創作読物87「脳って、面白いよね」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「でね…、

 実験結果としてはね。」

「ええ。」

「まず、映像1を観てる時の観客の脳波は、

 ほとんどの人は、前頭葉の前頭前皮質と言う所、

 ここね、このオデコの上辺りなんだけど、

 ここが反応してたんだって。」

「それって…、

 どういうことなんですか?」

「うん。

 ここは、さっき言った理性が発揮される所なんだよね。」

「なるほど…、

 そんなに殴らなくてもいいじゃん、

 と思った人が多かったっていうことですか?」

「うん、そのとおり。

 で、映像2の時は、

 テロップの内容が利いたのか…、

 今度は、ほとんどの人の大脳辺縁系という、

 ちょうど、頭の真ん中のほうにある所が反応したらしいんだ。」

「そこは、じゃあ…、

 感情的になる所なんですか?」

「はい、正解だね。」

「つまり、感情的になるってのは…、

 この場合は、殴ってる女性に対してでなく、

 殴られてる男性に対して、その感情が向けられてるってことなんですか?」

「たぶんね。

 つまり、浮気をしたなら、殴られてもしょうがないというか、

 当たり前だって…、まあ、女性を応援してるというか…。」

「面白いですねぇ、脳って、一瞬一瞬動いてるんですね。」

「この実験でわかることは、

 つまり、良くないことをされたら、

 誰でも感情的になるんだけど…、

 それは、その当事者だけでなくて、周りの人も、

 悪いことをしてる、あるいは、したと判断したら、

 その人が責められても当然なんだっていう反応を、

 おおかたの人がする、ということなんだよね。」

「うーん。

 悪者は、罰せられてもいいんだって…、

 人間て、そういうふうに考えるというか、

 行動する生き物ってことなんですね?」

「そうだね。

 不義と正義と言うか…、

 不義ってのは、道義に外れてる、

 つまり、悪いことをするってことなんだけど、

 不義を働いた者は、懲らしめられて当然、

 むしろ、懲らしめるのが正義、つまり正しいと、

 多くの人は、思ってるってことなんだね。」

「あ、

 それって、この前先生が話してくれた、

 勧善懲悪ってやつですね。」

「ああ、

 そういえば、そんな話したね。」

「じゃあ…、

 子どもを叩いてた父親は…、

 やっぱり、子どもが何か悪いことをしたってことなんですかねぇ?」

「うーん。

 それは、状況を見てないのでわからないけど…、

 ただ、子どもが悪いことをしたかどうかはわからないけど、

 少なくても、父親はそう思ったってことなんだろうね。」

「つまり、父親がそう判断して、殴ったということですか?」

「うん。

 だから、もしかしたら、濡れ衣かもしれないんだけどね…。」

「だとすると、怖いですね。」

「怖いねぇ。

 つまり…、

 これは前に話したかどうか、忘れちゃったけど…、

 結局、裁判と違って、物事の良い悪いを決めるのは、

 第三者でなく、当事者、つまり本人たちってことだから、

 結局は、みな主観で善悪を判断してるってことなんだよね。」

「だから、ミスジャッジもあるってことですよね。」

「そうだね。

 しかも、タチが悪いのは、

 さっき言ったように、

 悪いことをしたと目された側は、

 罰せられて当然という考えと、

 同時に、罰する側は、自分が正義だと思ってるから、

 始末に置けないと言うか…。」

「でも、罰せられる側が、

 悪いことをしてないとしたら、

 その人も、当然、ムキになって反発するでしょうから、

 結局、感情と感情のぶつけ合いになっちゃいますね。」

「うん。

 だいたい、人と人のトラブルって、

 大なり小なり、そんなところなんだろね。」

「でも…、

 そう考えると、

 人って、悲しいというか…、

 なんか、つまんない生き物ですねぇ…。」

「う?

 あ、まあ、今はマイナス面にスポット当てた話してるからねぇ…。」

「プラス面もあるんですかねぇ?」

「感情的になる、って言うと、

 なんかマイナス的に聞こえるけど、

 感情には、怒りとか、哀しみだけでなく、

 ほら、喜怒哀楽って言うでしょ?

 だから、喜びも楽しみも、感情だからね。」

「まあ、

 そう考えれば、感情がなくなったら、

 生活とか、人生って、味気なくなるってことことなんですかねぇ?」

「まあ、そういうことだよね。」

「ただ、さっきの実験の話は、

 聞いて良かったです。

 なんか、脳の働きというか…、

 目の前に起こったことを、

 客観的に見られるような気がするというか…。」

「脳って、面白いよね。」

「そうですね。」

「まだまだ、わからないことだらけみたいだけど…、脳のことはね。」

 

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