創作読物123「世間体が悪いから、中退を許せない」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「あ、もしもし、藤井先生ですか?」

「あ、陽香さん?」

「はい。

 今、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。」

「あのあと、平井先生と連絡がついて、

 今度の金曜日の18時から、ということになったんですけど、

 先生、大丈夫ですか?」

「えーと…、

 ああ、大丈夫だよ。」

「ありがとうございます。

 では、金曜日に伺いますね。」

「あ、ちょっと待って陽香さん。」

「はい?」

「うん、金曜は30分前ぐらいに来れるかな?」

「あ、はい。

 大丈夫ですけど…、

 何か?」

「うん。

 ちょっと平井先生が来る前に、

 聞いておきたいこともあるので…。」

「あ、そうですか。

 はい、わかりました。

 では、5時半には着くように伺います。」

「了解。

 では、そういうことで。」

「はい、では失礼します。」

「はい。」

 

                                    

(金曜日)

 

ピンポーン。

「あ、陽香さん、いらっしゃい。

 早かったね。」

「ちょっと早かったですかね?」

「いや、大丈夫だよ。

 じゃあ、上がって。」

「はい。

 失礼します。

 あ、これ母からです。

 お口に合うかどうか、気にしてましたけど…。」

「あれ、なんか悪いね。

 何だろ?」

「なんか、お豆のお菓子って言ってました。」

「あ、そう。

 ありがとう。帰ったら、お礼言っといてね。」

「あ、はい。」

「さて、じゃあ、今日はお茶でいいかな?」

「あ、はい。すいません。」

 

「はい、どうぞ。

 これ、戴き物だけど、早速開けちゃっていいかな?

 3人で食べながら話そうよ。」

「そうですね(笑)。

 ところで、平井先生が来る前に、聞いておきたいことって、何ですか?」

「あ、そうだね。

 陽香さんのお父さんのことだよ?」

「お父さん…、ですか?」

「うん。」

「父の何を?」

「うん。

 ほら、このあいだ、高校辞めて認定試験受けるって、

 陽香さんが伝えた時に、お父さんは反対されたって聞いてね。」

「ああ、そのことですか。

 でも、いつものことなんで、別に大丈夫なんですよ。」

「うん。

 飯塚家では、いつものことなのかもしれないけど、

 たぶん、平井先生は気にするんじゃないかと思ってね。」

「平井先生が…ですか?」

「うん。

 受験自体は、平井先生も反対はしないと思うんだけど…、

 でも、お父さんが反対してるというのを聞けば、

 担任としては、ちょっと困るのではないかと思ってね。」

「そうですか…。

 そうかもしれないですね。

 両親のうちの一人が反対なのに、

 受験を勧めるというのは、ちょっと躊躇しちゃいますよね。」

「うん。

 で、お父さんはどんな理由で反対されてるの?」

「いえ、

 この前も言ったとおり、

 特に理由があるわけじゃなくて…、

 とにかく、あまり深く考えもしないで反対してるんです。」

「でも、お父さんなりに何かがひっかかってるんじゃないのかね?」

「たぶん、世間体とか…、だと思います。

 とにかく、普通と違うことを極端に嫌うので。

 臆病なんですよね。」

「じゃあ、受験することが反対ということ以前に、

 高校を中退することを反対してるわけ?」

「ですね。おそらく。」

「おそらく?」

「ちゃんと言わないから。

 とにかく駄目だ、の一点張りなんで。

 でも、たぶん、世間体が悪いから、中退を許せないんだと思います。」

「そうか…。

 でも、平井先生も、中退については反対するかもよ。」

「え?

 何故ですか?」

「だって、高校を辞めなくても、

 在学しながら、高校卒業程度認定試験は受けられるからね。」

「ああ…、

 それは、そうなんですけど…。

 実は、今日、平井先生と藤井先生に、

 そのことをお話ししようと思って来たんです。」

「それは、何故、高校を中退するかという理由?」

「ええ。

 そうですね。」

「そうなんだ。

 じゃ、この話題は平井先生が来てからのほうがいいのかな?」

「そうですね。

 そのほうがいいです。」

「わかった。」

「じゃ、先生の到着を待とうか。」

「はい。」

 

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