日からとはね、正直、まいった(笑)。」

「それで、旅先で生徒指導ですか?」

「だね。

 学校だと、通常、家庭謹慎とかね…、

 あ、当時は今と違って、登校して学校内で謹慎するってのはなかったから、

 万引きは初めてなら、たいがいは謹慎3日ってところだけど、

 旅先だからね。」

「ホテル内で謹慎ですか?」

「まあ、そういうことも、

 連泊なら可能だけど、なにせ、各ホテルに一泊だし、

 しかも、京都の次は岡山で、距離もかなりあるから…、

 でも、そのまま班と同一行動を取らせるわけにもいかないということで、

 まあ、教員のうちの一人が、Nを岡山まで護送するわけだよ。」

「護送ですか?(笑)。」

「なんか、

 笑っちゃいけないけど…、

 もちろん、その時は、教員たちも真剣だったし…、

 でも、笑っちゃうよね(笑)。」

「確かに、

 ただでさえ、教員の人数が足りない中で、

 そういうことが起こると大変と言うか…、

 予定が狂っちゃいますね、笑いごとでなく。」

「そうだね。

 まあ…、

 Nにとっては、道中、こってり絞られるわけでもなく、

 付き添いの教員といろいろと話もできるので、

 得って言ってはなんだけど、家に籠ってるよりはいいかもしれないけどね。」

「でも、

 やはり、迷惑っちゃ、迷惑ですねぇ。」

「まあ、

 でも、生徒指導ってのは、迷惑って感じたら、

 やってられないけどね。」

「そんなもんですかね。」

「そんなもんだよ。

 教員が、そう思って接したら、

 必ず生徒には伝わるから…。

 そしたら、教員が何言ったって、ほんとのところは伝わらないと言うか、

 受け付けなくなるからね。」

「なるほど。

 でも、先生は鞭打ちの直後だったんでしょ?

 大丈夫だったんですか?」

「もう一つ、頭痛の種が増えたわけだからね(笑)。

 まあ、私よりも、クラスの生徒たちが随分憤ってたね、Nに。」

「そうですか。」

「まあ、

 でも、Nにもいろいろと事情があったからね。」

「家庭的にもいろいろあった子だと、

 おっしゃってましたね、さっき。」

「うん。

 それは、修学旅行後の家庭訪問でわかったんだけどね。」

「ええ。」

 

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