創作読物94「自分で考えて、動き出してくれている」
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
前回は、こちらから。
「あ、もしもし、藤井先生ですか?」
「あ、はい。
あ、陽香さんのお母さん…、ですか?」
「あ、はい。そうです。
なんか、今日はすいませんでした。
さっき、陽香が帰ってきて、
藤井先生の所に行ってきた、って言ったもんで…。
確か、予約は明日でしたよね?
なんか、すいません。ご迷惑ではなかったですか?」
「あ、いえいえ。
大丈夫ですよ。
そうですか。陽香さんは自分でここに来たと言いましたか…。」
「ええ。
で、それだけでなく、明日、先生に不登校のことも話すんだって。」
「あ、そうですか。
そこまで言いましたか(笑)。
実は、そうなんですよ。
ようやく、そういう気持ちになったみたいで…。」
「ええ。
それは…、嬉しいというか…、
ちょっと、安心はしたんですが…、
安心だけでなくて、不安も少しあって…。」
「うん?
不安ですか?」
「あ、はあ…。
ここのところ、
陽香は、朝早く起きて、散歩したり…、
以前よりも、ずっと生活が安定して来てたし…、
顔の表情もよくなって来てたんで…。」
「なるほど…。
不登校のことを話すことで、
また、トラウマと言うか…、
暗い過去を思い出して、気分も体調もまた悪くなっちゃうんじゃないかと?」
「ええ、
先生のことですから、
そういうことも、取り越し苦労かもしれないんですけど…。
なので、私も明日、付き添ったほうがいいでしょうかね?」
「陽香さんには、それ、聞いたんですか?」
「あ、いえ。
あの子には、聞けませんでした…。」
「そうですか…。
まあ、同席して欲しければ、
おそらく、陽香さんは自分でリクエストすると思いますよ。」
「やはり、親が居ると話しづらいということなんですかねぇ…。」
「それは、陽香さんにしか、わかりませんが…。
でも、陽香さんも、もう大人ですから、
あまり、子ども扱いしないほうがいいかも、ですね。
時が来れば、陽香さんのことだから、
きっと、お母さんたちにも、自分の言葉で話すと思いますよ。」
「そうですか…。
それなら、いいんですけど…。」
「おそらく、私に話すことで、
自分の判断が正しかったのかどうか、
確かめたいんじゃないかと、思いますよ。」
「確かめたい?
先生には、陽香の話の内容が、
ある程度、見当が付いているんですか?」
「いや、
もちろん、陽香さんから聞いてみないことには、わかりませんが…、
でも、なんとなくの予想と言うか…、
ある程度は、こういう話なのかなぁ、というのはね…。」
「そうなんですか…。」
「いや、でも、単なる感覚というか…、
予想ですから、もちろん、外れる可能性も大ですから…。」
「そうですか…。
でも、陽香にも、こうして話を聞いてくださって、
あの子も、自分から、話をしてみようというお相手が見つかって…。」
「そうですね…。
その点は…、自分で言うのもなんですが…、
陽香さんとは、いろいろと深い話というか…、
大人の話もできるようになってきていますので(笑)。」
「そうですか…。
では、明日、よろしくお願いします。」
「ええ。わかりました。
あ、それから、お母さんね。」
「あ、はい。」
「もちろん、明日の陽香さんの話の内容とか、方向性次第なんですが…。」
「ええ。」
「仮に、不登校の原因・理由がわかっても、
陽香さんは、最終的に、学校に戻るという選択をしないかも、ですよ。」
「え?
どういうことですか?」
「うん。
飽くまでも、陽香さんが何を話し、
何を考えているか、なんですが…、
可能性として、そういうこともあるかも、ということで…。」
「はあ、そうですか…。」
「ちょっと、がっかりですか?」
「あ、いえ、そういうことでもないんですが…。
ただ、なんで先生が今、それをおっしゃったのか、と思いまして…。」
「あ、そうですか。
いや、以前のお母さんは、学校に行くことがいいに決まってる、
と、考える傾向があったと思うんですけど、
でも、最近は、陽香さんのことを、ちょっと距離を置いて、
客観的に見れるようになってきて…、
なので、今では、陽香さんにとって、
いったい何が一番いいことなのかな、と考えられるようになった、
と、おっしゃってましたよね?」
「あ…、はい。
そんなお話もしましたね。」
「でも、
頭では、そう考えても、
実際には、なかなかそう簡単にはいかない、ということですか?」
「ええ。
まあ、そうなんだと思います。
でも、とにかく、陽香が自分で考えて、動き出してくれているので…、
今は、陽香のそういった考えや行動を尊重しなきゃいけませんよね?」
「そうですね。
まあ、そうだと思います。
とにかく、明日、話してみますので。」
「はい、何卒よろしくお願いします。」
「はい、わかりました。
それでは、また。」
「あ、はい。
ありがとうございました。」
この続きは、こちら。
神奈川県立逗子高等学校教諭を経て、1995年度から神奈川県教育委員会生涯学習課にて、社会教育主事として地域との協働による学校づくり推進事業に携わる。
その後、神奈川県立総合教育センター指導主事、横浜清陵総合高校教頭・副校長を経て、2008年度から高校教育課定時制単独校開設準備担当専任主幹。
2009年11月、昼間定時制高校の神奈川県立相模向陽館高等学校を、初代校長としてゼロから立ち上げ、生徒に良好な人間関係構築力とセルフ・コントロール力育成をコンセプトとして学校経営に当たる。
2012年4月から神奈川県立総合教育センター事業部長を経て、2014年3月に神奈川県を早期退職後、学校法人帝京平成大学現代ライフ学部児童学科准教授として、教員養成に携わる。
2018年3月に大学を早期退職し、同年4月に、大学勤務の傍ら身につけた新手技療法「ミオンパシー」による施術所:「いぎあ☆すてーしょん エコル湘南」を神奈川県茅ケ崎市にオープンし、オーナー兼プレイングマネージャーとして現在に至る。
(社)シニアライフサポート協会認定 上級シニアライフカウンセラー。
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