創作読物81「お互いに、当たり障りのない関係を求める」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「ええ。

 例えが絶妙ですよね。

 ただ、僕は…、

 本ぺスタと偽ぺスタは、なんとなくわかる気がするんですけど…、

 流れ者ってのが、実感が湧かないと言うか…。」

「うん。

 サラリーマン教師って言ったらいいのかなぁ…、

 いや、流れ者ってのは、もうちょっと質が悪いかな。」

「質が悪い?ですか?」

「うん。

 つまり、教育とかにそれほど関心やこだわりもなく、

 要は、経済的理由とか、あるいは以前は夏休みとか、

 長期休業中に、教師も比較的休みが取りやすかったんで、

 それが魅力で教師になるとかね。

 だから、自分の趣味とか娯楽を優先する教師。」

「今は、経済的にも、どうなんだろって感じだし、

 まして、夏休みなんか、会社勤めの人より取れないですけどね。」

「平井さん、

 それはちょっと認識が間違ってるかもよ。」

「え?」

「教師は、経済的にはやっぱり安定してるし、

 いわゆる貧困とはだいぶ距離があるでしょ?」

「ええ、それは…、まあ。」

「それに対して…、

 特に平井さんが今勤務してる定時制高校の生徒の家庭の中には、

 生活保護受けてたり、生徒も学費をバイトで稼いでたり…、

 経済的には、とっても苦しい家庭もあるでしょ。」

「まあ、それは確かにそうですね…。」

「だから、教師は経済的には恵まれてる、

 守られてる、っていう自覚がないといけないんじゃないかな、と思うよ。」

「そうですか…。」

「それと、夏休みだって、

 いわゆる会社勤めなら、ある程度保障されてるだろうけど、

 個人事業主とかの人の中には、長期の休みとはまったく無縁な人も多いし…。」

「確かに…。

 そのへんのことは、教師は疎いかもしれないですねぇ。

 どうも、サラリーマンを意識して考えちゃう癖がありますね。」

「うん。そうだろね。

 でも、何を基準にして、物事を考えたり、

 判断したりしているかってのは、案外重要と言うか…、

 その人の価値観やバックボーン、

 あるいは、人間性が現れちゃうこともあるから、注意しないとね。」

「なるほど、そうですね。

 もっと広い視野や視点が必要ということですね。

 以後、気を付けます。」

「まあ、

 もちろん、経済的にも、休みを取るのも、

 余裕と言うか、ある程度、ゆとりがあることに越したことはないんだけどね。」

「それはそうですね。」

「で、流れ者と言えば…、

 私が初任で赴任した学校には、趣味の釣りがやりたくて、

 サラリーマンから教師に転職したって言う人が居たよ。」

「へー。」

「もともと、そんなに学校とか、教育に思い入れがないわけだから、

 やっぱり、責任ある仕事とか、ポジションは避けて…。

 それだと、同僚からも信頼とかされないし、

 当てにはできないというふうになっちゃうよね。」

「でも、本人的には、

 それは望むところってことなんですかね?」

「うん。

 それが周りにもわかるから、余計癪だよね。」

「教師の場合、

 仕事量の均分化って、難しいですよね。」

「そうだね、

 まあ、教師だけじゃないけど、

 やはり、仕事量って、その人のやる気に比例するからね。

 ただ、報酬はと言うと、公務員の世界では、やる気には比例しないのでね(笑)。」

「だから、

 初めはやる気があったのに、

 不公平さを感じて、腐っちゃう人が出てきちゃうんですかね。

 ただ、そういうサラリーマン的な教師は、

 結局、同じ職場には居づらくなるので、

 流れ者となって、点々とするってことなんですかね。」

「そうだね、

 2,3年居て、責任のある仕事が回って来そうになると、

 異動希望を出して…、って感じかね。」

「なるほど。

 まさしく、流れ者ってことですね。」

「まあ、流れ者も、教師をやりながら、

 次第に教職に目覚めていくケースもあるんだろうけど、

 そういうのは、やはりレアケースかもね。」

「今の教師が置かれている環境を考えると、

 それは難しいかなと思いますね。」

「うん。

 あと、流れ者と偽ぺスタは、

 ある意味、似てる面もあるんでね。」

「どういう点がですか?」

「今、平井さんが言ったように、

 初めはやる気があったのに、

 そのうちに、やる気が失せちゃう人って、

 結局は、本物だったのかと言うと、それは違うんじゃないのかな、とね。」

「ああ、そういうことですね。」

「とにかく、流れ者は、

 誰の目にもわかりやすいから、

 対処、対応もしやすいけど、

 偽ぺスタは、なかなか見破るのが難しいよね。」

「ですね。

 何しろ、本物らしく振舞ってるわけですからね。

 生徒なんか、簡単に騙されちゃうんじゃないですかね。」

「いや、

 案外、周りの教員よりも、

 生徒のほうが敏感に感じてるのかもよ(笑)。」

「え?

 何でですか?」

「つまり…、なんていうか…、

 自分たちのことを思って、

 いろいろと心配したり、語ってくれたりするってのは…、

 やはり、それを語られる側、つまりここでは生徒たちのほうが、

 それが本心からの言葉なのか、なんとなく胡散臭いのかってのは、

 一番わかるんじゃないのかな、って思うんだけど。

 まあ、思うというか、そうあってほしいという期待かもしれないけど…。」

「なるほどぉ。」

「それに、

 毎日付き合ってる教員同士のほうが、

 ある程度、関係性を維持しなきゃいけないっていう思いもあるから、

 あまり、厳密なフィルターをかけない、ということもあるんじゃないかな。

 同僚同士ではね。」

「うーん。

 複雑ですねぇ。」

「あるいは、

 見て見ぬ振りをするというか…。

 とにかく、組織内では、確執を避けたいから、

 お互いに、当たり障りのない関係を求める傾向はあるだろうね。」

「でも、それでいいんでしょうか…、ね。」

「良くないから、

 本ぺスタが苦しむんじゃない。」

 

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