創作読物 42「薬の副作用の結果」

 

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

前回は、こちらから

 

「うーん。

 実は、これは…、

 ほんとショッキングな話なんだけど…ね。」

「ええ。」

「実は…、

 友達が正月に会った2年後ぐらいに…、

 M君は…、死んじゃったんだよ…。

 自殺して…。」

「えっ?

 マジですか?」

「うん…。

 そうなんだ。」

「え?

 なぜですか…?

 何があったんですか?」

「うん。

 まあ、友達経由の話だし…、

 だから、確かなことは、あまりわからないと言えば…、

 わからないんだけど…、

 でも、話を総合すると、やっぱり…、

 薬の副作用の結果ってのが、一番わかりやすいみたいなんだよね。」

「具体的には、どんな感じだったんですか?

 もちろん、わかる範囲でいいんですけど…、

 教えてくれませんか?」

「うん。

 さっき言ったように、ハルシオン飲んでたでしょう?」

「ええ。」

「あれって、やっぱり、依存性が強いって言うか…、

 だから、M君も徐々に飲む量が増えて…、

 たぶん、しまいには医者が言った量以上に、

 自分で勝手に飲んでたんだろうね。」

「そうなっちゃうんですか…、やっぱり…。」

「うん。

 だから当然、副作用も出るでしょ?」

「でしょうねぇ。

 オーバードーズってやつですよね?」

「そうだね。

 M君の場合もね、記憶障害っていうか…、

 なんか、仕事中も、ぼっーとしてる時が多くなって…、

 指示された簡単なことも、忘れちゃうというか…、

 頭に入らないんだろうね。よくミスってたらしいんだ。

 で、上司とか、先輩によく、どやし付けられてたみたいで。」

「薬のせいなら、本人も訳わかんなかったんでしょうかね?

 ほんと、怖いですね。副作用って。」

「で、それだけでなくて…、

 被害妄想っていうのかなぁ…、

 よく、自分の物が盗まれるって、上司に訴えたりね。」

「え?どういうことですか?」

「うん。

 たぶん、自分がどこかに置き忘れたとか、

 あるいは最初から持ってきてないんだろうけど…、

 やれ、財布がなくなった、とか…、

 やれ、何かが盗まれた、だとか…、

 同僚とか、先輩の仕業だから、何とかしてくれって、

 訴えてたらしいんだよ、上司に。」

「でも…、

 そんなことしてたら、ヤバいんじゃないですか?

 職場で恨みを買うとか…。」

「だよね。

 なので、次第に、村八分というか…、

 無視されたり、相手にされなくなって…。」

「うーん。

 なんか、眼に見えるようですよねぇ。」

「で、そうこうしてるうちに、

 同僚と取っ組み合いの大喧嘩したのが決定打となって…、

 結局、会社を辞めさせられちゃったらしいんだ。」

「うわ、

 最悪ですね。

 で、それからM君は、どうしたんですか?」

「うん。

 東京を引き払って、栃木の実家に戻って…。」

「自宅療養ってことですか?」

「自宅療養かぁ。

 まあ、療養になれば良かったんだろうけど…、

 なにせ、父親とは相変わらずだったらしいから…。」

「じゃあ、むしろ、だんだん病状が悪化していったということですか?」

「そうなんだろうね。

 なんかね、その頃から、夜中によく大声を出すようになったらしくて…。」

「え?

 父親にですか?」

「いや、そうじゃなくて…。

 なんか、自分の部屋のベッドで、静かに寝てるかと思ったら、

 急に、何かに怯えるように…、

 止めてくれ!止めてくれ!って、叫び出すんだって。」

「え?どういうことですか?それって。」

「うん。

 たぶん、幻覚とか幻聴じゃないかな。」

「幻覚とか幻聴?」

「おそらくね。

 これも薬の副作用なのか、

 あるいは、薬が切れてしまって…、

 禁断症状なのかはわからないけど…。」

「飲んでも、飲まなくても、害があるってことですか?」

「うん。

 睡眠薬なんかを飲んでて、

 それを勝手に止めたりすると、

 かえって不安が増したり、ってことはあるみたいなんだよね。」

「そうですか。

 もう、そうなると、薬中って言うか…、

 あ、いや、ほとんど薬物中毒ですね。」

「クスリはリスクだ、なんて、冗談ぽく言う人がいるけど、

 ほんと、薬ってのはねぇ、怖いんだよね。」

「そうですね。」

「昔、誰かが言ってたけど…、

 ほんとかどうか、わかんないけど、

 あの覚せい剤ね、覚せい剤中毒になると、

 なんか、自分が鳥のように、空飛べるようになるって思っちゃって…。

 高い所を好んで登ったりね…。」

「そうなんですか?」

「でね、

 よく、高い所から飛んで…、

 落ちて死んじゃったりするらしい。」

「あ、そういうことなんですね。」

「それから、よく人を傷つけたりするでしょ、殺傷事件起こしたり。」

「ええ。」

「あれもね、

 なんか、ちょっと誰かと眼が合ったりすると、

 自分を睨んだり、危害を加えようとしてるって、

 勝手に思い込んじゃうんだって。

 まあ、被害妄想なんだけどね。

 それで、やられる前に、やっちまおうって…。」

「いやあ、怖いですねぇ。

 それ、みんな、薬のせいですよね。」

「うん。

 だから、M君の最後もね…。」

「ええ。」

「その日は、家で昼寝してたらしいんだけど…、

 夕方近くに、急にやっぱり大声出して、飛び起きて…、

 そのまま、家を出てっちゃったんだって。」

「で、どこに行ったんですか?」

「どこを、どう通ったかは、わからないけど、

 裸足のままだったけど、かなり走ったのかな。

 家から1キロぐらい離れた所に、

 ちょっと大きなデパートがあるんだけど…。

 結局、その屋上からね…。」

「…飛び降り…、ですか…?」

「うーん。

 飛び降りたのか…、

 誤って、足を滑らせたのかは、わからなかったらしいけど…。」

「…うーん。

 なんか…、ショックというか…、切ないというか…、

 でも…、可哀そうですねぇ…、M君。」

「そうだね…。」

「なんか…、

 変かもしれないですけど…、

 もうちょっと、何とかならなかったんですかねぇ。

なんか…、僕なんか、M君に会ったこともないのに、

 無性に腹が立ってきたというか…。」

 

(つづく)

 

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