創作読物101「誰も、不幸せになることは、望んではいない」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「エコノミックアニマル?

 なんですか?それ。」

「ああ、そうか。

 今はもう、死語なのかな(笑)。

 もう、50年以上に前に言われたことだからね。」

「言われた?」

「うん。

 昭和40年頃だから…、

 そうだ、東京オリンピックが開催された頃だね。

 その当時の日本、と言うか、日本人て、

 結局、戦争に負けたからだろうけど、

 経済戦争では、欧米やソ連に、なんとか勝とうとして…、

 あ、ソ連は、今のロシアね。」

「ええ。」

「会社員は皆、モーレツ・サラリーマン化して…、

 つまり、金儲けのために必死になると言うか…、

 その姿が、外国人から見ると、動物的に映ったんだろうね。」

「それで、

 エコノミックアニマル…、ですか…。」

「うん。」

「ちょうど、高度経済成長って言われた時期と重なるんですか?」

「あ、高度経済成長ってのは、知ってんだ(笑)。」

「ええ。

 それは、教科書に載ってたんで(笑)。」

「そうだ…。

 エコノミックアニマルで、思い出したけど、

 さっき、人が死ぬ時には、いくつかのことを後悔する、って話。」

「ええ。」

「まだ、一つしか言ってなかったね。」

「ええ、そうですね。」

「これ、本にもなってるから、

 ちゃんと伝えておくとね…。」

「はい。」

「オーストラリアのホスピスに勤めていた介護士で、

 ブロニー・ウェアという人が、死ぬ瞬間の5つの後悔って本を

 書いたんだけど…。

 あ、ホスピスってわかる?」

「あ、ええ…、

 癌の患者さんとかが、入る所ですか?」

「そうだね。

 それも、もう末期の人ね。

 緩和ケアとか、終末期ケアとか、言うんだけど…。

 つまり、癌とかで、もう最期が近い人が、

 できるだけ苦しまないで、亡くなっていく、

 そのためのケアをする専門病院だね、ホスピスって。」

「ちょっと、

 どんな所なのか、イメージが湧かないですけど…。」

「うん。

 そこで、ブロニーさんは、

 まさしく、死を目前に控えた人たちに、

 自分の人生を振り返って、いざ、あの世に行くという時に、

 どんな思いを抱いているか、インタビューしたんだね。」

「うーん。

 なんか、厳粛な感じがするけど…、

 辛い仕事でもありますね…。」

「そうだね。

 で、詳しくは、本をぜひ読んでほしいんだけど…、

 要約すると…、人が死ぬ間際に抱く後悔は、強い順から、

 自分に正直な人生を生きればよかった、

 働き過ぎなければよかった、

 思い切って自分の気持ちを伝えればよかった、

 友人と連絡を取り続ければよかった、

 幸せを諦めなければよかった、

 の5つなんだって。」

「…はぁ…。」

「ちょっと、消化するのが難しいでしょう(笑)。」

「そうですね(笑)。

 わかるのもあるけど…、

 よくわからないのも、ありますね。」

「じゃあ、順番に考えてみようか…。」

「ええ。」

「まず、幸せを諦めなければよかった、か。

 陽香さんは、人って、何のために生きてるって思う?」

「え?

 何のために…、

 急に聞かれても…、

 と言うか…、改めてそう聞かれると、

 あまり、考えて来なかったと言うか…。」

「そっかぁ。

 もちろん、人それぞれって言ってしまえば、それまでだろうけど、

 でも、間違いなく言えることは、

 人は、幸せになるために生きているんじゃない?」

「まあ、そうですね。

 誰も、不幸せになることは、望んではいないですからね。」

「だよねぇ。

 つまり、人の一生って、幸福追求のプロセスって、

 言い換えてもいいんだろうね。」

「幸福追求のプロセス、ですかぁ。

 なるほどぉ。」

「でもね、

 幸せを諦めなければよかったと、後悔する人が多いということは…。」

「途中で、諦めちゃう人が多いってことなんですかね。」

「うん。

 そうなんだろうね。

 もちろん、幸せの中身と言うか…、

 その人が、どういうことが、どういう状態になることが、

 幸せと思っているかは、人によって違うんだろうけど…、

 でも、いずれにしても、いつからか、幸せを追い求めることを、

 諦めると言うか、断念しちゃうってことなんだね。」

「なんか、それって、

 ムヒカ大統領の言葉にも、通じてますね。

 人生とは到達することでなくて、倒れるたびに起き上がることだ、って。」

「おう、そうだね。

 転んだまま、再起を諦めちゃう人が多いってことなんだろうね。」

「ムヒカ大統領は、幸福を掴むことが目的でなく、

 幸福を追求することに価値を見出してるんでしょうけどね。」

「最終的に、幸福を掴めるかどうかよりも、

 それを追い求め続けることが、幸せなんだ、ってことだね。」

「うーん。

 深いですね。」

 

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