創作読物90「やり始めれば、やる気はついてくる」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「ついでと言っちゃなんだけど、
もう少し、脳の話をしようかな?」
「ええ。
お願いします。」
「陽香さんは、
人は、悲しいから、泣くと思う?
あるいは、人は楽しいから、笑う、と思う?」
「え?
突然何言うのかと思ったら…、
そんなの、悲しいから泣くんじゃないんですか?」
「うん。
誰でもそう思うよね、たぶん。
悲しいから泣いて、楽しいから笑う、って。」
「ええ。」
「でもね…、
実はさっきの、おちょぼ口の話ね…。」
「ええ。」
「あれは実は、
脳科学者の池谷裕二さんという人が実験したらしいんだけど…。」
「え?
わざわざちゃんと実験したんですか…。」
「うん。
面白い実験だよね(笑)。
でね、その池谷さんは、実験結果から、
人は、泣くから、悲しくなり、笑うから、楽しくなるんだって、
言ってるんだよ。」
「ええ?
どういうことですか?」
「まあ、繰り返しになっちゃうけど、
池谷さんが言うには、
つまり、泣くとか笑うとかの行動を自分の意思で積極的に行うと、
後から脳がついて来て、悲しいとか楽しいといった感情を抱く、
ということらしいんだね。」
「へー。
それって、ほんとなんですかね。
ちょっと、直ぐには信じられない、と言うか…。」
「そうだね。
でも、これって、信じるとか、信じないということでもなくて…、
この法則が正しいかどうかは、自分で試すというか、
実験してみるといいんじゃない?」
「実験ですか?
どうすればいいんですか?」
「うーん。
池谷さんは、人の脳はだまされやすくできているって言うんだから、
上手に脳をだます実験をすればいいんじゃないかな。」
「上手に、どうやったら騙せるんですかねぇ…。」
「そうだねぇ…、
たとえばね…、
気分が落ち込みそうな時に、わざと楽しいことを思い出して笑うとか…。」
「なるほど。
でも、悲しい時に楽しいこと思い浮かべるって、
そんなに簡単にできそうもないですけど…。」
「うん。
でもね、それができれば、脳が反応して楽しい気分になってくる、
って言うんだから、やってみる価値はあるんじゃない?」
「確かにそうですね。」
「だって、
トレーニング次第で、自分で自分の感情をコントロールできる
ようになるんだったら、それって凄いことだと思わない?」
「ですね!
確かに、悲しい時に、楽しいこと考えるのは難しいけど、
ただ、その逆は、私、よくやってるかも。」
「え?
楽しい時に、悲しいこと考えちゃうってこと?」
「ええ(笑)。
なんか、癖で、ついつい…。
楽しいことって、そんなにいつまでも続かないって思っちゃうんですよね。」
「そうか。
なんか、言っちゃなんだけど、損な性分だねぇ(笑)。」
「ですねぇ(笑)。」
でも、今度、私なりに実験してみます。
まだ、半信半疑ですけど(笑)。」
「そうだね。
あと…、それからね、
池谷さんは、やり始めないと、やる気が出ない、とも言ってるんだよ。」
「やり始めないと、やる気が出ない?」
「うん、そう。
つまりね、人はやる気があるから何かをやり始めるんじゃなくて、
何かをやり始めることによって、やる気が沸き起こってくるんだってね。」
「ええ?
また逆なんですか?
なんか頭が混乱してきちゃう。」
「そっかぁ(笑)。
たとえばね…、
陽香さんは、最近は早起きして散歩してるらしいけど。」
「ええ、そうですね。」
「以前だったら、布団の中で、なんだかんだって理由つけて、
寝坊してたんじゃない?」
「ええ、まあ…、そうかもですね…。」
「そういう時、
普通だったら、陽香さんやお母さんは、
起きる気がないから、起きられないんだ。
気持ちがたるんでんだ、って思うと思うんだけど…。」
「ええ、実際そう思ってました。」
「でも、とにかく、布団から出て、いったん起き上がってしまえば、
確かに自然と眠かった身体もシャキッと目覚めてくるんじゃない?」
「言われてみれば、そうかも、ですね。」
「そうやって、実際毎朝起きているんだよね、陽香さんも。」
「はあ…。」
「池谷さんは、それをネズミの脳を使ったある実験から発見したらしく…。」
「ネズミですか?」
「うん。
ネズミのヒゲというのはとても敏感で、
ヒゲが触るものの性質をちゃんと脳に伝えているんだって。」
「へー。」
「実験ではね、ネズミの脳に電極を差して、
たとえば、ざらざらした物をヒゲに付けると脳のどこが反応するのか、
また、つるつるした物を付けるとどこが反応するのかを調べたらしく…。」
「うん、うん。」
「で、そしたらある時、実験中にネズミが自分から物に近づいて、
ヒゲを付けたんだって。
そしたらね、その時の脳の反応が、人から物を押し付けられた時より、
なんと10倍も強かった、ということなんだよね。」
「10倍もですか?」
「うん。
なので、ネズミも人間も、受身の時より、
自分から積極的に何かの行動を起こした時のほうが、
脳が活発に活動する、っていう結論を出したんだってさ。」
「つまり…、
受動態よりも、能動態のほうがいいってことなんですか?」
「うん、そうだね。
だから、やり始めれば、やる気はついてくる、ってことなんだね。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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