創作読物89「つくり笑いでも、効果はあるみたいだよ」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「それにね、

 笑顔とか、笑うということには、

 他にもまだまだたくさん効用というか、

 いい影響があることがわかってるんだよ。」

「え?

 そうなんですか?」

「うん。

 まず、笑ってる時って、心身ともにリラックスしてるでしょ?」

「ええ。」

「たとえば、脳がリラックスしてれば…、

 あ、陽香さんは、海馬って知ってる?

 海の馬って書くんだけど。」

「え?

 飼い葉桶なら知ってますけど…。」

「え?

 ああ、その飼い葉でなくて、

 脳の中にある記憶に関わる重要な所ね。」

「そうなんですか。」

「でも、飼い葉桶なんて、

 古い言葉、よく知ってるね。」

「あ、

 幼稚園がキリスト系の幼稚園だったんで、

 毎年、クリスマスの頃になると、劇をよく観たので…。」

「ああ、そういうことね。

 で、笑顔になって、脳がリラックスすれば、

 当然、脳内の血液循環が良くなるでしょ?」

「たぶん。」

「そうすると、海馬も活性化して…。」

「つまり、記憶力が良くなるってことですか?」

「そうそう。

 逆に、海馬は貧血状態だと、

 ほとんど働かないらしいから、

 新鮮な血液とか、酸素とかがないと、

 ものを覚えたり、思い出したりするのが難しくなるんだってさ。」

「へー。

 血液循環て、大切なんですねぇ。

 単に、身体が冷えるとかだけでなくて…。」

「だねぇ。

 もちろん、笑えば、腹式呼吸になるから、

 身体中の血行もよくなって、新陳代謝が活発になるよね。

 そうすれば、老廃物も排除されるから、疲れもとれるしね。」

「いいこと尽くめですね。」

「うん。

 ストレスもあまり感じなくなるし、

 そうすれば、免疫力もアップするだろうから、

 ほんと、言うことなしだよね。」

「先生、

 ということは、逆もまた言えるってことですか?」

「う?

 どういうこと?」

「つまり、

 ストレス溜めたり、

 くよくよ考え事ばかりしてると、

 血行も悪くなり、免疫力や記憶力も下がって、

 なかなか笑わなくなる…って。」

「ああ、

 そういうことね。

 そうだよね。

 心身は繋がってるから、

 いい影響も与え合えば、悪影響も当然、関係してるんだよね。」

「なるほど。

 深いですねぇ。

 でも、だったら、作り笑いでもいいから、

 無理してでも、笑ったほうがいいですね。」

「うん。

 さっきは、つくり笑いはだめだよと言ったけど、

 陽香さんが言うように、つくり笑いでも、効果はあるみたいだよ。」

「そうなんですか?」

「うん。

 これも、脳に関係するんだけど、

 脳って、ほんとは騙されやすいんだって。」

「え?

 脳が騙されるんですか?」

「そうそう。

 たとえばね…、

 ほら、ここにボールペンがあるでしょ。

 これを、こういうふうに、私が横にして口にくわえたら…。

 ほら、表情としては、ちょっと笑ってるような顔に見えない?」

「ええ、

 そう言われれば…、そう見えますね(笑)。」

「で、今度は、こうやって、おちょぼ口にしてペンをくわえると…?」

「なんか、嫌なことがあった時の表情に似てますかね?」

「うん。

 そうだよね、泣き顔っぽくも見えるでしょ?」

「あ、そうですね。」

「つまりね、

 笑ってる時と泣いたり、ブッチョウズラしてる時とでは、

 顔の筋肉の動きが違うんだよね。」

「ええ、そうですね。」

「その違いを、我々の脳はちゃんと把握してるらしいんだよ。」

「へぇー。」

「で、ボールペンを横にくわえた時には、

 脳が顔の筋肉が緩んでる、つまり、今は笑ってるんだと誤解するわけ。」

「なんと!

 じゃあ、おちょぼ口でくわえてると、

 泣いてるというか、なんか、不快な感じを脳が感じ取ってんですか?」

「うん。

 そういうことらしい。」

「へぇー。

 ほんと、面白いですねぇ。」

「だから、つくり笑いでも、

 いい意味で、脳を騙せば、効果が出るってことだね。」

「いやあ、それはいいこと聞きました(笑)。」

 

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